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部活動は「社会情動的スキル」を育てる データから部活動の意義を考える

ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 木村治生

過剰な活動量(ブラック化)や不当なパワーの行使(いじめや体罰、パワハラ)など、最近、マイナスの面で話題になることが多い部活動。しかし、大人になってからふりかえると、部活動があったからこそ学生生活が充実していたと感じる人が多いのではないでしょうか。また、競技や活動の種類を超えて、仲間との試行錯誤の中でさまざまなことを学んでいたはずです。

今では少なくなりましたが、かつての企業の採用では運動部出身者を優遇するといった慣行がありました。それは、運動部の活動が、一定の資質・能力を育てていたからなのかもしれません。そうした部活動の意義や効果については、感覚的には理解できますが、なかなか証明しにくいものでもあります。

今回は、部活動に参加している子どもの特徴を見ていくことで、活動が子どもたちにどのような意味を持っているのかを考えていきます。

●部活動と学業成績は無関係

 最初に、部活動と学業成績の関係についてみてみましょう。検証には、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が共同で実施している「子どもの生活と学びに関する親子調査2017」を用いました。


図1をみてわかるように、部活動への参加の有無は、学業成績との関連がみられません。活動の長さとの関係も同様でした。そんなものかと思うかもしれませんが、これは時間の使い方の研究の観点から見ると、かなり意外な結果です。というのも、時間は誰にとっても有限であり、ある時間が長くなると別の時間が短くなるという構造を持つからです。部活動の時間が長くなると学習に費やす時間は短くなるのが普通です。そして、学習時間が短いほど学業成績が低いことは統計上明らかです。したがって、部活動を長くやっているほど成績が低くなると予測できます。

ところが、部活動をやっているかどうかや熱心かどうかでグループに分けて学習時間を比べてみると、差がほとんどありません。これはどういうことを意味するのでしょうか。

部活動に参加している生徒は、テレビ視聴やスマートフォンなどのメディアに使う時間が短い傾向があります。つまり、こうした余暇時間をコントロールして、学習時間を確保しているのです。学業成績に直接の効果を持つのは、当たり前ですが部活動の時間ではなく学習時間。ですから、生活全体のなかで学習時間が減らないように工夫すれば、成績へのマイナス影響を回避することができます。生徒たちは部活動に参加することで、限られた時間を有効に活用する管理能力を身につけている、といえるかもしれません。

●運動部参加者は友人が多い

次に、部活動が人間関係におよぼす影響をみてみましょう。

先に紹介した調査では、学校内と学校外のそれぞれについて、「仲の良い友だち」が何人くらいいるかをたずねています。図2は学校内の友人の数について、中学生の結果を部活動別に示しました。これを見ると、「運動部」に参加する生徒は「3人以下」という回答が少なく、「21人以上」が多いことがわかります。こうした傾向は、学校外の友人数についても同様で、高校生も同じでした。


部活動の効用の一つに、人間関係を広げるということがあります。部活動は、クラスや学年の枠を超えて行われます。そのことが、より多様な人間関係を生みます。同じ目標を乗り越えるために仲間と努力することで、紐帯も強まります。大人になってみると、クラスの友人よりも部活動の友人のほうが深いきずなが残っているという人も多いでしょう。とくに運動部の生徒に仲の良い友人が多いのは、活動の頻度が高いこと、規模が大きいことなどが影響していると考えられます。

●部活動は「社会情動的スキル」を育てる

それでは、そうした友人関係は、子どもたちにどのような力を育てているのでしょうか。

生徒自身に「自分はどのようなことが得意か」を評価してもらった結果では、「わからないことや知らないことを調べる」「論理的に考える」などの認知的なスキルには、部活動に入っているかどうかで「得意」の比率に差はありませんでした。これは、学業成績に差がないことと一致します。

ところが、「リーダーとしてグループをひっぱる」「グループがまとまるように協力する」「相手と自分の意見の違いを考えながら人の話を聞く」「人の意見を聞いて自分の考えを取り入れる」など、自己を主張したり抑制しながら集団関係を維持することについて「得意」と回答する比率は、部活動に参加する生徒ほど高い結果になりました。

OECDは、社会とのかかわりの中で自分を生かす力について「社会情動的スキル」と名づけ、認知的スキルと同様に重要だと主張しています(経済開発協力機構『社会情動的スキル-学びに向かう力』明石書店、2018年)。

それは、目標達成(忍耐力、自己抑制、目標への情熱)、他者との協働(社交性、敬意、思いやり)、感情のコントロール(自尊心、楽観性、自信)などの要素からなり、社会での成功とともにウェルビーイングにつながることが示されています。確かに、頭がよいというだけでなく、仲間とともに目標を達成したり、課題解決できたりする人のほうが、高い成果をあげそうです。データには、部活動がこうした社会情動的スキルの育成に役立っている可能性が表れています。

●部活動の強みは平等性

部活動の優れた点について、もう一つ加えておきたいと思います。それは、多くの生徒に平等な機会を提供している点です。

小学校段階では、一部の地域を除いて部活動のような取り組みが学校で行われてはいません。その代りに「習い事」に通う割合は中学生よりも高く、多くの子どもがスポーツや文化・芸術的な活動を行っています。ただし、そこには一定の費用がかかります。保護者の意識や文化的な要因も影響します。そして、施設や子どもの数などの問題から、都市部のほうが習い事が盛んな傾向もあります。こうした家庭の文化経済的な格差や地域差が、習い事にはどうしても生まれてしまいます。

ところが部活動には、参加の有無に家庭の年収による差や保護者の学歴による差が見られません。地域差も同様で、かえって地方に住む子どもたちのほうが部活動に熱心です。このように、全国どこでも、どのような属性の子どもたちも等しく、スポーツや文化・芸術に触れる機会を提供している国は、日本のほかにありません。わが国のスポーツや文化・芸術の基盤を支えているといえます。

●部活実施の仕組みを再考する必要性

しかし、課題はやはり、その仕組みにあります。

現在、ほとんどの学校では、部活動の指導を教員が行っています。部活動は教育課程外に位置づけられていて、参加は自主的なもの。教員にとっても、指導の義務はありません。部活動を指導しようがしまいが給与に変わりはなく、教員はいわば善意で指導しています。これが、教員の勤務の長時間化を招く原因にもなっています。

教員もアンビバレントな気持ちを抱えています。部活動は生徒が人間的に成長する場でもあるので、やりがいを感じている教員も多くいます。その一方で、本来の学習指導をきちんと行うためにも、負担を軽減したいと考える教員がたくさんいます。文部科学省の教員勤務実態調査が示すように、中学校教員の6割が過労死ラインを超えるような状況は、課題があると言わざるを得ません。

部活動が子どもの成長のために必要で、社会にとっても重要な機能なのだとしたら、その負担を教員の善意だけに頼るだけというのは不健全です。図3に示したように活動の規模を縮小したり、教員以外の指導者を入れたりして、長続きする仕組みに変えていくことが望まれます。


今回データで紹介したように、部活動は子どもたちのさまざまな資質・能力を伸ばしているといえそうです。しかし、その検証はまだ少なく、エビデンスも十分とは言えません。

今まで部活動は、あって当たり前、やるのが当たり前の存在でした。しかし、子どもの教育のなかでどのような機能を持っているのかを明らかにし、そこにどれくらいのコストをかけるのか、社会的にもきちんと検討すべき段階にあるといえるでしょう。 今回の検証に用いた部活動関連のデータは、ベネッセ教育総合研究所のホームページに掲載しています。そちらもご参照ください。

木村治生(きむらはるお)

ベネッセコーポレーション入社後、初等・中等教育領域を中心に子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究、学習のあり方についての研究、教育市場(産業)の調査などを担当。文部科学省や経済産業省、総務省から委託を受けた調査研究にも数多く携わる。東京大学客員准教授(2007年、2014~16年)、文部科学省「中高生を中心とした子供の生活習慣づくりに関する検討委員会」委員(2013年)、「中高生を中心とした生活習慣マネジメント・サポート事業」における選定委員会委員(2017年)、光り輝く「教育立県ちば」を実現する有識者会議委員(2014年)、富山県学力向上対策検討会議アドバイザー(2014年)、草加市子ども教育連携推進委員会専門部会委員(2014年~)など。専門は社会調査、教育社会学。

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