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米国がここまで中国ハイテク企業を〝恐れる〟理由 国防は経済に優先する - 國分俊史 (多摩大学大学院教授)

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2018年4月、米国は中国・中興通訊(ZTE)に対し、米企業との7年間の取引禁止の制裁を発動(7月に解除)した(BLOOMBERG/GETTYIMAGES)

米国は2018年4月、通信機器大手の中国・中興通訊(ZTE)に対し、米企業との7年間の取引禁止の制裁を発動した(7月に解除)。この影響でZTEの2018年1~9月期決算は1170億円の赤字に転落した。

また、米国は2018年8月に2019年度国防権限法を制定し、米政府の情報システムの調達企業から華為技術(ファーウェイ)、ZTE、ハイテラ・コミュニケーションズ、ハイクビジョン 、ダーファ・テクノロジーという中国企業5社を排除した。

さらに同法には、ファーウェイ、ZTEの通信関連機器やサービスを「実質的、本質的に利用している企業との米政府機関の取引禁止」という項目も追加され、米政府と直接契約を結ぶ企業だけでなくその企業の三次サプライヤーまで、この2社の製品やサービスの不使用をチェックすることになった。

これは北米市場において、米政府機関および米政府機関とビジネスをしている企業との取引を継続したい企業は、日本国内においても情報システムに2社の製品やサービスを利用できなくなったことを意味する。

なお、2005年にIBMのパソコン事業部を買収した中国のレノボは、その後すぐにファイブアイズ・カントリーズ(情報共有の枠組みを一にする米、英、豪、加、ニュージーランド)のインテリジェンス機関で利用が禁止され、2006年には米政府の機密情報の取り扱い機器から除外されている。2016年には米空軍においても軍のネットワークからレノボ製品を排除する指示が流れた。こうした動きを踏まえると、レノボも米政府の「取引禁止リスト」に追加される可能性が高まっている。

2018年10月にはペンス副大統領が中国との冷戦開始を宣言したと世界から受け止められる声明を発表した。ペンスは40分にわたる演説の中で、これまで米国がとってきた中国政策が意図した結果に結びつかず、今後は方針を変えて中国に対決姿勢で挑まなければならない理由を説明した。

18年10月にあった米ペンス副大統領の演説は、中国との冷戦開始を宣言したと世界から受け止められた(BLOOMBERG/GETTYIMAGES)

これについてクリントン政権の大統領経済諮問委員会のメンバーで、当時、日米経済摩擦に携わった米ピーターソン国際経済研究所のマーカス・ノーランド副所長が10月に来日し、「ペンスの演説は省庁としっかりと連携して策定されたものであり、米中冷戦のスタートを政府として宣言したと受け入れるべきだ」と明言した。

米中貿易戦争の下地は実は前政権から構想されていた。オバマ政権末期から中国やロシアに対抗するために、米国はもっと戦略的に安全保障政策と経済政策を一体化し、他国への影響力を発揮する「エコノミック・ステイトクラフト(ES)」を展開すべきという提言が、複数のシンクタンクから出されていた。米国がZTEを狙い撃ちして半導体の供給をストップした結果、中国のハイテク産業育成政策「中国製造2025」の推進を遅らせられることを見せつけたのは、まさに準備されていたESの発動であった。

米国の動きは矢継ぎ早に展開された。2018年11月には米中経済安全保障再考委員会(USCC)が中国のハイテク技術が米国の安全保障リスクになると警告するレポートを報告。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」や5Gなどの次世代通信で中国が国際標準を握って市場を席巻すれば「米国のデータが吸い取られる」「中国政府が米国の情報を収集する広大な権限を得ることになる」と警鐘を鳴らした。

そしてウォール・ストリート・ジャーナルの報道では、この直後に米政府は、日本、ドイツ、イタリアなど米軍基地を置いている他国に対し、ファーウェイの使用を控えるように政府と通信会社に対して働きかけを始めたという。その結果か、2018年12月、日本政府は中央省庁や自衛隊による情報通信機器の調達について、安全保障上のリスクがある場合19年4月以降に調達しない方針を決めた。「リスク」について中国企業を念頭に置いていることは間違いなく、12月18日時点の報道によると。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯電話大手3社も5Gの基地局などに中国製品を使わない方針を決め、そのうちソフトバンクについては、現行の「4G」の設備についても、ファーウェイなど中国製の基地局をなくす方針を固めたという。

米国では中国企業が通信機器にバックドア(裏口)を仕掛け、米国の知的財産に関する情報を抜き取ったり、重要な社会インフラを攻撃して市民生活を麻痺させるリスクが高まっているという認識がある。

米国が特に目の敵にするのが中国の「5G」技術の進展だ。5Gに関する技術や製品は、ネット検閲のシステム「グレートファイアーウォール」の中で圧倒的な情報通信量を制御してきた中国企業が多くの特許と技術運用経験を有している。そのため、中国企業の技術と製品供給力がなければ実現が難しいという見解が専門家の間での常識となっている。ある民間調査会社によると17年時点での1万人あたりの5G基地局数は中国が約14万基あるのに対し、米国は4万7000基にとどまっている。

5Gの基地局ネットワークを米国に作るにしても、廉価な中国企業の部品や製品を使わなければ米国でインフレが起きると警告する有識者も多い。しかし、アダム・スミスが国富論で喝破した「国防は経済に優先する」という安全保障の大原則を徹底した「ペンス演説」を見れば、それが楽観的な観測であると言わざるを得ない。米国が劣勢にある5Gだが、中国に追いつき追い越すまで、中国の独走と技術発展を徹底的に止めようとするだろう。

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