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マラソン世界新が出た"ナイキ新厚底"の力

2時間1分39秒――。今年9月、驚異的なマラソンの世界新記録を打ち立てた、ケニア人のエリウド・キプチョゲ選手。ランナーとしてはピークを過ぎつつある34歳で、自分の限界を打ち破れたはなぜか。キプチョゲ選手は「16年間付き添うコーチと、ナイキの新しい厚底シューズの存在が大きい」と語る――。

■世界最速ランナーから学ぶコーチングとメンタル術

パワハラ、暴力、理不尽な指示……。2018年の日本スポーツ界は指導者の「質」が問われるような不祥事や出来事が頻発した。これはコーチ(監督)が選手よりも“上”の立場にいるという日本のスポーツ界特有の人間関係の弊害だろう。欧米では一般的にコーチと選手は「フラットな関係」だ。

(写真上)今年9月にマラソン世界新を出したエリウド・キプチョゲ選手(写真下)左がキプチョゲ選手、右がコーチのパトリック・サング氏(写真=NIKE)

では、欧米以外の地域はどうなのか。今年9月のベルリンマラソンで2時間1分39秒という驚異的な世界記録を打ち立てたケニア人のエリウド・キプチョゲ(34)と、コーチで同じくケニア人のパトリック・サング氏(54)を今年11月上旬に都内で取材した。

現在34歳のキプチョゲは18歳の頃からサング氏の指導を受けているが、コーチに求めていることは3つあるという。

「スポーツのコーチであり、ビジネスのコーチであり、人生のコーチでもあることです。ずっと同じコーチについていますが、彼から多くのことを学んでいます。私が望んでいるのは、コーチ自身が選手の模範になってくれることです。この16~17年、競技だけでなく、あらゆる面でコーチングをしてくれたからこそ、このような成功があると思っています」

日本の指導者にも耳を傾けてほしい言葉である。いかに優れたコーチング技術を持っていたとしても、どんなに勝ち続けたとしても、人間として模範的できない者は、「コーチ」として未熟と言わざるをえない。

監督・コーチは選手起用に関して、絶対的な権限を持っている。そのため、選手は「イエスマン」になりやすい。しかし、だからといって、選手たちは監督・コーチを尊敬しているとは限らない。選手たちが監督・コーチを逆にジャッジしていることを知っておくべきだろう。この関係性はスポーツだけでなく、ビジネスでも同じだろう。上に立つものは、人生のコーチも求められていると考えたほうがいい。

■54歳のコーチはキプチョゲをどのように育てたのか

一方、サング氏は、「コーチは目指すべきゴールに向かって、プログラムを作り、選手と一緒にがんばる。それは新しい場所へ一緒に行くことに似ています」とコーチングについて表現している。なかでも重要視しているのは、メンタル面だ。

「選手の能力は個々で違いますが、いつも気にかけているのは、選手がどんなメンタルでいられるのかということです。心が軽くて、開いているとコーチしやすいと思います。そして、スタートラインに立ったときに、『自分が最高だ』という自信を持てる状態に仕上げること。それがコーチとしての最後のまとめになります」

■マラソン転向後は11戦10勝という驚異的な勝率を誇る

模範的なコーチのおかげかキプチョゲは「哲学者」のようなオーラを漂わす選手だ。コーチのサング氏も、「チャレンジを恐れない強い心を持った選手ですし、温かい心で仲間に接することのできる人物です」と評価する。さらにランナーとしては、「速さ」と「強さ」を兼ね備えている。

「勝つことが大切ではありません。勝つための準備をすることが大切」と語るキプチョゲ選手をサング氏は「温かい心で仲間に接することのできる人物」と評する(写真=NIKE)

サング氏がコーチに就任した18歳で「パリ世界選手権」の5000mを制すと、27歳まではトラックで活躍。マラソン転向後は、11戦10勝という驚異的な勝率を誇る。しかも、そのすべてがメジャーレースで勝っているのだ。2015年度から3年連続で「ワールドマラソンメジャーズ」のチャンピオンに輝き、2016年のリオ五輪でも金メダルを獲得した。

また、2017年5月にイタリアのサーキット場で行われた「Breaking2」では、複数のペースメーカーが交代で引っ張るなど、公認条件下ではなかったものの、当時の世界記録を2分32秒も上回る2時間0分25秒で走破している。そして、今秋のベルリンマラソンで2時間1分39秒の世界記録を樹立。キプチョゲは、人類が生んだ“最高傑作”ともいえるランナーだ。

■巨万の富と名声を得た今も「朝5:45に起きる」ワケ

ケニア人はマラソンで成功すると、ビッグマネーを稼ぐことができる。

そのお金をもとにサイドビジネスを始める者も多く、なかにはカネの亡者となり、自分を見失ってしまう者もいる。しかし、巨万の富と名声を得たキプチョゲの生活は極めて質素で規則的だ。

キプチョゲは普段、ケニアで4番目に大きな街であるエルドレットでトレーニングを積んでいる。標高2100mの高原地帯だ。走る時期で走行距離は1週間に200~250km。週に2回は室内で約2時間のワークアウトもこなす。「走ることが私の仕事。きつい練習もまったく苦にならない」というキプチョゲは、休日に家族のもとで過ごす以外は、トレーニングキャンプで多くの選手たちと共同生活を続けているのだ。朝は5時45分に起きて、トレーニングをこなして、夜は21時に就寝する。圧倒的な成果を得ることができた理由について、以下のように語っている。

「やっぱり『楽しむ』ということが非常に大切になってきます。そしてプライオリティ(優先順位)をクリアにして、それに従って動くこと。自分で律して、きっちりとした生活を送り、良いトレーニングができているから結果が出ていると思います。トレーニングは自由な心で楽しむことを意識しています。準備がしっかりできれば、勝利はついてくる。勝つことが大切ではありません。勝つための準備をすることが大切なんだと思っています。毎日、自分を信じて、気持ちよくスポーツをやるマインドがあれば、誰でもいい仕事ができるんじゃないでしょうか」

■「2020東京五輪でも『美しいレース』をしたい」

キプチョゲは34歳という年齢を考えると、パフォーマンスが低下してもおかしくないが、衰える気配を見せない。本人も、「限界は自分で設定していません。とにかく私は走ることが好きなんです。純粋に走ることが好きですし、マラソンも大好き。マラソンは世界中の人々に感動を伝えることができるので、それが素晴らしいと思います」と話している。

2020年東京五輪も「やることリスト」に書き込んでいるようで、「みんなが楽しんでもらえるような、『美しいレース』がしたい」と語る。

東京マラソンの参戦も考えているようで、近いうちに日本でもキプチョゲの神がかった走りを見ることができるかもしれない。

■新しい「ナイキの厚底」で世界新をたたきだした

そして、そんな無敵の帝王をサポートしているのが、世界のマラソンシーンを席巻しているナイキの厚底シューズだ。「ズーム ヴェイパーフライ 4%」はキプチョゲらの要望をもとに作られたモデルである。

キプチョゲ選手が履いた「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット」。価格は税込みで2万8080円(写真=NIKE)

「私は衝撃吸収に優れたシューズを希望しました。いろんなシューズを履いてきましたが、『ズーム ヴェイパーフライ 4%』を履くようになって、リカバリー(回復)のスピードが速くなったと感じています。それはケガの予防にもつながっているんじゃないでしょうか。本当に軽くて快適で、地面の衝撃をしっかり吸収してくれるシューズです。ナイキにさまざまな意見を提供して、フィードバックを受け取る。そういうやりとりを何度も繰り返しながらやってきました。ベルリンマラソンで履いた新しいバリエーション『ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット』は、軽いのに、さらに衝撃を吸収してくれる快適なソールです。それが終盤のペースアップにつながったと思います」

「鬼に金棒」という言葉があるが、キプチョゲとナイキの厚底シューズはまさにその関係だろう。さらに、キプチョゲがその厚底に勝るとも劣らない絶大な信頼感を寄せているのがサング氏という最強のパートナーなのだ。

(スポーツライター 酒井 政人 写真=NIKE)

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