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鈴木智彦が語るヤクザの今後 「タバコと同じく絶滅する」

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高級車乗り回して肩で風切るヤクザは昔の姿

――最近は暴力団の乗る車が外車から国産大型ミニバンに変わったように思いますが、暴力団の困窮化が影響しているのですか?

単に居住性がいいから大型ミニバンになっただけです。今どきベンツだからって、見栄っ張りの道具にならないですよ。地方ならいまだにいますけど。

調べていくと、ディーラーのセールスマンと暴力団員が幼馴染で、結託して暴力団の名前で今でもローンを組んでいる例はある。

――暴排条例には抵触するけど、見過ごしている。

一時期ある車種が暴力団に人気になって、自動車会社がすごく焦った。「暴力団に使われたくない」って言って。で、調査したら、売っているのは自分のとこのセールスマンじゃないかって(笑)。

要するに暴力団員は無職じゃないといけないんですよ。暴力団との取引は暴排条例で禁止されているから。で、無職だから、1000万円の車を持っていたらおかしいじゃないですか。だから、組織から中古で250万円の車までにしておきなさいと、通達が出るとこもあるんですよ。ある有名な組織ですけど。

要するに裁判の時に、1000万の車乗っていたらあたふたするでしょ。だけど、ヤクザなんて肩で風切って歩いて「俺はヤクザだ。すげえだろ」って言いたくてなったのに、それをするなって言うんだから。高級車乗り回して、バーンって飲み屋の前に止めてやりたいのがヤクザなんだから。

鈴木が尊敬する溝口敦氏(左)。組織犯罪の実態を描くトップランナーだ

ヤクザ映画ではわからない暴力団事務所が「禁煙」という現実

――一般社会が描くヤクザ像は無くなりつつある。

今、ヤクザ映画なんて本当におかしなことになっています。映画と事実がずれていても良いんですが、ズレ過ぎなんですね。暴排条例が出来て、ヤクザの現況って180度変わったのに、それを全く無視して映画が作られている。

例えば、大方の暴力団事務所って今禁煙なんですよ(笑)。これだけ禁煙社会になったから。ヤクザは社会の写し鏡だから、こんだけ社会が禁煙になったら、暴力団だって吸わないんですよ(笑)。

――歌舞伎町のマンションの関する記述では、ゴミ出しのルールをしっかり守る暴力団が登場します。

ヤクザの事務所だってホワイトボードに「燃えるゴミの日」ってあるんだもん(笑)。でも、映画だと灰皿があるでしょ。大体、そもそも事務所にピストル置くわけないじゃんって。

終焉を見届けるために、今後もヤクザを追い続ける

――暴力団とは何なのでしょうか。

基本的に面倒くさい人であることは間違いないんですよね(笑)。何か頼みごとをしたら、三つぐらい用事や調べを頼まれる。

暴力団に抱いていた幻想があったんです。暴力団には俺の知らない人生の心理があって、暴力団は世間とは違うと。社会に対し、「こんな常識を受け入れる必要はない」って俺も反抗してきたけど、暴力団の中にはその答えがある。一般の社会にはない哲学と、それを実践するすごい人物がいるんじゃないかなと思っていた。

それを探していたところはあるんですよね。でも本当に、一つも無かった。これでけりはついているんですよね。一種、暴力団の取材に対しては。

――それでも続けるのはなぜですか?

それでも続けるのは終焉を見届けたい。っていうのが一つですよね。ヤクザって言う形態がなくなることは間違いなくて。

「もうすぐ絶滅するという煙草について」(キノブックス)という本を今年の春ぐらいに読んで。面白かったけど、それと同じですよね。将来絶滅する暴力団というものがどういう風に絶滅するんだろうと。


取材後記:

遠慮なく尋ねてみた。「暴力団担当の刑事も鈴木さんもヤクザっぽい見た目なのはなぜか。少しでも相手に近づくためでしょうか」。答える鈴木氏の笑顔が印象に残る。「俺、そうなんすよね。実はそう言われるのがすごく嫌で」。

暴力団担当の刑事には暴力団に取り込まれ、“ミイラ取りがミイラになった”例も少なくない。ただ、鈴木氏にとって暴力団は社会の矛盾を描くための取材対象で、付かず離れずの距離感が重要。暴力団を追ってきたゆえの葛藤と、ライターとしての矜持を感じた。

暴力団をめぐる現況は厳しい。暴力団対策法、全国で施行された暴力団排除条例で資金獲得活動は大きく制限された。人身売買や薬物取引などの違法行為や犯罪被害者を考えれば、暴排が強化されるべきは至極当然だ。

ただ、真剣に更生を目指す元組員が拠り所に出来る環境や、子どもが幼稚園に入れなかったり銀行口座を作れなかったりするなど「暴力団員の人権」という繊細な問題に関する議論は十分だったか。警察当局の暴排の動きだけでは決して片づけられず、重要で根深い問題があるはずだ。

統計上、暴力団員の数は年々減っている。だが、暴排条例の規制を逃れるために暴力団を離脱したと装い、反社会的活動の収益を上納し続ける「偽装離脱」など、状況は複雑化しつつある。暴力団に属さない「半グレ」の問題も深刻だ。

暴力団構成員としての登録を免れた彼らはどこに向かったのか。残念ながら、全員が社会で“真っ当に”生きているとはとても思えない。暴排によって遠い存在となったはずの暴力団が、実は市民生活に入り込んで犯罪に手を染める。それは皮肉でなくなりつつあるのではないか。

「捨て去られてしまう話は俺がやる」。鈴木氏はインタビューでそう繰り返した。「サカナとヤクザ」は、深く暗く危険な現場に自ら身を置く圧倒的な取材力で、読者を密漁の現場へといざなった。そこは、「密漁禁止」という警察や海保当局の美辞麗句の表層だけを見ていては決してたどり着けず、実感も得られない現場だ。

鈴木氏は今後も衰退へ向かう暴力団に迫り続ける。「暴排」の謳い文句では決して見えてこない生々しい実情や個々人の本音を伝えてくれるはずだ。そうしたレポートでようやく暴力団の実情の全体像が見えてくる。

社会がどう暴力団を捉え、排除していくのか。合わせて、社会復帰という難しいテーマにどう取り組むべきか。そのヒントを探るには、暴力団の全体像を知ることが不可欠だと思う。それは「サカナとヤクザ」から得た実感だ。

いかつい見た目と大きな体でフットワーク軽く暴力団や刑事と接触し続ける。人権にも関わる重大な問題が解決しないままに暴力団の衰退だけが進む今こそ、鈴木氏の役割は増していく。

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