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ファーウェイ事件の恐怖、在米中国人エリート層が逃げ出す日 トランプの真の狙いとは? - 立花 聡 (エリス・コンサルティング代表兼首席コンサルタント)

ファーウェイ(華為)事件と米中貿易戦争とは果たして関連性があるのか。あるとすれば、どのようなものか。トランプ米大統領は12月11日、ロイターとのインタビューで、ファーウェイの孟晩舟副会長がカナダで逮捕されたことについて、米国の安全保障と対中貿易協議の進展に資するなら、この問題に介入するとの考えを示した。

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不要不急の中国出張を控える理由

ネットワーク機器開発大手シスコ社は即座に反応し、一部の従業員に、不要不急の中国出張を控えるように社内メール通達を発出した。原因は明白だ。中国がファーウェイ事件の報復に出ることをリスクに捉えたからだ(12月7日付け英字紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」オンライン記事)。

案の定、12月11日夜、中国でカナダの元外交官が拘束されたとの一報が舞い込んだ。ファーウェイ副会長の逮捕との関係は分かっていないとはいうが、センシティブなタイミングである以上、様々な憶測が飛び交う。

中国は立場上、「対等な」報復に出ることがあってもおかしくない時期だ。外国人の身柄拘束は多様な形態が考えられる。腐敗犯罪や独占禁止にかかわる容疑などだけでなく、民事訴訟をもって外国人に出国制限をかけることも不可能ではない。

中国「民事訴訟法」第255条では、「被執行人が法律文書に定めた義務を履行しない場合、人民法院は出国制限をし、また関係部門に通達を発してその出国制限に協力要請をすることができる」と定められている。

上記条項の司法解釈の規定では、「出国制限される者の具体的範囲としては、被執行人が法人またはその他の組織であった場合、法定代表人、主要な責任者のみならず、財務・会計担当者等債務の履行に直接責任を負う者も含む」となっている。

さらに、中国の「外国人入国出国管理法」第28条では、外国人が次に掲げる情況の1つに該当した場合、これの出国を禁止すると定めている。(2)未完了の民事案件を抱え、人民法院が出国禁止を決定したとき。(3)労働者の労働報酬の遅配・未払いがあり、国務院の関連部門または省・自治区・直轄市人民政府が出国禁止を決定したとき。(4)法律・行政法規が定めるその他出国禁止の情況。

このように、様々な形態によって中国は外国人に出国制限をかけることができるのである。

在米中国人エリート層に激震が走る

事件の影響が及んだのは、特定業界や企業の外国人だけではない。在米中国人のエリート層にもファーウェイ事件の激震が走る。

ファーウェイの孟氏を逮捕できるのなら、自分たちも同じようにされる可能性があると彼たちは考える。米国の制裁対象にならない保障はどこにもないからだ。米中貿易戦争はもはや通商や経済の分野にとどまらない。そんな恐怖が彼たちを襲う。世界からエリートたちを温かく迎え入れる米国の笑顔はもう存在しない。冷徹な司法は彼たちの目には、より政治的色彩を帯びてきたようにも映っている。

ウェブ上の中国語書き込みを見ると、色々ある――。

在米留学歴をもつ中国人は急用がなければ、しばらくは渡米を控えたいといっている。米国の奨学金をもらった中国人ITエンジニアはiPhoneをやめてファーウェイのスマホに乗り換えたいと憤慨している。エリート層の対米感情の急激な悪化が現れはじめている。

某AI(人工知能)関連企業の創業者中国人は、10月に米国へ入国する際に審査官から根掘り葉掘り尋問をされたと恐怖をあらわにしている。またシリコンバレーで働く某中国人エンジニアは、米国の出入国にあたっては余計な検査や取り調べを避けるためにも手持ちのノートパソコンからSMS履歴をすべて削除していると告白した。

これらの中国人エリートたちは、実は米国にも中国にも疑われる可能性があるからだ。

価値観の葛藤、なぜアメリカが豹変したのか?

ファーウェイ事件で、多くの在米中国人エリート層が少なからずショックを受けている。米国の教育を受け、シリコンバレーで働き、西側の価値観をも受容する人たちである。彼たちはこの事件でアメリカに懐疑を抱き始めた。

人種のるつぼといわれる米国は何より、多様性に価値を置いてきた。しかし、トランプ大統領の中国に対する露骨な狙い撃ちによって、このような米国の固有価値観に背馳する一面も露呈した。中国人エリートたちが戸惑うのも無理はない。

ニューヨーク・タイムズ系のコラムニスト袁莉氏がこう述べている。「北京にとっても、中国人エリート階級の対米恐怖感と信頼感の欠落によって恐ろしい結果を生む可能性がある。米中貿易に衝突が存在しながらも、双方の経済が緊密につながっている。現下中国経済の減速も相まって、米中のビジネス関係のいかなる停滞も状況を悪化させ得る」

その通りだ。米中の対立に直面する中国人エリートの大方は普遍的価値観の側面において総じて米国側に立っている。少なくともそのように見える。彼たちは中国がより開放された自由な市場にすべく自国政府にも働きかけているようにも見える。

権威主義体制下で育った中国人はあらゆる領域に及ぶ国家権力にとにかく敏感である。あらゆる領域に政治やイデオロギーが浸透し、彼たちはこのような赤裸々な権力行使に嫌悪感を抱きながら脱出を図り、自由な国であるアメリカにやってきた。彼たちから見れば、孟氏は犯罪者でもなければ、法律上の被疑者。あくまでも米中貿易戦争の犠牲者にすぎない。非常に感性的ではあるけれど。

彼たちは、中国人に生まれたこと、あるいは中国からやってきたこと、この出自を「原罪」とされたように感じた瞬間に、固有のアメリカのイメージが崩れ去ったのである。

架橋を撤去し、米中間には「分断」を

このエリート層をトランプ氏が排除する姿勢を示せば、米中間の架橋が撤去されかねない。こんな馬鹿げたことをなぜトランプ氏がやろうとしているのか。

いや、じつはまったく馬鹿げたことではない。これはまさにトランプ氏が狙っていたところなのだとさえ思えてならない。中国人エリート層といっても中国の利益を代弁するものもいれば、完全に米国化したものもいる。敵か味方かの弁別が簡単につかない。たとえしようとも莫大なコストがかかるし、正確性も保障されない。ならば、その弁別をいっそ諦めたほうが効率がよい。

そこで人材が米国から流出するだろう。米国にとって損失ではないか。さて、何の損失かというと、ITなど科学技術の進歩が停滞するということだ。単純な仮説として、中国がある日技術的に米国を超越した場合、どう対処するかの問題を取り上げてみよう。

この問題の解決には2通りの方法がある。正確に言えば二段構えである。まずは中国の進歩を抑制し、息の根を止めることである。これは通商の鈍化やサプライチェーンの無効化(中国外のサプライチェーンの立ち上げ)といった手段を講じることだ(12月9日付け記事「休戦あり得ぬ米中貿易戦争、トランプが目指す最終的戦勝とは」)。数年後に成果が出れば、米国の勝利となる。

次に、もしこれが失敗した場合、つまり米国の抑制が奏功せず中国が最終的に大成功し、しかも米国を超越した状況になった場合の話。そのときに、べったりした中国依存状態よりも棲み分け状態のほうがよほど有利であることは自明の理である。

キーワードは「分断」と「棲み分け」。だから、掛け橋は要らないのだ。いや、邪魔で危険なのだから、早く撤去したほうがよい。トランプ氏はこう考えているのではないか。

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