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『中学受験「必笑法」』に込めた思い


東京、神奈川の一部書店には「必笑!!」ミニ色紙をお届けいたしました。飾っていただける書店さんがあれば喜んでお送りします。オフィシャルサイトからメールで、御社名、送付先ご住所、ご担当者様のお名前・お電話番号をお書き添えの上、「色紙希望」のタイトルでお送りください。

これまで自分自身の中学受験体験については記事にしたことがなかった。新刊『中学受験「必笑法」』(中公新書ラクレ)の「おわりに」にちょっとだけ書いたので、ここに転載する。

「おわりに」

 初めてつるかめ算を習ったときの衝撃は、いまでも鮮明に覚えています。鶴と亀の足の本数を、面積という概念に置き換えるという発想に触れ、頭の中がひっくり返るような感覚を覚えました。

 算数のイトウ先生は、「中学受験の算数はすごいんだぞ。これができれば世の中の数字にまつわる大抵の問題は解けてしまうんだ」と教えてくれました。実際、現在企業の採用試験で使われるSPIというテストに出される数学的思考力の問題は、中学受験算数の一行問題とそっくりです。

 社会科の授業で、少子高齢化について学び、「君たちは将来大変だぞ。1人でたくさんの老人の生活を支えなければいけなくなる」と言われた日には、帰宅してから母に「僕の人生は真っ暗だ!」と話して笑ったのをいまでも覚えています。

 社会のクロズミ先生は、まだ小学生の私たちに「小選挙区制は危険だぞ。強いものがどんどん強くなる構造になってしまうかもしれない」と、鋭い眼光で教えてくれました。その意味をいまになって痛感しています。

 国語のサトウ先生は、背が高くて顔の濃い、俳優さんみたいな先生でした。授業中、私の記述問題の解答を見て、驚いたような顔をして「君は立派な文章が書けるね」と言ってくれました。「三つ子の魂百まで」ではありませんが、それがいまの職業につながっているかもしれません。

 小6になって、実はサトウ先生からは志望校のレベルを下げたほうがいいと言われました。それでも、「この学校の過去問は面白い」と思えたし、いわゆる「そっくりテスト」を受けるととてもいい点がとれたので、偏差値に関係なく、第一志望を貫きました。

 理科の授業。ゴン先生が、黒板いっぱいに水溶液を分類する表を書いてくれたときには、その整理の仕方の美しさにうっとりしたのを覚えています。その日、私はちょっとだけ授業に遅刻して、慌ててその美しい板書をノートに書き写したのでした。

 一方で、植物や星の名前を覚えることにはまったくモチベーションを感じませんでした。「名前に意味なんてないじゃん(本当は名前にも意味があるのでそこに興味をもてばよかったのでしょうが)。こんなものを覚えなければ受からない学校なら受からなくていい」と割り切り、ほとんど覚えませんでした(笑)。光合成のしくみや月の満ち欠けを理屈で理解するのはとても楽しかったのですが。

 そして、入試直前に「必笑」の言葉で私たちを送り出してくれたのが、ゴン先生でした。小学生ながらに「いい言葉だな」と思い、人生の節目にときどき思い出します。

 その「必笑」が、この本のタイトルになりました。

 しかし昨今の中学受験事情を取材していると、「笑えない」状況がたくさんあることに気付かされます。もう何十年も日本の受験・進学システムが硬直化しているため、それに対する対策もすでに極限まで洗練されており、もはや過当競争の様相を呈しているからです。

 中学受験という機会を通した子供の成長そのものではなく、大量の課題をこなすこと自体が目的化してしまうと、子供が壊れてしまったり、親子関係がおかしくなってしまったりという悲劇が起こります。せっかく少なからぬ時間とエネルギーを割いて家族で中学受験に取り組むのに、それでは悲しい。

 これは本当になんとかしなければいけない状況です。だから大学入試改革などの議論がされているわけですが、社会が変わるのを待っているうちに子供はどんどん大きくなってしまいます。親としては、現実は現実としてわきまえたうえで、その現実との距離の取り方をおのおの決めなければいけません。

 中学受験という経験を、いい学校に行くために仕方なくやる苦行ととらえるのではなく、純粋に家族にとってのいい経験にできないものか、いや必ずできるはずという思いで、本書を書きました。

 精神論に偏って見える部分や理想論を語っているだけに思える部分もあったかもしれませんが、決して私だけの考えではなく、多くの塾関係者、中高の先生たち、そして中学受験を終えた親御さんたちが本音で語ってくれた現実的な意見をもとにした中学受験観ですから安心してください。

 まだ中学受験をよく知らないひとにはピンとこないことも多かったかもしれません。でも、真剣に中学受験に取り組んでいけばそのうち「あの本に書かれていたのはこういう意味だったんだ!」と実感を伴って理解できる日が必ず来るはずです。

 みなさんの中学受験が笑顔で締めくくられることをお祈りして、筆を擱きます。

 必笑!

2018年11月 おおたとしまさ

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