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内部労働市場と構造変化の効果:韓国における労働移動 1998 - 2000

Bongoh Kye, 2008, "Internal labor markets and the effects of structural change: Job mobility in Korean labor markets between 1998 and 2000," Research in Social Stratification and Mobility, Vol.26 No.1, pp.15-27.
1997年の経済危機以降、韓国における内部労働市場がどのように変化したかを論じた論文。内部労働市場とは、組織の外側との競争から保護された労働者たちの領域であり、以下の3つの特徴を持つ仕事の一群 (clusters of jobs) のことである (Althauser and Kalleberg 1981)。

  1. 職階 (job ladder) の存在
  2. 新規採用者は、職階の最底辺から入職
  3. 知識やスキルにもとづいて組織内部から昇進者を選ぶこと

このような内部労働市場は制度や文化的要因、経済状況に左右されるものの、経済合理性があるといわれている。企業特殊的人的資本が必要な場合や一般的人的資本であっても雇った後にトレーニングが必要な場合、ある程度長期間働いてもらわないと企業にとっては不利益が大きい。また、労働者が企業の機密や顧客を持って競争相手の企業に移れば損害を被ることになる。そこで職に就いた直後は賃金を低く設定し、スキルの高さや勤続期間に応じて賃金を上昇させることで労働者が仕事を続けるように水路づけるのが内部労働市場という仕組みである。内部労働市場は外部労働市場に比べると短期的な景気変動の影響を受けにくく、一般には規模が大きく寡占に近い企業ほど内部労働市場を発展させやすいという。


内部労働市場は短期的な景気のサイクルからは影響をあまり受けないとはいえ、ドラスティックな経済の変化からは影響を受けるという。ポスト・フォーディズムと呼ばれるような経済体制下では短期的に商品の種類や量が変化するので、それにあわせて労働者も解雇したり雇用したりするほうがコストがかからなくなるため、内部労働市場を維持するコストが高まるという。また内部労働市場は企業側の利益だけでなく、安定した雇用を求める労働者の利害の産物でもあるので、組合の力が弱まれば内部労働市場も縮小すると考えられる。こういった傾向は韓国でも存在しており、内部労働市場の縮小が予測される。

Kye は Korean Labor and Income Panel Survey (KLIPS) のデータを使い、雇用者に限定して内部労働市場の変化について検討している。内部労働市場については、職種ごとに内部労働市場化の程度を示す指標が計算されている。職業 j についている個人 i がその j という職業に就いていた期間を Ei, 個人 i が現在の勤め先企業でこれまで働いてきた期間を Ti とすると、Ti - Ei の平均値を職業ごとに計算したものが、その職業の内部労働市場化の程度とされる。例えば、道路工夫をずっと続けているが、勤め先は次々に変わるという人が多い場合、道路工夫の Ti - Ei の値はマイナスの絶対値の大きな値をとり、内部労働市場化がされていないということになる。もしも同じ企業内で別の職種から入職する人が多いような場合(例えば事務職から管理職に昇進するような場合)、 Ti - Ei の平均値は正の値をとると思われるのだが、本文では Tij - Eij と j の添え字をつけてあるので、もしかしたら Tij - Eij の最大値は 0 になるように計算してあるのかもしれない。構造変動については、産業ごとに指標が計算されている。産業 k の時点 t における入職者数を S+kt、離職者数を S-kt、在職者数を nkt とすると、産業 k の時点 t における乱流率(turbulence rate 人の入れ替わりの激しさ)は (S+kt + S-kt) / 2nkt であらわされる。また、純変動率は (net change rate) は、(S+kt - S-kt) / nkt であらわされる。

これらの変数を説明変数とし、企業からの離職を被説明変数とした離散時間イベント・ヒストリー分析を行った結果、内部労働市場化の弱い職種や乱流率が高く純変動率が低い(つまり労働者の減少率が高い)産業では離職が起きやすい。このような内部労働市場の効果は1998年までは有意であるが、1999, 2000年には四分の一程度になり、有意でなくなっている。また、内部労働市場の効果は、乱流率が高く変動率が低い(つまり縮小している)産業で特に強いことが示されているが、交互作用効果が有意になるかどうかは書かれていない。このような交互作用は1998年にははっきりしているように見えるが、1999,2000年には弱まっているように見える(が、これも統計的に有意な変化なのかは不明)。

一年間当たりの離職率が21~24%という数字に驚いた。日本の場合、非正規雇用を含めてもここまで大きな値は取らないのではないだろうか。分析結果は穏当なものだが、内部労働市場化の指標が引っ掛かった。日本や韓国の場合、職種よりも企業規模や産業ごとに見たほうがいいような気もするのだが、自信はない。もう1つ気になるのは韓国の Monthly Labor Survey によると 1998年に失業率が急上昇したあとその後、急激に低下しており、1997~8年に多くの人が離職しているはずなのだが、KLIPS の1998年の離職率は1999、2000年と大差ない。別に矛盾はしていないのだが、自営を除いている上に1997年以前の状況がわからないということが、何かデータの解釈をミスリードしてはいないかということが、やや心配ではある。また、この分析結果を信じるならば、2000年には内部労働市場の効果は有意ではないのだが、いくら効果が弱まっているとはいえ、ゼロになったといわれるとやや信じがたい気もする。

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