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"ウソっぽいネタ"の拡散が気持ちいい理由

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なぜ正しいニュースよりも、「ウソっぽいネタ」のほうが、より強く拡散してしまうのか。国際基督教大学教授の森本あんり氏は「荒唐無稽な話を広める人は、内容が事実でなくても構わないと思っている。なぜなら自分が納得できることが正しいと捉えているからだ。その『自分は正しいことを言っている』という意識は、酔いしれるような強い快感をもたらす」と分析する――。

■人を惹きつける「陰謀論」

世界の各地で、ポピュリズムが急速に政治的な発言力を増している。ポピュリズムの陰には、しばしば陰謀論も見え隠れする。アメリカでは、陰謀論を唱える「QAnon(Qアノン)」という不気味な集団がトランプ支持者たちの間で広まっている。日本では、ブログの呼びかけを背景に「反日」「在日」と決めつけられた弁護士の懲戒請求が各地の弁護士会に出された事件も発生した。陰謀論の素地や特徴はそれぞれ違っていても、彼らの掲げる主張はみな単純でほとんど荒唐無稽である。

だがそれでも、こうした主張は人びとを惹きつける強い魔力をもっており、いったん信じた人はその筋書きを熱狂的に支持するようになる。なぜ人びとは、それほどまでに陰謀論に魅せられてしまうのだろうか。そして、なぜ「事実」は、それらの人びとの誤った思い込みを正す力をもたないのだろうか。

■交通系ICカードの金額をチェックする人はいない

宗教社会学の用語で言うと、これは「信憑性構造」の問題である。それぞれの文化や社会には、誰もが当然と思って疑わない常識や前提というものが数多く存在している。それらは、正常に機能している間は誰の意識にも上らない。自らの存在を意識させずに機能しているものこそ、その社会の「正統」なのである。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/sharpshutter)

ところが、いったんそれが問題となって人びとの意識に浮上すると、この認識構造に大きな変化が現れる。潜在していたものが顕在化し、それまで気がつかなかった力が自分を含むすべてのものを支配していたことに思い至ると、システムそのものに対する疑念が広がり、一挙に陰謀論の土壌ができてしまうのである。いわば、パソコンに不具合を起こした原因が個々のアプリケーションではなく、その土台となっているOS(オペレーティングシステム)だった、ということを発見した時のようなものである。

たとえば、われわれは電車に乗る時に交通系ICカードを使うが、改札口を通るたびに差し引かれる金額が本当に正確かどうかをチェックする人はいないだろう。これは「まさか鉄道会社が一回ごとに数銭をかすめ取るようなことはしないはずだ」という前提に支えられて乗車しているからである。

われわれの日常生活には、このような疑われざる前提が無数に存在しており、それが全体として社会の信憑性構造を形作っている。その一つ一つを疑わなければならないとしたら、まことに住みにくい社会となってしまうだろう。

■人が求めるのはカネだけではない

宗教学的に見ると、ポピュリズムや陰謀論には人間の本来的な欲求が関わっている、と言うことができる。このことを、日頃われわれがよく使っている、ある経済用語の歴史を振り返ることで考えてみよう。

英語に“interest”という言葉がある。これは「利子」「利潤」などという意味と、「興味」「関心」という意味とをもっている。自分がもうかる話には、誰でも興味や関心をもつものだから、この2つの意味がつながっていることは理解できる。

しかし、この言葉にはもう少し深い意味もある。『オックスフォード英語辞典』によると、“interest”の最初の用例は15世紀半ばにさかのぼり、それは「あるものに客観的に関わらしめられていること」(being objectively concerned)という意味であった。つまり「何かに興味をもつ」という認識のあり方ではなく、「その人が対象と関わりをもち、対象に参与する」という存在のあり方を示す言葉なのである。

どのような関わりか。同辞典によると、その内容には「霊的な特権」(spiritual privileges)が含まれる。たとえば17世紀のピューリタン神学者が「神の恵みにインタレストをもつ」と言えば、それは単に神の恵みに興味があって眺めている、という意味でなく、自分という存在がその恵みにあずかる者となる、という意味である。つまり、「インタレスト」は、単に「経済的な利益」だけでなく、個人の「物質的な幸福」を越えた、精神的な参与を含む願望を意味していたのである。

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