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トランプがファーウェイ幹部を捕らえた本当の理由 - 海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

今回のテーマは、「ファーウェイ事件とトランプ流ディールパターン」です。中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)が12月1日、米国の要請によりカナダのバンクーバーの空港で逮捕されました。孟副会長は同月12日に釈放されましたが、イランとの違法取引を行うため、米金融機関に虚偽説明をした疑いがもたれています。

ところが、米国の孟氏逮捕の本当の理由は別のところにあるようです。本稿ではファーウェイ事件における同国の思惑と、ドナルド・トランプ米大統領のディールパターンを中心に述べます。


12月11日、大統領執務室でロイター通信のインタビューに応じたトランプ大統領。机の上には愛飲するダイエットコークが(REUTERS/AFLO)

米国のストーリーの仕立て

ハイテク通信機器の分野で大躍進を遂げているファーウェイは、中国政府及び軍と連携をしており、純粋な民間企業ではありません。この分野で覇権を握る野望を抱いている習近平中国国家主席にとって、ファーウェイは中国企業の中で最重要企業の位置づけといえます。

少々乱暴な言い方ですが、米国はその企業の孟副会長を無理やり逮捕したのです。というのは、米国にとって種々のメリットがあるからです。

例えば、ファーウェイの企業イメージが低下します。さらに、米国はファーウェイの通信機器を使用すると、基地局を通じて機密情報が抜き取られる、大量のデータが盗まれるといった恐れがあると、世界に向かって警告を発することができます。

確かに、2017年の基地局市場におけるファーウェイのシェアは第1で、27.9%を占めています。従って、ファーウェイは米国の安全保障上のリスクを高める存在になり得ます。

そこで、米国はファーウェイは危険な企業であるというレッテルを貼り、同社に対する人々の警戒心を高め、不安を煽っています。ハイテク通信機器の分野で台頭するファーウェイを叩くためのストーリーを仕立てたわけです。

つまり、制裁が科されているイランとの不正取引は表向きの理由であって、本当の理由はファーウェイ進出の阻止にあるのです。

新しい交渉の組み合わせ

トランプ大統領にもメリットが存在します。中国との通商協議において、孟氏を交渉材料として利用し、多くの譲歩を引き出すことが可能になりました。トランプ氏の視点に立てば、孟氏は中国に対して非常に価値の高い交渉カードです。

これまでトランプ大統領は、欧州連合(EU)及び日本に対して、安全保障問題と通商協議をリンクさせて交渉を有利に進めてきました。日本に対する米国製武器購入の圧力は、正に安全保障と対米貿易不均衡の是正の双方を狙ったものです。

今回、トランプ大統領は新しい交渉の組み合わせによって、中国に対して貿易交渉で有利な立場に立とうとしています。ロイター通信とのインタビューで、孟副会長逮捕に対する介入を示唆しました。その裏側には、中国に対して刑事事件と通商協議を結びつけて、貿易交渉で中国から譲歩を引き出す意図があります。

因みに、米中貿易協議において対中強硬派のロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、米CBSテレビのインタビューの中でファーウェイ事件に関して、「刑事司法上の問題と通商協議は別物である」と述べ、トランプ大統領とは異なったアプローチを望んでいます。

トランプ大統領の孟氏利用法

では、トランプ大統領は具体的にどのようにして刑事事件と通商協議をリンクさせるのでしょうか。トランプ氏が描いている可能性がある筋書を1つ紹介してみましょう。

トランプ大統領はカナダ政府に対し孟副会長の身柄引き渡しを強く求めます。最終的には、カナダの裁判所が身柄引き渡しを審査し、決定するわけですが、仮に実現すれば舞台はニューヨーク連邦地裁に移ります。米国で、孟副会長は有罪になり、禁固刑が言い渡されます。

もしそうなれば、この時点で米中関係はかなり悪化しているでしょう。そこでトランプ大統領は、習主席のメンツを保ち、貸しを作るために、孟副会長に恩赦を与えます。そうすることで、通商協議で中国から最大限の譲歩を引き出せます。これがトランプ流のディールパターンです。

以下で、トランプ流パターンについて詳細に説明しましょう。

トランプ流ディールパターン

トランプ大統領には、ディールパターンが存在します。まず、自ら交渉相手に仕掛けていきます。米中貿易戦争では、トランプ氏から中国製品に対して追加関税をかけました。

次に、対決姿勢をとり、事態をエスカレートさせ、意図的に危機的状況を作ります。問題解決の糸口が見えないため、交渉相手を含めたステークホルダー(利害関係者)は不安に駆られます。

ところが、緊張が高まりピークに達すると、トランプ大統領は対決姿勢を弱めて、一旦引きます。例の中国に対する90日の猶予が、これに当たります。アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで12月1日、米中首脳会談を開催した際、中国製品に対する新たな追加関税の延期及び90日の通商協議の開始に合意しました。

トランプ氏との全面対決の回避を探っている交渉相手は、ほっと安堵の胸をなでおろします。このタイミングを狙って、トランプ氏は相手から多くの譲歩を引き出すわけです。

最後にトランプ大統領は「勝利宣言」を行います。バラク・オバマ前大統領、ジョージ・W・ブッシュ元大統領、ビル・クリントン元大統領など歴代の米大統領が成し得なかった偉業を自分は達成したと豪語するのです。

次の標的は日本?

では、トランプ大統領は中国に与えた90日の猶予が終了する19年3月1日に、米中貿易戦争の勝利宣言を行うのでしょうか。率直に言って、その可能性は低いといえます。

知的財産権侵害、強制的技術移転、中国政府による企業への巨額の補助金、米軍へのサイバー攻撃など課題が山積しており、これらを90日間の通商協議で、すべて解決することは極めて困難だからです。しかも、中国側がこれらの諸問題に対して、トランプ大統領が満足できる提案を出せるかは、まったく不透明です。

加えて、20年米大統領選挙も絡んできます。米中貿易戦争に勝利して、次の大統領選挙に立候補する民主党候補及び共和党候補にはない業績作りをしたいトランプ大統領ですが、19年3月1日に勝利宣言を行うのはあまりにも早すぎます。というのは、再選を狙った大統領選挙は20年11月3日だからです。

米中貿易戦争は、大統領選挙の期間、トランプ大統領にとって支持基盤にアピールできる好材料です。そこで、トランプ氏は中国に対する対決姿勢の強弱を巧みに使い分けながら、米中間に横たわる諸問題の解決を引き延ばしていく可能性が高いでしょう。

それは中国にとって非常に厄介な問題ですが、逆に日本にとっては好都合なことです。仮に来年の3月1日に米中貿易戦争における勝利宣言を行ってしまえば、トランプ大統領は20年大統領選挙に向けて日米自由貿易協定を業績の一つに掲げようと、日本に対して同協定の締結を本格的に迫ってくるからです。

結局、孟副会長逮捕と米中貿易戦争の行方は、日米貿易問題に影響を及ぼすということです。たとえ日本が次の標的になっても、トランプ流ディールパターンを見抜けば、同大統領の言動に対して不必要な過剰反応を示す必要はないでしょう。

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