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「2046年」に消える「最後の香港」 ~映画『宵闇真珠』監督インタビュー~ - フォーサイト編集部

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「2046年」の意味

 ウォン・カーウァイ監督の映画作品に、『2046』(2004年公開)という、2046年という未来が舞台のラブストーリーがあります。

 実はこの「2046」という数字は、香港の人にとっては意味深い数字なんです。というのも、1997年に香港がイギリスから中国に返還されましたが、その際に中国は、50年間は今の体制を維持すると言明したんですね。つまり逆に言うと、2046年は、香港が今の状態でいられる最後の年になるわけです。

 この世の中で賞味期限付きの場所、期間限定の場所というのはすごく少ないと私は思うんです。たとえば1991年にソ連という国家が崩壊しましたが、これは突然起こったわけですね。ところが香港は、2047年には今の体制が終わることがはっきりしていますから、今の香港は失われてしまうものだという特別な不安を抱えたまま、香港の人たちは日々を暮らしているわけです。

 私もそうした不安を感じながら香港で育ちました。自分が生まれ育った場所はかけがえのないものなのに、それは期間限定でいずれなくなってしまうという矛盾を、自分の一部として抱えているんです。

 香港は250年前まで、たくさんの漁村がありましたが、それがだんだんなくなってきています。漁村には独特の方言とか、ソルトウォーターソングというとても特別な歌があったりするのですが、今はもう歌える人も少なくなっている。でもそんな漁村が私の香港であり、私にとって大切な場所なんです。

「失われていく香港」を永遠に

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 この作品は一見現代風ですが、時代設定は仮想です。スマートフォンもパソコンもなく、あるのはウォークマン、カセットテープレコーダー、公衆電話、ラジオの電話リクエスト……。これらがあった時代は、世界はもっと狭く感じられたと思います。現代の状況はそれが破砕されていて、インスタグラムで誰をフォローしているか、どの新聞を読むか、どんなテレビ番組を観るかによって、人それぞれが独自の“現実”を持っています。私には、もっとシンプルな時代に戻りたいという思いがありました。

 そして、どこか大切な場所が失われているということを観客に表現するには、こうした過去のものを描いてノスタルジアを想起させることで、「失われる」という感覚を呼び覚ましたいと思ったからです。そうすることで、今生きている世界が失われつつあるものであることを強調できます。私がただ、「今の香港はなくなっていくんだよ」と誰彼に話してもみんな信じてくれないでしょうが、この映画を観ていただければ、失われていく香港が伝わるのではないかと思います。

 自分にとって大事な人や場所、失われても自分に影響を与えたものはいつまでも心の中に残っていたりするものだと思いますが、映画はそうした大事なものを残すことのできるメディアだと思います。

 今回の映画で言うなら、漁村というものが「最後の香港」の姿です。映画の中でもちらりと映りますが、10月に「港珠澳大橋」が開通して、メインランドチャイナの広東省珠海市とマカオ、香港がつながりました。そして新しい再開発が進むわけですが、一方でどんどん失われていく「最後の香港」を映画に残すことによって、それを永遠のものにしたい。そういう意味でこの映画は、「最後の香港」の漁村を舞台にしたラブストーリーなのです。

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