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韓国の公共サービスの民営化、その明と暗 トップの天下りは慣行、実績に拘り、公共性の毀損 - 朴承珉 (在韓ジャーナリスト)

先月24日、ソウル市内のKT(通信会社)阿峴支社の地下通信溝で火災が発生した。火災で、中区、竜山区、西大門区、麻浦区の一帯と恩平区、京畿道高陽市の一部地域の都市機能の相当の部分が止まってしまった。ソウル警察庁管轄の4つの警察署の通信網が断たれ、110番システムもまともに稼動できなかった。

同地域ではKTが提供する市民らの携帯電話、有線電話、超高速インターネット、IPTVサービスはもちろん、飲食店などすべての店のカード決済まで中断した。平日だったら金融サービスがオールストップするなど、さらに大きな混乱が起きそうになった。その周辺の病院ではKTインターネットを基盤とする電算網が一時的に停止する状況が発生したりした。

火事の鎮圧に10時間もかかった。週末の当直勤務職員2人がきちんと対応するには当初から容易ではなかった。今回の火事が発生した通信溝には、有線電話16万8000回線と光ケーブル220セットが通っていた。火災が招く莫大な被害の可能性にもかかわらず、スプリンクラーや火災警報機など火災防止施設が整えられないまま、たった消火器1台だけが置かれていたという点がショックを与えた。

KTの利用者はあっという間に“過去”に戻ったといった。一部では“石器時代”に戻ったという比喩までするほど衝撃は大きかったようだ。公衆電話に列を作る珍しい光景が展開された。単に管轄地域のKT利用者の不便だけではない。日常の不便を超え、経済、社会、安保など韓国社会の基盤が脅かされ、崩壊することもあり得るという可能性を考えさせた。

火災で、現場付近の人々の人命被害は発生しなかったが、25日午前5時ごろ心臓に痛みを訴えていた麻浦区の市民が、電話が通じず、適時に救急車を呼ぶことができず、死亡した事故が発生した。

KTは、皮肉にも災難発生当日の24日、「12月1日から第5世代(5G)移動通信が始まる」というテレビ広告を流しており、企業のイメージに大きな打撃を受けざるを得なかった。

KTは、“韓国通信”という社名の公企業だったが、02年に民営化された。国民生活に大きな影響を与えることからすると、代表的な民営化事例に挙げられるのがKTだ。政府は1987年から韓国電気通信公社の売却に乗り出し、02年に全量を売却した。

民営化で6万から2.3万に削減

02年に民営化過程を経たKTは、約6万人に達した正規職の従業員をリストラを通じて17年末の基準で2万3420人に減らした。この過程で必要な人材は、非正規職の下請け会社の従業員に取って代わった。安全管理を担当するケーブル・マネージャーチームが大幅に減らされた。コスト削減のため、外注化やリストラを経て、日常的な安全管理はもとより、事故の対処まで外部の会社に任せ、迅速な対応を見逃す問題が後を絶たない。

阿峴支社のように事故発生時に莫大な被害を与える可能性が高い施設は、KTが自主的にバックアップシステムを構築しなければならなかったが、費用のため、これを無視したのだ。これらの以前からKTを再び公共化すべきだという主張が出ている。重複投資、マーケティング費用の増加、そして海外資本に対する高配当に国富が流出し、国民の通信費負担が増えているという理由からだ。このようにKTの経営方式に対する指摘が相次いでいる。

「コスト削減がすべての経営陣の最優先方針になった」

KTの新労組は声明を通じて、「民営化の以降、KTは公共性を損なって収益の最大化を追求し、コスト削減がすべての経営陣の最優先方針になった」とし、「このため、随所に分散していた通信装備を高度に集中させ、装備が外れることによって空になった電話局の建物は丸ごと売却したり、不動産を開発したりして、オフィステル、ホテルなど賃貸業に転嫁した」「今回のKT阿現地社の火災による通信大乱はそのような認識の必然的な帰結である」と指摘した。

KTは10年からKTエステートという系列会社を立ち上げ、不動産賃貸や開発事業に足を踏み入れ、公共性をないがしろにしたという。KTの不動産賃貸業の動きは繰り返される論争の種として俎上に載せられる。

政界でも、今回のKT火災をめぐり、民営化の問題点に対する論議が起こっている。李哲熙・議員(共に民主党)は、「KTが民営化した後は、いわゆる通信公共性という概念よりも、収益極大化の概念に近づくしかない」とし、「KTが現在に民営化された企業であるため、収益を追求する自体を何と言うことはできないが、収益追求と公共性追求が衝突する場合が発生することはあるだろうが、どのレベルで公共性の概念が定着できるかは非常に重要な問題だ」と強調した。

金鍾勲・議員(民衆党)は、「KTの民営化による人員削減と安全部門の外注化を根本的な原因として挙げ、「民営化の後に大規模なリストラを行い、(そのポストを)非正規職で埋めて 労働強度が高まり、さらに疎かにならざるを得ない」と指摘した。

外注化の必然的な結果である委託業者のコスト削減が社会的災難水準にまで広がるのは、通信分野だけの問題ではない。今年10月、京畿道高陽市の大韓送油管公社の低油所に火災が発生した時も、01年に民営化された大韓送油管公社がコスト削減のために勤務人員を減らしたのが結果的に大きな事故につながった。

KTは表向きには民営化されたが、政権から完全に独立していない。02年に民営化された後も、政権交代の時ごとに執権勢力の論功行賞の対象になり、繰り返し“天下り”人物が会長や主要ポストを占めた。「政権が天下りを通じてKTを所有物に転落させる可能性も排除できない」ということだ。

水道の民営化政策

公共サービスの民営化問題は、KTが全てではない。韓国の公企業の民営化は1968年から本格的に始まった。水道の民営化政策は、00年代に入り着実に推進されてきた。06年から水産業の育成、水道産業の構造改編などの名で推進してきた。

08年6月に当時、李明博大統領は特別記者会見を開き、「ガス、水、電気、医療保険はそもそも民営化計画が全くない。心配なさらなくてもいい」と述べた。李明博政権が上水道を管理する地方自治体法人の持ち株を民間も所有できるようにする“水産業支援法”を推進し、水の民営化に対する世論の懸念が最高潮に達した時点だった。

同年8月に環境省は、“上・下水道サービスの改善及び競争力強化のための法律”という民営化関連の法案を立法予告すると発表した。ところが、進歩(革新)陣営と労働組合などの反対にぶつかり、政治環境によって、9月に法制定を放棄すると発表したことがある。

地方自治体でもこのようなケースはあった。16年11月に、大田市が水道の民営化を図り、“上水道高度浄水処理施設民間投資事業”という名で浄水場の民間委託を推進したところ、進歩(革新)政党や市民団体などの強い反対により、結局、民間投資事業の撤回を宣言した。

民営化の長所を主張する側は、「ポスコ、コリアンリー、KT&Gのように民営化で国富を増やした事例は数多い。赤字を埋める税金をこれ以上浪費しなくなったのも少なくないお負け」と主張する。

一方、民営化の弊害を指摘する側は、「歴代政府で行なった公共機関改革(公共サービスの民営化)は、“金儲け”であり、そのため非正規職と子会社が量産され、サービスと料金の安定性に問題が生じ、社会的価値に反した。それなら公共機関法を改正してでも公共機関の役割を公共性を強化する方向に立て直さなければならない」と主張する。

文在寅政権になって、“社会的価値”は大きく注目されるイシューの一つだ。政府は昨年、“社会的価値の実現を先導する公共機関”を100大国政課題のうち12番目に発表し、今年3月には社会的価値を「政府革新3大戦略」の一つとして発表した。このため、来年からは公企業と準政府機関など公共機関の経営評価の際、社会的価値の具現が非常に重要な指標として扱われる予定だ。

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