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食のフェイクニュースを拡散するのは誰だ? ~週刊誌報道やとんでも本?SNS?それとも・・・~

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"リスクの伝道師"山崎です。本ブログでは、毎月食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今月はハーバード・ビジネス・レビュー2019年1月号に『巧妙化する虚偽情報に企業はどう対応すべきか』という特集が掲載されましたので、これを引用しつつ「食のフェイクニュース」に対して消費者市民や食品事業者がどう対応していくべきかを議論したいと思います。

まず筆者が注目したのは、ツイッターにおける真実と虚偽ニュースのネット上での拡散度合いを比較分析し、今年サイエンス誌に発表して世界的に注目されたMITシナン・アラル教授の記事だ:

SNSの大規模調査に基づく提言『"フェイクニュース"といかに戦うか』
著:シナン・アラル(MITスローンスクール・オブ・マネジメント教授)、訳:鈴木立哉

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー2019年1月号p18-33.
"The Truth Disrupted," Sinan Aral, HBR.org, July 17, 2018.
https://hbr.org/cover-story/2018/07/truth-disrupted

Soroush Vosoughi, Deb Roy, Sinan Aral
"The spread of true and false news online"

Science (2018) 359, pp. 1146-1151 DOI: 10.1126/science.aap9559
http://science.sciencemag.org/content/359/6380/1146

アラル教授らが、このサイエンス2018年3月9日号のカバーストリーで発表した調査内容は、単純にまとめると以下の通りだ:過去12年間(ツイッターが開始した2006年以降)に飛び交ったツイッター上の一連の情報群="ツイート・カスケード"12万6千件の内容が、事実情報か虚偽ニュースか(アラル教授は政治家たちが都合よく使用する「フェイクニュース」という用語ではなく、あえて「フォルス(虚偽)ニュース」と呼んでいる)に振り分けてネット上での拡散度合いを比較したところ、どの分野でも虚偽ニュースのほうが事実情報よりも遠くに、速く、深く、そして幅広い範囲で広がっていたというのだ。しかも、政治に関する虚偽ニュースのほうが、他分野のニュースより強い度合いで拡散していることがわかったという。

これは2016年の米大統領選のごとく、民主主義や選挙に深刻な影響をもたらすだけでなく、これらオンライン上の虚偽ニュースが経済・ビジネス・安全保障や生活全般にいたるまで危険性をはらむ問題であり、市民の誰もが損害を被る可能性を秘めているとのこと。

SNSというプラットフォームがデマや噂を拡散するスピードは驚くほど短時間でその範囲は広大であり、世界中で何十億人という(新聞やTVでニュースを見ない)ユーザーが日々目にするSNS上のニュースが、ほぼノーチェックでシェア・リツイートされるのだから、虚偽ニュースが安易に広がるプラットフォームができてしまっているということなのだろう。

アラル教授らの分析結果と考察によると、これら虚偽ニュースのオンライン上での強大な広がりは、SNSの背後にいる「大物」やボットなど機械の力ではなく、一般ユーザー、すなわち人間の手による可能性が高いとのこと。

「新奇性仮説(novelty hypothesis)」など、目新しいことが人々の注意をひき、「自分はこのことを知っているよ」と他人に伝えたくなる気持ちが情報のシェアを促すというような考察もされている。これらのことは、SNSで情報を受け取るユーザーの側に問題があり、「いいね」やリツイートを思わずしてしまうアクションの動機づけを止めることが、虚偽ニュース拡散防止につながるとも解釈できる。

今回のHBR特集号において、もう一人注目に値するインタビュー記事が掲載されているのが解剖学者・養老孟司先生だが、養老先生の理論はこのアラル教授らの虚偽ニュースを受け取る側の分析と一致しているように見える。

すなわち、『意識は嘘を見抜けない』と題したインタビュー記事の中で、養老先生は嘘(虚偽)がニュースになるのは記号化した第一段階に過ぎず、これが発信者から受け取り手に伝えられる第二段階において初めて情報となり、受け取り手がその情報を意識することでアクションを起こすことになるが、ここに問題点があると説いている。

記号化の段階で嘘のニュースが発生し、受け取り手がこの情報を意識のみで見抜くことは極めて困難なので、情報をスルーする(代わりに五感で判断する)ことがフェイクニュースに騙されないコツだというのだ。嘘発生の第3段階は「無意識の段階」として、記号化・情報化されない外界の現象を感覚でとらえるときに発生するものと定義されているが、このあたりは非常に解釈が難しい理論だ。

この件で、筆者が実例として思い起こしたのが、熊本地震の際に「動物園からライオンが逃げ出した」というSNS上の合成画像によるフェイクニュースだ。たしかに、養老先生が言われるように、このような記号化されたネット上の虚偽情報に対して意識のみで拡散してしまうのではなく、五感による判断でスルーする資質が情報の受け取り手側にあれば、おそらく市民が虚偽情報に踊らされることはなかったということなのだろう。

これに対して記号化された情報ではなく、目の前に本当にライオンが現れたとしたら、本物か着ぐるみなのかの判断は自分の五感でするしかない(無意識の段階)ということか。

さてアラル教授の記事に話を戻すと、虚偽ニュースに立ち向かう方法として、情報を受け取る側へのアプローチと情報提供側へのアプローチを、教育・動機付け・技術的ツール(アルゴリズムの開発)・規制などにわけて、詳しく議論しているので、ご興味ある方は原著をご一読いただきたい。

情報提供側へのアプローチについては、SNSというプラットフォームでの広告収入によるビジネスモデル自体を破壊し、有料会員制に切り替えることや、監視などの規制を厳しくするなどの大胆な提案もされているが、おそらくプラットフォーム側の収益やプライバシー保護に大きく関わる問題なので実現は難しそうだ。

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