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「柔道界は変えないといけない」—— 体でわからせるための「絞め落とし」の指導は違法との判決

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柔道教室での、絞め技で意識を失わせる「絞め落とし」は違法だとして、福岡市の聡志さん(仮名、18)が指導者を相手に損害賠償を求めていた訴訟で、最高裁は今年6月、指導者側の上告を受理せず、指導者の行為は「行き過ぎ」であり、違法と認めた。これにより判決も確定、半年が経ち、聡志さんと父親・石阪正雄さん(48)が筆者の取材に応じた。

聡志さんが柔道を始めたのは中学1年のとき。小学生のときはサッカーをしていたが、「上手くならない」と思いやめてしまった。その後、中学の部活動説明会で見た柔道の顧問のかっこよさに“一目惚れ”し、鹿児島県内から福岡市に引越した際、地域の柔道教室に入った。

中学2年生だった2014年10月、柔道場で乱取り稽古をしていた。そのとき、指導者による首を絞める「片羽絞め」を受け、聡志さんは一時的に意識を失った。絞め技は頚動脈を圧迫させて、脳への血流を遮断させ、意識を失わせるもので、中学生から使用可能だ。意識がなくなる前に、技をかけられた側がタップすれば一本負けとなる。しかし、一度受けるだけでも脳にダメージが残ると指摘する専門家もいる。

事実確認もしないまま指導。休んでいると「演技がうまいね」

訴状によると、指導者Aは、稽古前の聡志さんに「小学生に絞め技をしただろう」と言ったが、聡志さんは否定した。乱取り稽古が始まると、普段は稽古をしない指導者Aが聡志さんの相手となり、そのときに絞め落としされ、5秒ほど気を失った。指導者Aは「これが絞め技ということだ」と言った。意識を取り戻すと、再び絞め技をかけ、タップすると、指導者Aは「まだ決まっていない。タップが早すぎる」と言ったという。その後、3、4秒、意識不明となった。

聡志さんは全身がしびれ、頭痛がし、息がきず、話もできない。水筒の蓋も開けられない。練習が続けられない状態となり、休憩していた。休んでいる姿を見つけた指導者Aは「誰に断って休んでいるんだ」と、別の指導者Hも「こんなの大丈夫」「演技がうまいね」「そんな演技をしているんだったら学校に言いふらしてやる」と怒鳴りつけたという。

そんな状態で指導者Hは、ランニングを指導したが、聡志さんはゆっくり歩いていた。指導者Hが「救急車を呼ぶか?」と言ったが、聡志さんは「呼んでください」と訴えたが、無視された。

一方、指導者側は、聡志さん側の主張のほとんどを否定。絞め落としは故意ではないし、一回だけ。練習中のため違法性はないと反論した。さらに、指導者Hも、違法性のない指導を中止させる義務はない。聡志さんの症状は嘘でああり、後遺症もない、との主張を展開してきた。

取材を受ける聡志さん

背景には道場内の人間関係。初心者のため、いじめのターゲットになっていた?

小学生に絞め技をしたと言ってきたのは、女子小学生だった。聡志さんは男子中学生の初心者だった。この柔道場には20人の子どもがいたが、中学生は3人だけ。女子小学生からすれば格好のターゲットになっていた(判決では、聡志さんが正雄さんに内緒で道場を休んだ理由として、女子からいじめを受け、それに耐えられなかったとする証拠はない、とした)。

「この教室の子どもは強豪でした。道場は小学生がメイン。しかも女子が強いのです。そのため、初心者で男子中学生の聡志は、乱取りのときに必要以上に振り回されたり、女子からは、無視され、バイキン扱いもされていたんです。そのため、一時的に道場に行かなくなることがあったんです。小学生の母親に中には“私も子どもたちに言っておく”と加害性を認識していた人もいました」(正雄さん)。

ただ、事件当時、聡志さんも実力がついてきていた。

「陰湿ないじめもあったんですが、柔道の技で対抗していました。そのため、楽しくなってきたんです」(聡志さん)

記憶がぼんやり。視界は白くぼやけ、恐怖や危険を感じる

そんなときに、女子小学生が「絞められた」と指導者に言ってきた。しかし、指導者は十分な確認をしないまま、聡志さんの声を無視し、体で危険性をわからせようとした。意識を失ったときの記憶はあるのか。

「指導で絞められた経験はありますが、落とされたのは初めて。記憶はぼんやりしています。辛かったことを覚えています。直後は泣いていました。怖かったし、何が起きたのかわからないでいました。視界が白くぼやけ、このままだと危ないと、端に行きました」(同)

このとき、どんな感情を抱いていたのか。

「誰も助けにきてくれない。“なんで落とされたのか”など、いろんな思いが混ざっていました。怖かったと思いましたし、理不尽だとも思いました」(同)

帰宅したとき、正雄さんは異変に気が付いた。「何があったのか?」と聞くと、聡志さんは泣きながら、答えた。話を聞いているうちに、この時点で裁判案件だとも感じた。このとき保護者に連絡があるはずだと思っていたが、連絡はない。ただごとではないと思った。

そのため、市立急患診察センターに連れて行くと、翌日に脳神経外科の受診を勧められ、午前3時ごろ、受診すると「血管迷走神経性失神および前頸部擦過傷」と診断された。さらに午後4時ごろ、別の脳神経外科クリニックへ行くと、手がコの字になっていたことをあげて、医師は「過度のストレスによるもの。すごく怖い体験をしたはずだ」と指摘した。

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