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フェイクニュースの加害者にならないために



 今週は、あおり運転で停車させられた車が後続のトラックに追突され、子どもたちの目の前で両親が死亡した事故の被告に、懲役18年の判決が下されたことが大きなニュースになったが、実はその事件でも、事件発生の直後に大変なフェイクニュース被害が起きていた。

 自動車運転死傷行為処罰法違反で昨年6月に逮捕された容疑者の苗字と同じ名前の建設会社が、容疑者の親族が経営する会社だとの偽情報がネット上で大々的に拡散されたために、その会社は1日100件を越える嫌がらせや中傷の電話に晒され、一時は業務継続が困難な状態に追い込まれていたことは記憶に新しいはずだ。

 何か大きな事件やニュースで取り上げられるような注目のイベントなどがあると、必ずといっていいほどどこからともなくフェイクニュースが現れ、それが猛スピードで拡散していくことが、今や日常茶飯事となっている。

 その最たるものが、2016年の大統領選挙だった。あの選挙では、ヒラリー・クリントン候補を中傷する根も葉もないフェイクニュースが無数にSNS上に投稿され、それを信じた人たちによって拡散されていった。中には情報の真偽にかかわらず、ヒラリー候補を落としたい一心で、フェイクニュースを拡散した人もいたにちがいない。フェイクニュースが広がる速度は、事実の裏付けのある本物のニュースよりも遙かに速いため、大統領選挙の結果に大きな影響を与えたと考えられている。しかも、そのフェイクニュースのかなりの部分が、実はロシア政府の管理下にあるトロール部隊が、トランプ候補を勝たせる目的で意図的に流していたものだったことが判明するというおまけまでついている。ことほど左様にフェイクニュースの影響はとどまるところを知らない勢いだ。

 実際、このまま放っておけば、世界はフェイクニュースに飲み込まれ、社会は何を信じればいいのかがわからないような状態に陥ってしまいかねないと言っても、決して過言ではないだろう。

 計算社会科学が専門の笹原和俊・名古屋大学大学院情報学研究科講師は、もともと人間は「見たいものだけを見る」、「似た人とつながり影響し合う」という傾向を持っており、それがSNSの特性と合わさって、フェイクニュースに勢いを与えていると指摘する。こうした人間の特性は「認知バイアス」や「社会的影響」と呼ばれるもので、本来それ自体は悪いものではなく、人間が生存するために必要な情報のフィルターだった。どんな時代でも人間には、目や耳から入ってくる情報のすべてを受け入れるキャパシティは持ち合わせていないからだ。

 しかしインターネットやSNSの普及によって、社会全体に極度に情報過多な状況が生まれると、そこにフィルターをかけるSNSのアルゴリズムが、そうした認知バイアスや社会的影響の負の側面を一気に増幅するように作用し始める。SNSのアルゴリズムはクリック数やシェア数などの広告収入につながるものを高く評価するように書かれているため、その法則に則ると、実は正しいニュースよりも、怖れや怒り、悲しみ、嫌悪、不安といった人間の感情に訴えかける情報の方が、より人々の関心を引きやすい。要するに、その方がクリックを誘発しやすいため、より拡散されやすいのだ。その際、ことの真偽はほとんど問題にならない。

 人間がアナログ時代に「見たいものだけを見て」、「知り合いの影響をより強く受け」ていた時に比べ、そのような人間の特性を逆手にとって利益をあげられるSNSというビジネスが、世界規模で展開されるようになってしまった結果、フェイクニュースというものが大手を振って行き交うようになってしまった。

 事実に拘束されることなく、情報をより人の感情に強く訴えるように面白おかしく加工されたフェイクニュースは、事実よりも遠く、深く、早く、幅広く拡散される。実際、誤情報がリツイートされる確立は事実よりも70%高いことがわかっている。仮にどんなに立派な訂正情報が後に発信されても、それは「事実」であるがために、誤情報の拡散スピードにはまったく追いつかない。

 しかもフェイクニュースの中には、単にクリック率を上げてお金儲けを目的とするものばかりではない。中には、政治やビジネスなどで優位に立つために、特定の個人や勢力を陥れるような誤情報を拡散する、悪意に満ちたフェイクニュースもある。

 人間が元々持っている情報に対する特性に依拠して増長しているフェイクニュースに対抗するのは、決して容易ではない。しかし、社会制度やテクノロジーによってフェイクニュースを発信する動機をくじいたり、SNSユーザー全般のリテラシーを上げることで、無責任なリツイートなどによってフェイクニュースが安易に拡散していくことをある程度防ぐことは可能だ。特に、情報源が不確かな情報は、信じてはいけないのみならず、それを拡散することで、知らぬ間に自分がフェイクニュースの加害者になってしまっている可能性があることは、認識される必要があるだろう。

 また、世界各国でNPOなどによるファクトチェックの活動も広がっている。こうした活動に参加したり、サポートしたりするのも、社会がフェイクニュースに乗っ取られることを防ぐ一助になるはずだ。

 今週は計算社会科学の観点からフェイクニュースの発生原因や対策を研究している笹原氏と、フェイクニュースとの向き合い方について、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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