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日産・金商法違反事件-前会長らへの勾留請求却下と裁量保釈について

日産の前会長らに対する(被疑者としての)勾留延長請求が却下され、前会長らには(追起訴予定分を含む被告人としての)裁量保釈が認められる可能性が出てきたと報じられています。20日の夜には検察の準抗告も棄却された、とのこと。

これに対し、フランス政府がこの展開に驚いている、検察幹部が「そんなバカなことがあるか!」「裁判所は何を考えているんだ!信じられん!」との声が上がっている、「ほらみろ、これで無罪の可能性が濃厚だ!」といった有識者の声が出ているといった報道もみられます。大きな事件の動きではありますが、ちょっと冷静に考えたほうがよいと思います。

司法制度改革として裁判員裁判が始まった2000年以降、とりわけ令状部裁判官の論文(いわゆる「松本論文」)がジュリストに掲載された2006年ころから、検察官による勾留請求の裁判所における却下率はきわめて高くなっています(たとえば2003年と2016年を比較しますと、勾留請求の却下率はなんと8.6倍も増加!)

ましてや今回は勾留延長請求ということなので、却下される可能性が(そこそこ)高いことは検察も前会長らの弁護人の方々もご存じのはず。裁判員裁判は事前の争点整理が必須であり、早期に被疑者・被告人と弁護人との意思疎通が確保される必要性が高まったため、従来の勾留や保釈の運用を見直そうという機運が裁判所で高まったわけです。

この流れは裁判員裁判だけの問題ではありません。平成26年、27年と、最高裁は痴漢事件や横領事件の被疑者勾留(刑事訴訟法60条1項、同207条1項)についても、勾留請求を認めない決定を立て続けに出しています。その理由としては、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれについて、被疑者に具体的な危険性が認められなければ勾留の必要性(ひいては勾留理由)は認められないから、というものです。

つまり、それまでの実務運用は「証拠を隠すようなことをする抽象的な危険性が認められれば勾留する」というものでしたが、もっと具体的な危険性が必要になりました。たとえば検察側で「この被疑者は●●の事実があるので証拠の隠滅の具体的な危険性が高い」ということを令状裁判官に示してナットクしてもらわなければ勾留は認められないのです。このような事情も、特捜部検察官や前会長らの弁護人の方々は当然認識されているはずです。

そして(なんといっても)今回の刑事事件は、今年6月に施行された日本版司法取引(改正刑事訴訟法上の協議・合意制度)を検察が活用している、という点です。この改正の根拠である「刑事訴訟法の一部を改正する法律」(平成28年6月3日法律第54号)では、刑事審理における証拠開示の拡充を図り、それとともに裁量保釈(刑事訴訟法90条)の判断にあたって斟酌すべき事情を明確化する改正がなされています。

同法には国会の附帯決議もなされ(たとえば参議院附帯決議四)、保釈の判断にあたっては被告人が否認していることや、証拠価値を認めないことをもって不当に不利益を与えるような運用がないように(政府および最高裁は)努めよ、と立法府が政府や司法に要請しています(これは重い!)。

もちろん、この点は裁量保釈に関する論点ですが、日本版司法取引の運用において(先に述べた裁判員裁判の争点整理と同様に)、「他人の犯罪」(本事件では前会長らの犯罪)に関与する弁護人は、日本版司法取引による「他人を不当に犯罪へ巻き込むことを防止するため」に、早期に迅速な防御権行使が要請されています。

したがって、日本版司法取引が制度として開始された以上、弁護人と被疑者との十分な意思疎通を可能とするため(たとえば合意内容書面に基づく証拠の信用性を吟味するため)、早期に被疑者や被告人の身柄を解放する必要性が高いことは、裁量保釈に関する運用だけでなく被疑者勾留の運用についても同じだと考えられます。そこで、勾留請求に関する裁判官実務の運用にも変化が生じて当然ではないでしょうか(これも関係者の皆様には釈迦に説法のようなお話かとは思いますが・・・)。

このような事情から、一般事件でも保釈率は極めて高くなっており(こちらも勾留請求却下と同様、平成26年、27年に「罪証隠滅のおそれが高い」として保釈を却下した高裁決定をひっくり返す最高裁決定が出ています)、そこに平成28年の刑訴法90条改正(保釈の運用)、同350条の2以下の改正(日本版司法取引)の施行開始という事情が重なるわけですから、(外国人が被告人であるため、一定の条件が付されることは当然としても)特別背任や横領といった別理由による身柄拘束がなされない限り、追起訴後の裁量保釈が認められる可能性は高いと思料いたします。すべては中立・公正な刑事審理のため、ということだと思います。

このように考えますと、(特捜部による)勾留延長請求が却下されるのは異例とか、日本の刑事手続制度に諸外国が驚愕とか、裁判所の予想外の判断に検察幹部が憤っているといった報道は「ちょっと違うのでは・・・」と思いますし、むしろ司法制度改革の下での最高裁の判断の明確化や刑事訴訟法の改正といった流れの中で、普通に勾留請求が却下され、裁量保釈が容認されやすい環境が整った、というだけのことかと。

また逆に、上記のような流れなので、起訴された有価証券報告書の虚偽記載罪が認められにくくなったとか、裁判所の心証が伺い知れた、といった判断もちょっと違うような気がいたします。本事件への私の関心は、もっぱら有罪か無罪か・・・という点にありますが、刑事手続に関する世間の関心が高まりましたので(刑事法には素人ながら)コメントさせていただきました。

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