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退位イヤーを前に池上彰氏が解説「天皇とはどんな存在か」

NHK時代には宮内庁も担当(撮影/上野ヒトシ)

 この年末年始は日本人にとって特別な節目になる。あらゆる行事が“平成最後の”と形容され、いよいよ今上天皇から代替わりする日が近づいてくる。ここで少し考えたい。果たして我々はどれだけ「天皇」のことを知っているだろうかと。NHKの記者時代に宮内庁も担当した池上彰氏が、解説する。

 * * *

 いよいよ平成最後となる年末年始がやってきます。

 1月2日の一般参賀にはいつも以上の人が集まることでしょうし、私も取材に行くことを決めています。

 2019年4月30日に今上天皇は退位され、5月1日に新しい天皇が即位されます。2016年7月に「天皇陛下が生前退位の意向」とNHKがスクープしてから紆余曲折を経て、ついに退位イヤーを迎えるのです。

 天皇の退位があらかじめわかっていて、生前のうちに準備を重ねて代替わりするのは、現存する世界最古の王室としてギネスブックに登録される日本の皇室の長い歴史の中でも異例のことです。

 歴史的な退位に向けた最近の動きでひときわ注目すべきは、2018年11月30日に公開された秋篠宮53歳の記者会見です。

 秋篠宮さまは、2019年11月14日に行なわれる大嘗祭(だいじょうさい)について「宗教色が強い」として、公費支出に異議を唱えました。想定外の出来事に宮内庁記者は驚き、発言を大きく報じました。

 天皇の行なう宮中祭祀の中で最も重要な儀式とされるのが、飛鳥時代から続く収穫のお祭り「新嘗祭(にいなめさい)」です。天皇が即位後初めて行なう新嘗祭を「大嘗祭」と呼び、特別にお祀りをします。来年の大嘗祭には、公費22億円が予算として計上されています。

 さらに秋篠宮さまは、「言ってみれば(宮内庁長官が)話を聞く耳を持たなかった。そのことは私は非常に残念なことだったなと思っています」と異例の発言が波紋を広げました。

 なぜ、秋篠宮発言に注目すべきなのでしょうか。詳しくは後述しますが、この会見が、天皇や皇族が抱えている様々な問題を提起しているからです。

 天皇や皇族の役割や権能は、憲法はじめ様々なルールや慣習で規定されます。

 普段、私たちはあまり意識しませんが、皇室は、長い歴史において様々な経験を積み重ね、わが国の文化や慣習に大きな影響を及ぼしています。それゆえ天皇や皇室について知ることは、憲法や政治のあり方、日本の国柄や歴史を考えることにつながります。

 今の日本人に必要なのは、退位という歴史的なイベントを前に、あらためて天皇や皇室を学ぶことです。それは、私たち自身を知ることでもあるのです。

■天皇とは何なのか

 日本国憲法第1章第1条は天皇をこう規定します。

〈天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く〉

 明治憲法では「天皇ハ神聖ニシテ侵スへカラス」とあり、天皇の存在は絶対にして不可侵でした。対して戦後の日本国憲法は、天皇の地位は「日本国民の総意」に基づくものと定めます。要は、国民みんなが支持しているから、天皇という地位にいるということです。

 何ともわかりにくいのは「象徴」という言葉ですが、英語では「シンボル」。「鳩は平和のシンボル」と言うように、鳩は平和を象徴しています。それと同じように、天皇は日本のシンボルであると言われます。

 象徴の意味について、最も考え抜かれたのが、現憲法のもとで即位した今上天皇です。常に弱い立場にある人を思いやり、福祉施設や災害被災地を訪れては、一途に国民の声に耳を傾け、思いに寄り添う天皇の姿を見て、どれだけの人が勇気づけられたでしょう。

 その積み重ねの中で、「日本国の象徴、国民統合の象徴とはこういう活動をされる人のことなんだ」との理解が国民に広まりました。

■天皇の仕事とは

 天皇の活動は一般的に、(1)国事行為、(2)公的行為、(3)その他の行為、の3種類に分けられます。

 このうち国事行為は憲法で定められ、天皇は国会を召集したり、衆議院を解散したり、大臣や最高裁判所の裁判官の任命を認証したりします。天皇には実際の政治をする力が与えられず、国事行為はすべて「内閣の助言と承認」を必要とし、「内閣がその責任を負う」と定められています。

 国事行為の多くは皇居内の「表御座所」の中でデスクワークとして行ないます。

 日にちは火曜日と金曜日の午後。それは、両曜日の午前中に開かれる閣議で決裁された書類に署名をしたり、許可印を押したりする必要があるからです。単なるルーティンワークと思う人がいるかもしれませんが、天皇は年間1000件を超える膨大な書類すべてに目を通し、納得したうえで署名捺印をされるそうです。

「公的行為」は、国事行為にはあてはまらないが、公的な意義がある活動です。

 国会の開会式への臨席や、春と秋に行なわれる園遊会、宮中晩餐や外国訪問など、活動は多岐にわたります。

「その他の行為」には、天皇の「お祈り」である宮中祭祀が含まれます。戦前の宮中祭祀は国家の重要な行事でしたが、戦後は政教分離の原則のもと、神道儀式は皇室の私的な活動と考えられるようになりました。

 先の誕生日会見で秋篠宮が提起したものの一つは、「宗教色の強い大嘗祭に国費を投入していいのか」という政教分離の問題でした。

■なぜ、政治的な発言をしてはいけないのか

 憲法第4条は「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」と規定します。このため、天皇の政治的発言は固く禁じられています。

 今上天皇は退位に伴う様々な行事を、なるべく質素にすべしとの意向を持つとされます。秋篠宮はその意を汲んで“もっと慎ましくあるべきでは”と呼びかけたのでしょう。

 とはいえ、大嘗祭に国費を用いるかどうかは政治の話であり、秋篠宮の発言は憲法に抵触する怖れがあります。識者の間では、秋篠宮は天皇ではなく、皇族なので発言権はあるとの意見がある一方、皇位継承順位が2位であることから、いずれ天皇になるかもしれない立場の方が政治的な発言をするのは問題があるとの意見もあります。

 難しいのは、今後、政府が大嘗祭の公費支出を見直せば、秋篠宮発言はまさに政府を動かした政治的発言となることです。かといって、政府が一切応じないでいると、あえて踏み込んだ発言をした秋篠宮の思いが黙殺されます。非常に皮肉な状態になっている。

 天皇は、日本国民の統合の象徴として様々な国事行為を担うと同時に、日本国民の安寧を願ってお祈りをする、神道のトップに立つ方でもあります。この「二面性」が天皇をめぐる様々な場面で、解きがたい難問として浮上するのです。

●いけがみ・あきら/1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、1973年NHK入局。報道局記者や番組キャスターなどを務め、2005年にNHKを退職。ジャーナリスト、名城大学教授、東京工業大学特命教授。著書に『池上彰の世界の見方 ロシア』『考える力がつく本』などがある。

※週刊ポスト2019年1月1・4日号

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