- 2018年12月19日 10:22
【読書感想】仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン
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Kindle版もあります。

作者: 横田増生
出版社/メーカー: 小学館
発売日: 2018/11/16
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内容(「BOOK」データベースより)
いまや日本最大の成長産業とも言われる宅配ビジネス。その一方で、アマゾンをはじめとするネット通販の「即日宅配」まで可能にする宅配業界の現場は、いままでベールに包まれたままだった。そこで著者は、宅配ドライバーの助手に扮し、あるいは物流センターのバイトとして働くという「潜入労働ルポ」を敢行する。アマゾン、ユニクロの内幕を暴いた「最も企業に嫌われるジャーナリスト」が描く、衝撃のビジネスノンフィクション。文庫化にあたり、本書をきっかけに発覚したヤマト、佐川の残業代未払い問題について追及した「残業死闘篇」を新たに書き下ろし。
そこに人がいて、手間がかかっているはずだから、「配送にかかるお金が無料」なわけがない。
宅配業者の仕事のキツさも、いろんなところで採りあげられている。
でも、自分が買う側になったら、やっぱり、「配送無料」に引きつけられてしまうんですよね。
著者は、「宅配の現場」を知るために、ヤマト運輸や佐川急便のドライバーに一日密着して一緒に仕事をしたり、大きな物流センターで働いたりして、この本を書いているのです。
宅急便に関わるトラックは主に二種類ある。各地で宅配便を届けるトラックを集配車と呼び、夜中に荷物の仕分け拠点である<ベース>の間を走る大型車を幹線輸送車と呼ぶ。
基本的な事柄を押さえておくと、<宅急便>というのはヤマト運輸の宅配サービスに対する固有名詞であり、一般名詞は宅配便となる。
このセンターは、ヤマト運輸の自社の集配車が四台あり、それに菊池(仮名)の軽トラ一台が稼働している。菊池と私がセンターに到着したとき、すでに四人のセールス・ドライバーは出勤しており、積み込まれた荷物を自分の運びやすいように荷台の上で調整していた。
センター内の荷物を見渡した菊池は開口一番こう言った。
「今日は100個か、せいぜい110個どまりかな。このセンターは少ないからなぁ」
1個当たり150円強で運ぶ菊池にとって、荷物が多いほど、その日の収入が多くなる。仮に100個運べば1万5000円強となり、200個なら3万円強となる。しかし、菊池が働く宅急便センターでは、一日100個前後しか軽トラに回ってこないのだ、という。
午前8時過ぎに、約70個の荷物を軽トラに積み込んで出発した。
荷物には、アマゾンや楽天ブックス、ゾゾタウン、ケンコーコムなどのネット通販のロゴの入った箱が目についた。ヤマト運輸にとって「最大手の荷主」となったアマゾンの荷物は全体の3~4割といったところか。
菊池が真っ先に向かったのは、、センターの裏手にある七階建てのマンションだった。350戸を超える戸数があるにもかかわらず、宅配ボックスの数は約20個と少ない。ここで荷物を配り終えたのは8時半前後で、宅配ボックスには6個入れた。
「ここのボックスを佐川や日本郵便に先にとられると、再配達となり手間がかかりますからね」
と、菊池はホッとした表情で語った。
その菊池の言葉を追いかけるように、日本郵便の下請けの軽トラ到着し、その直後に佐川急便の自社の集配車がやってきた。それから午前中に配達する個数を配り終えたのは、11時半ごろ。しかし、正午から午後2時という時間指定の荷物が1個あったので、配達先のマンションの下で30分ほど時間を潰す。少しぐらいなら早く届けてもいいんじゃないかと、私は思ったが、菊池は「お客さんによってはクレームになるから」といって律儀に指定時間を守った。正午を過ぎたところで、五階にある女性宅へと届け終えて、午前中の仕事が終了となった。
菊池の担当するエリアは約1キロ四方と狭い。ヤマト運輸の取扱荷物が多いため、ドライバー1人あたりの配送密度が濃くなっているからだ。
1日に100個とか110個なんて、ものすごい数ではあるのですが、この仕事に慣れていて、1個あたりいくら、という条件で働いている人にとっては「少ない」のですね。そりゃ忙しいよなあ。
おまけに、再配達になることもあれば、指定時間に合わせるための時間調整もある。
「宅配ドライバーたちの仕事の過酷さ」は、よく言われることだけれど、この本では、その具体的な様子がきちんと描かれているのです。
宅配ボックスは便利だけれど、数が限られているので、業者にとっては「取りあい」になってしまう。
一日の走行距離は15キロにも満たない。しかし、拘束時間は14時間近くとなった。1万5000円が日当とすると、時給は1000円強となる。しかし、そこから車両代やガソリン代、車検代や保険代など必要経費を合計すると月7万円近くかかる。その分の経費を差し引いて計算し直すと、時給は800円台にまで下がり、首都圏のコンビニやファストフードの時給より安くなる。1日150個の荷物がコンスタントに運べるとようやく生活ができる水準なのだ、と菊池はいう。
長時間で低賃金、肉体的にもきつい仕事である。その上、三か月で打ち切られるという不安定な契約ではとてもやっていられない内容だ。
これだけ、人手が足りない、と言われている運送業界にもかかわらず、その労働条件は、けっして恵まれたものではないのです。
Amazonは圧倒的に大きな荷主なのだけれど、ほとんど利益が出ないような条件での取引を求めてきます。
そのため、佐川急便は、取り扱い荷物数が減ることを覚悟して、Amazonの荷物の取り扱いから撤退する、という決断をしました。
ネットでは、多くの人が、宅配業者の苦境に同情し、「配送料無料なんておかしい」「再配達しなくていいように、なるべく予定時間に家にいるようにしよう」と呼び掛けていますが、意識が高い人が運送料を負担し、宅配便が来るまで家でじっと待っていて、事情を知らない人は業者にクレームをつけまくる、というのでは、あまり問題の解決にはならない気がします。
なんのかんの言っても、わざわざお金も手間もかかるほうを選ぶ顧客は少ないのです。