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ゴーン氏「虚偽記載罪で起訴・再逮捕」、“検察バイアス報道”で生じる誤解

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「支払の金額」について、ある年度の役員報酬として予定していた金額のうち、その年度には役員報酬として一部しか支払わらわず、退任後に別の名目で支払われることを予定していた場合、退任後の支払予定額をどのような金額に設定するかという問題(a)と、それがどのような条件で支払われるのか、確実に支払われるのかという問題(b)とは別の問題だ。それを、その年度に役員報酬としての支払を予定していた額と、実際に支払った額との差額にするというのは、一つの支払予定額の設定の方法だが、金額をそのように設定することは、退任後の支払が確定的であることには直接結びつかない。

朝日記事の書類1で、退任後の支払予定額が「年間報酬の総額と、その年に受け取った額の差額」とされているが、それは、支払の確実性に直接結びつくものではない。また、同記事で、「秘書室幹部は、退任後の報酬支払いを確約する文書だと説明した」とされているが、秘書室幹部には、退任後の報酬を確約する権限はないし、ゴーン氏にも、その年度で支払う報酬額を確定させる権限はあっても、自分が退任した後の報酬支払を確定させる権限はない。

そして、さらに問題なのは、契約の効力としての(b)の「支払の確実性」の問題と、それが「役員報酬」の支払と言えるのかという問題(c)とが混同されていることだ。

「退任後の支払い方法が書かれた書面」の法的有効性

朝日記事によれば、退任後の支払い方法が書かれたという書面(書類2)に、コンサルタント契約や競合他社に再就職しない契約など、複数の別の名目が記されているとのことだが、問題は、書類2の内容となっている「コンサルタント契約や競合他社に再就職しない契約」の有効性だ。

その書類には西川社長も署名しているのであるから、法的に有効なのではなかろうか。そうだとすれば、(b)について、「退任後の支払はほぼ確実」と言えるが、それによって支払われるべき報酬は、「コンサルタント契約や競合他社に再就職しない契約」の対価であって、「役員としての業務の対価としての役員報酬」ではない。したがって、その金額を有価証券報告書に「役員報酬」として記載する義務はなく、虚偽記載罪は成立しない。

朝日記事からすると、検察は、この書類2が「報酬隠し」を補強する証拠であり、「報酬の一部だと分からないようにする隠蔽工作」と見ているとのことだが、だとすると、この書類2は、偽装工作のためのものであって、法的に無効ということになる。しかし、書類2が法的に無効なものであれば、(b)の支払の確実性が否定されることになる。

つまり、書類2が有効なものであれば、「退任後の支払」は相当程度確実なもので、それによって(b)の「支払の確定」が肯定される余地はあるが、それは、そのコンサル契約や競業避止契約の対価の支払であって役員報酬ではないので、(c)の「役員報酬」が否定される。また、書類2が「偽装工作」のための名目だけのもので法的に無効なものであれば、 (b) の「支払の確定」が否定される。

いずれにしても、ゴーン氏の「退任後の報酬」について有価証券報告書への記載義務が生じる余地はなく、虚偽記載罪は成立しないのである。

「隠蔽工作」に加担した西川氏の刑事責任

しかも、もし、西川氏が、書類2が「隠蔽工作」のための書類で、それに社長の西川氏が署名をしたということになると、同氏は「役員報酬先送り」のための「偽装工作」に加担したことになる。

朝日記事は、

特捜部は西川社長について、前段の「報酬隠し」の認識が不十分だったとして刑事責任の追及には慎重な姿勢だ

と述べているが、契約が名目だけのものだったと認識していたのであれば、「報酬隠しの認識が不十分」とは言えないことは明らかだ。

直近2年分については、有価証券報告書の作成・提出義務者である西川氏が、第一次的な刑事責任を負うことは、前の記事で既に述べたとおりだが(【ゴーン氏「直近3年分」再逮捕で検察は西川社長を逮捕するのか】)、「役員報酬先送り」のための「偽装工作」に加担したということになると、それ以前の期の退任後の報酬支払についてもゴーン氏の共犯として刑事責任を負う可能性が出てくる。

西川氏のクーデターの動機に関する新事実

この点に関して、注目すべきは、西川氏が、12月9日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた事実である(【(時事)日産・西川社長の交代を計画=ゴーン容疑者、業績不振で叱責も―米紙報道】)。

ゴーン容疑者は何カ月にもわたり日産の経営陣の刷新を計画し、西川社長の交代も検討していた。ゴーン容疑者は西川社長の経営方針に不満を抱き、とりわけ最近の米国事業の不振についてたびたび叱責していた

というのだ。

この米紙報道のとおりだとすると、ゴーン氏に関する社内調査結果を検察に持ち込み、逮捕の3日後に、臨時取締役を開催してゴーン氏代表取締役解職を議決した「クーデター」の背景に、西川氏の個人的な動機が存在していた可能性が生じる。直近の年度で、約4億円近くもの高額報酬を得ていた同氏が、ゴーン氏による社長解任の動きを察知して、その地位を守ることが西川氏の行動に関係していたとすると、今回の事件の性格は、ゴーン氏と西川氏との内部抗争的な性格を持つものとなり、事件の性格は全く異なったものになる。

西川氏が「報酬隠し」の「隠蔽行為」に加担したとすれば、検察との間で「司法取引」が行われる余地もないわけではない。しかし、ゴーン氏の部下の秘書室長との間の「司法取引」であればともかく、社内の内部抗争の一方当事者との間で「司法取引」を行うというのは、「日本版司法取引」の制度趣旨にも著しく反するもので、そのようなことが明らかになれば、制度そのものが崩壊しかねない。

起訴の時点で報道されたとおりだとすると、当初の逮捕容疑の2015年3月期までの「5年分」についても、再逮捕の容疑にされた「直近3年分」についても、有価証券報告書虚偽記載罪が成立することは考えられない。

それでも、検察が、ゴーン氏の刑事責任追及に執着するのであれば、その捜査では、ゴーン氏追い落としの中心人物となった西川氏に対する捜査・処分をどうするかという重大な問題に直面することになる。

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