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日本を滅ぼす超高齢社会(2)―忘れ去られた『種の存続』

 日本は世界屈指の人口大国であり、先進国のなかでもアメリカに次ぐ規模の人口を擁する。50年後には総人口が8000万人程度まで減少しても十分やっていける。なのに、いったいなぜ「滅ぶ」と言うんだい?

 確かに、もっとも豊かな国々は、総人口はそれほど多くない。日本人が憧れている北欧諸国の人口もだいたい数百万人程度。ほかに、地球上、人口数十万人の国もある。近年「世界一幸せな国」と言われ注目を集めているブータンは約70万人しかない。

 国として成り立つ条件は、人口の数ではない。しかし、総人口はわずか半世紀間で3分の2まで急減、国民10人中4人が高齢者というような国は、国として成り立たなくなる。その意味で、「日本は滅ぶ」と言っている。

 日本以外の先進国の多く、あるいは中国など一部の発展途上国も高齢化が進んでいる。ただし、これほど「闇の深淵」へ突進している国はどこにもない。高齢化率が日本に近似する先進国もあるものの、いずれも移民政策を確立しており、移民の受け入れによって自国の人口数や人口構造を調整することが可能だ。

 人口数の急減と人口構造の超高齢化を招いたのは、結婚しない、子どもを産まないことである。

 われわれは動物の頂点に達した人類であり、私たちの中には生き物すべてが持っている「種の存続」という根本的な本能があるといわれている。

 人間の根本的な本能といえば、食欲と性欲である。

 中国の哲学者・孟子は2000年前に「食、色、性なり」という名言を残した。「食」とは食べること、「色」は性欲を満たすこと、「性」とは本性、つまり本能である。食べることと性欲を満たすことは人間の根本的な本能である。このごく当たり前のことを端的に言い表しているのだ。

 われわれ個・個人の存続は食べることが欠かせない。そして人類あるいは人間社会の存続、つまり、「種の存続」は性欲を満たす、およびそれに伴い子孫を残すことなしではありえない。

 ところが、奇妙なことに、最近の日本では、「草食系」「セックスレス」といった流行語が示すように、人間の根本的な本能がどんどん弱まっているように見える。しかもマスコミや出版業界などはほとんど興味本位でそれらを取り扱っているだけで、「種の存続」と結び付けて議論することはまったくない。

 現代社会、とりわけ民主主義の国では、個人の自由が最大限に尊重される。言い換えれば、個人の自由の尊重は現代社会の基盤である。人間の根本的な本能をどう満たすべきか、あるいはどう位置づけるかなども、基本的に個人の自由という範疇の問題になる。

 その意味で、結婚(するかしないか)、出産(産むか産まないか、何人産むか)といったことも基本的に個人の判断に任されるべきことといえる。

 とはいうものの、こういった個人の自由は果たして無条件で認められるべき絶対的な価値なのか、これをめぐってはすでに無数の議論が行われてきた。ここでは、「種の存続」という視点から、日本の超高齢社会を考えてみる。

 「種の存続」については実はいろいろな誤解がある。

 子孫繁栄のことを言っているだろう。遠い将来のことだから、いまの私と関係ない。

 私が結婚、出産しなくても、他人が結婚し、子どもを産むから、大丈夫だよ。

 本当にそうなのか。「種の存続」は将来のことでもなければ、他人のことでもない。一人ひとり、人間すべてが関わり、それを可能にしなければならないことである。例として社会保障を挙げてみよう。

 現代社会では、「種の存続」を可能にするファクターは社会保障ほど重要なものはない。社会保障といっても、漠然とした言葉で、「社会保障って私はほんとうに使っているの?」と思う人さえいる。ご安心ください、あなたも使っている。子どもなら、お母さんのお腹にいた時に検診を受けていたし、今や学校保健や医療サービスを使っている。それらはすべて社会保障の一部である。若者や中高年層、高齢者もみんな程度や制度の違いこそあれ、利用している。生活保護、健康保険、雇用保険、労災保険、年金保険、介護保険、児童手当、福祉サービス、等々、すべてが社会保障のなかに入っている。

 最近、「税金はどこでどうやって使われているかわからない。だから、払いたくない」という声がよく聞こえる。行政側の説明は十分でないということもあるが、国民として勉強不足という点もしっかり反省しなければならない。上下水道、市営バス、公立学校など、われわれの毎日の生活を支えてくれている公共サービスは税金で賄われている。役所に行って書類を発行してもらったり、福祉サービスの種類や手続きを案内してもらったりする。そこで働く職員の給料も税金から支払われている。インターネットで調べればわかるようなこともずいぶんと多い。

 社会保障は様々な制度を実施するために、財源を必要とする。その財源は税金と社会保険料に大別される。税金にしろ、社会保険料にしろ、空から降ってきたものではなく、人が納めるものである。納める人がいなかったら、あるいは少なくなったら、社会保障はガタガタとなり、崩壊する。

 社会保障財源の確保はますます困難な状況になっている。そんななか、借金(国債)を増やす以外に、制度間の調整、つまり、この部分を削ってほかのところへ持っていく。これは現在日本政府が必死でやっていることである。しかし、こんなやり繰りをいくらしても、財源減少という現実はまったく変わらない。

 社会保障崩壊の危機は一時的には一部の国民に影響を及ぼす。例えば、生活保護の適正化がより一層進められ、生活保護を受けられる人が少なくなる。あるいは、年金財政の深刻化に伴い、年金給付額が引き下げられる。しかし、その影響はやがてすべての制度、すべての国民に広がるはずである。

 いまは社会保障なしで生きていけない時代。日本ではほとんどすべての人が何らかの形で社会保障を受けて暮らしている。社会保障の崩壊は何を意味するか、端的に言えば、生活の崩壊、社会システムの崩壊、国家の崩壊である。この崩壊はすでに始まっており、このままでは日本人として「種の存続」すら脅かされるのだ。

 しかし、「種の存続」って生物学や人類学、人口学の人が考えることではないかという人も大勢いる。それは違うと思う。実際、社会保障の角度から見ても明らかなように、「種の存続」を意識しつつ自分の行動を決める、そんな時代はすでに来ている。それはまさに「個人の自由」と「種の存続」の葛藤から逃避できなくなったともいうべき時代だ。(執筆者:王文亮 金城学院大学教授 編集担当:サーチナ・メディア事業部)

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