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ここが違う日本と中国(21)―明暗を分けた中間層

訪日中国人観光客は東日本大震災の後、大幅に減少していたが、最近戻りつつあり、特に2012年の旧正月を境に順調に増えていることが、政府の統計やマスコミの報道などでわかる。

日本人の中国人観光客に対するイメージといえば、おそらく「購買力が凄い」というのがもっとも大きいだろう。

これをめぐって実は誤解も2つほど起きているようだ。

誤解一、「中国人はみんな金持ちになった」ということ。誤解二、「日本に来ている中国人観光客はみんな金持ちだ」ということ。

誤解一はちょっと考えてみると、そんなはずないとすぐ気づく。しかし、誤解二はもっとややこしいことのようだから、ここでは少し説明しておきたい。

確かに訪日中国人観光客の多くは富裕層(金持ち)であるが、決してすべてが富裕層ではない。日本旅行の主流をなしているのはむしろ中間層である。具体的に職業別にみると、例えば公務員、教師、自営業者、企業従業員、農家などである。つまり、普通のサラリーマンなどはいま日本旅行しているということである。一見するとかなり意外なことだが、不思議ではない。

自営業者や農家はさておき、普通のサラリーマンはなぜ日本旅行が可能かを検証してみよう。

旅行は興味、経済力、時間という三要素が揃っていることが前提。日本に興味を持っている中国人といえば、サラリーマンはもっとも多い。時間については以前のコラム(「国民の祝日」)でも書いたように、中国の一年間の休日数は日本を上回っており、特に大型連休は日本を圧倒している。また、一部ではあるが、有給休暇も制度的に設備されつつある。したがって、中国のサラリーマンは日本と違って、旅行のための時間がたっぷりある。

そうすると、最大のポイントは、経済力は如何ほどかということになる。中国のサラリーマンは平均所得において日本のサラリーマンに遠く及ばない。しかし、一言にサラリーマンといっても、千差万別で、所得格差が大きく、なかには年収10万元(日本円にして125万円)以上の人もざらにいる。特に注意しないといけないことは、中国のサラリーマンは基本的に夫婦共働きで、子どもはほとんど一人っ子である。家族構成は3人世帯、年収は二人分、ということを総合的に考えると、その可処分所得および購買力は想像以上のレベルにあり、日本の一般家庭には勝るとも劣らない。

そんなサラリーマンたちは今どんどん海外旅行へ繰り出しており、日本を目指す人も少なくない。

中国人の海外旅行者数は急速に増えており、ここ10年間は4.8倍も伸びた。国家観光局の統計によれば、2011年、その数は7025万人に達し、前年より22%も増えた。また、同局の予測によれば、2012年、その数は前年より12%増で7700万人にのぼる見込みである。その主役はかつての富裕層から中間層に変わっている。

長年にわたる高度経済成長は国民所得を底上げし、富裕層を量産していると同時に、中間層にも厚みを持たせている。

中国の中間層はいったいどのくらいいるのか。近年発表された数値を見ると、かなり大きい規模になっていることがわかる。

経営コンサルティング大手のボストンコンサルティンググループ(BCG)が発表した研究報告によると、中国の中間層と富裕層の人数は現在の1億 5千万人から、10年後には4億人を超える見込みで、うち約70%が小都市に住んでいると予想されるという(「新京報」2010年11月9日付)。同報告書が定義している中間層と富裕層は月収5000元以上の人である。

また、市場マーケティング会社ユーロモニター・インターナショナルによると、中国では中間層が増加の一途をたどっており、2020年には7億人に達することが予想されるという。そのころ中国の総人口は14億5千万人に達する見通し。そうなれば、総人口に占める中間層の割合はあと10年で48%を超え、中国人の約半分が中間層であることになる(ウェブサイト「中国新聞網」2010年7月20日付)。ここで定義している中間層は年収1万1800~1 万7700ドル(人民元にして約7万9945~11万9918元)の人である。

ただし、中間層の定義や範囲は必ずしも明確ではない。基準もまちまちである。一応、所得、資産、職業、帰属意識などで測られるが、基準が統一されていないため、中国の中間層の規模もアバウトな数字しかない。

それはともかくとして、中国では海外旅行可能な経済力を持つ人々はすでに多くなっており、今後も急速に増えることは間違いない。

さて、日本はどうなっているかということだが、結論を先に述べると、日本の中間層も大きく様変わりしている。そして、中間層が勃興している中国とは対照的に、日本の中間層はむしろ縮小方向に傾いている。

日本はバブル崩壊後、「失われた10年」「失われた20」に続き、さらに「失われた30年」に突入し始めたのではないかと囁かれている。この下り坂を辿ってきた結果、かつて「一億総中流」と形容されていた比較的平等な社会は崩壊し始め、富裕層と低所得層の二極化が加速し、中間層の多くは下層へと滑り落ちていくのだ。

こうした中間層の凋落は、結局、階層分布にオリーブ型から麺棒型へという変化をもたらした。

麺棒型というのは筆者の造語である。真中はやや太くなっているが、全体的にみて細長い形である。日本の階層分布はオリーブ型から麺棒型に変わりつつあり、中間部分がどんどん縮小していくことは大きな特徴である。

近年日本では、ワーキングプアの増加や、貧困層の拡大などが大きな話題になって人々の関心を集めている。これらはいうまでもなく、今の日本社会に起きている深刻な状況である。一方で、中間層の衰微もほっておくわけにはいかない問題であるといえる。

中間層の厚さが社会安定の度合いに直接つながるということは常識的で広く知られている。それだけではない。日本をはじめとする先進国では、中間層は納税者の主役であり、社会保障財源の担い手である。日本の「国民皆保険・皆年金」体制は「一億総中流」の階層分布とは切っても切れない関係にある。もっとはっきり言えば、所得格差はそれほど大きくなく、絶対多数の国民や労働者は一定以上の経済力があったからこそ、「国民皆保険・皆年金」体制を実現でき、何十年も維持してきた。

昨今、日本の社会保障制度のほころびは目立ち始めている。児童手当や生活保護などは財源確保の課題を抱えており、特に年金、医療、介護、失業といった社会保険制度は所得格差の拡大によって生じた未加入者・保険料滞納者の増大に悩まされている。もちろん、社会保障財源の多くは勤労者の納めた税金で賄われているため、中間層の縮小は税金収入の減少につながり、そして社会保障の財政危機を招来する。

要するに、格差社会の進行およびそれに伴う中間層の衰微はすでに社会保障の基盤を揺るがすという深刻な事態に至っている。

最後の締めくくりとして、近年日本の海外旅行者数の推移を見てみよう。

最多は2006年の1753.5万人を記録した。その後、減少に転じて、09年には1544.6万人まで減り、翌10年にはふたたび上昇し1663.7万人まで回復した(国土交通省観光庁ホームページ)。

冒頭の中国人海外旅行者数の動向と比較すれば、日本は明らかに減速傾向を示している。この傾向は一時的に止まる可能性もあるが、ピーク時の 1700万人を大きく超えることは無理。総人口の減少、中間層の縮小といったマイナス要素が続く限り、この予測は大きく外れないことはないだろう。
(執筆者:王文亮 金城学院大学教授編集担当:サーチナ・メディア事業部)

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