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東日本大震災のもどかしい取材

 東日本大震災の取材が続いている。この3月末にも、また宮城県南三陸町の取材に行くつもりである。これで発生後、7度目の被災地取材になる。だが、私には毎回、もどかしさばかりが残る取材でもある。そこで、いまでは開き直って、このもどかしさを大事にしようと思っている。

 私の場合、月〜金曜日にテレビのレギュラー番組を抱えている。土曜にも、隔週で収録がある。したがって収録のない週の金曜夜から月曜朝までの限られた時間しか取材にあてられない。そこで細切れでもいいから、数多く現地に足を運ぼうと思っているのだが、この短い時間で取材できることなんて限られている。もどかしさの理由はそこにある。

 なにしろ、岩手、宮城、福島の主な被災地だけで、海岸線は直線にして400キロに及ぶ。それに茨城、千葉を加えると被災地はもっと膨らむ。到底、細切れの取材で全体像を把握できるわけがない。第一、私はテレビ局の取材制限もあって、いまだに原発被害の福島県には足を踏み入れていない。もどかしいのだ。だけど私は、いまはこのもどかしさを自分の中に取り込んで、自分の書くものやテレビでのコメントでは、心して「被災地では」というフレーズは使わないようにしている。「今回は陸前高田と気仙沼」「今回は南三陸と石巻」といったふうに訪ねた市や町を個別に明らかにしている。

 ちょっと考えてみればわかることである。直線にして400キロということは東海道新幹線にたとえれば、概ね東京から米原付近までの距離になる。そこが被災したとして、横浜も名古屋も静岡も一緒くたにして「被災地では」とやられたら、たいていの人は怒るはずである。もっと小さな町や村にしたら、なおのことだ。

 だが、他者のことをあげつらうわけではないが、新聞の論調、テレビのコメンテーターの言葉のなかに、「被災地では」「被災地の人たち」は、というフレーズがなんと多いことか。そこに私は別の意味でのもどかしさを感じてならないのである。もちろん被災地全体、被災者全員に共通する問題、悩みもあるに違いない。だが、それぞれの市や町、村には、他者とは共有できない固有の問題、個別の悩みがあるはずだ。違った考え方や意識があって当然だ。

 3月18日付けの日経新聞の文化欄に作家の津村節子さんが「わが町 野畑村」という一文を寄せていた。津村さんのご夫君で、06年に他界された吉村昭さんは長年、岩手県田野畑村を取材、「三陸海岸大津波」を著している。津村さんは津波で寸断状態になった第三セクター、三陸鉄道について<「つなげよう! 三陸鉄道」ののぼり旗をかかげた人々が線路を歩いているグラフ雑誌を見て、愕然とした。百億円もかかるというのに、実情を何も知らない人々は復興、復興と気分を盛り上げ、鉄道マニアのノスタルジーが線路を歩かせている>としたうえで、この先、人が住まなくなる海岸近くに鉄道を走らせて何になる。津波の被害を受けず、村の人たちの命の道路であった国道45線を整備してバス道路にすべきだ、と書いている。

 三陸鉄道に関しては、私は直接、取材はしていないが、私が関わっている番組でも「三陸鉄道復旧への足取り」といったドキュメントを何回か放送させてもらっている。だが、現地を少しでも知っている人の見方はこうなのだ。「『被災地の』人々が待ち望む鉄道の復旧」「『被災地の』復興はまず鉄道から」は果たして真実なのか。

 もう一つ、これは私も出演している番組であり、コメントしたジャーナリストは私の古くからの友人でもあるので心苦しいのだが、やはり書いておかなければならない。大阪のテレビ番組の一つのコーナーで、このジャーナリストは「被災地の人々はガレキの県外搬出なんて望んでいない。自分の所で使いたがっている。なのに、役人が県外搬出を勝手に決めている」と、概ねこう主張したうえで、ご丁寧に「全国のみなん、メディアが言っていることは、まったく反対のことなので、心しておいて下さい」ということまて付け加えたのだ。そしてその具体例として、福島県南相馬市長の「市内のガレキは防潮堤の基礎に使いたいのに、役人が規制を楯に使わせてくれない」という言葉を紹介。さらに岩手などの2つの自治体の首長の「ガレキは自分のところで処理できるのに、県外に搬出しろと言われている」という声を取り上げていた。

 私は東京にいて知らなかったのだが、さっそくこの番組を見た視聴者から「ガレキの処理になんとか全国の支援を、と訴えてくれているあなたも出ている番組としてはあまりひどい」という悲痛な声が寄せられ、番組の担当者にもそのことは即刻、伝えた。仙台、名取、石巻、女川、気仙沼、南三陸、陸前高田……、多くの地で「このガレキをなんとして下さい。そうでないと復興どころか、復旧もないんです」と手を合わせて、お願いされ、番組でそのことを伝えてきた私は悲しくなるばかりだった。

 そもそもこのコーナーの主張は、根本から間違えている。福島は放射能汚染の問題からガレキの県外搬出はもともとない。なぜ南相馬市長は、使いたいのに他県に持っていかれてしまうと主張するのだろうか。よしんば自分の所のガレキが放射能の問題で防潮堤に使えないのなら、すぐ隣の宮城のガレキを引き受けたらいい。宮城は大喜びするはずだ。

 さらにだ。宮城も岩手も何もすべてのガレキを全国で引き受けてくれと言っているのではない。自分の所では処理能力は4割まで。だから、なんとか6割は全国で協力してくれないか、と言っているのである。番組で紹介された2つの自治体は「ガレキがほしい」というなら、県内のガレキをどんどん引き受けたらいいではないか。そうすれば、4割が精一杯という2県の処理能力はグンと上がる。なぜ、それを言わず、「県外に持って行くな」というのか皆目、見当がつかないのだ。

 件のジャーナリストは、ガレキの処理の問題よりも「県外搬出は頭の固い役人の発想。その結果、儲けるのは運び出す運送業者」ということが言いたかったようだが、「悪いのは役人と業者」というステロタイプ化した手垢まみれのこの発想はもうそろそろやめたらどうだ。もちろんこのジャーナリストにも、登場した首長にも悪意があったとは思わない。だが、このことが少なくとも私が取材した各地のみなさんをどれほど悲しませるか。そして呻吟の末、やっとガレキの受け入れを決断してくれた自治体の議会に押しかけ、聞くに耐えない罵声を浴びせている一部の心ない人をどれほど勢いづかせてしまうことか。

 他者の取材をあげつらうために、これを書いているわけではない。あの惨禍から1年、時として折れそうになる心をこれからも支え続けていかなければならない人々のために、私たちの報道は、細やかすぎるほど細やかでなければならないと思っているのだ。

 だからこそ、もどかしい取材をまだまだ続けるつもりなのである。

 さて、春といえば、テレビ、ラジオの改編の季節。私がいま、出演させていただいているレギュラー番組は一部、共演者の変更などはあるが、基本的には変わらない。そのうえで、新たにテレビ愛知(名古屋・テレビ東京系列)の昼の報道情報番組と、福岡のRKB毎日放送ラジオの朝のワイド番組から出演のご依頼を受けていま担当者と打ち合わせ中である。詳しいことが決まり次第、私たちのホームページ「活動予定」欄でお知らせします。ぜひまた、見たり聞いたりして下さい。

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