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日産前会長・金商法違反事件-あらためて考える「法人起訴の重み」

12月7日の日経朝刊は、東京地検が有価証券報告書の虚偽記載(過少記載)立件にあたり、前会長を再逮捕する方針であること及び法人としての日産も金商法の両罰規定によって起訴する方針であることを報じました(8日の各紙も同様に報じています)。法人起訴の理由については「前会長の報酬隠しが悪質であることに鑑みて」とのことですが、前会長の再逮捕(直近3年度の報酬隠しに関する虚偽記載)も前提に法人を起訴するとなりますと、今後の本事件の展開を予測するにあたって様々な疑問が湧いてまいります。

まず東証の対応です。有価証券報告書の虚偽記載によって法人が起訴される事態となりますと、日産の株式は監理ポスト入りするのではないか・・・との疑問が湧きます。カネボウ、西武鉄道、オリンパス、ライブドアなど、虚偽記載もしくは不公正取引によって法人が起訴された場合には(1999年のヤクルト本社事件を除き)、すべて東証は当該法人の株式銘柄を監理ポストに移しています。

過去の「虚偽記載」を根拠とする法人起訴の案件では、いずれも虚偽記載が重要であると判断されたことから「上場廃止基準に抵触するおそれあり」として監理ポストへ移されたものと推測します。ということからしますと、検察が「重要事項に関する虚偽記載」と判断した以上、日産についても同様に取り扱うことが妥当であるように思えます。そこで、日産が上場廃止基準に抵触するおそれあり、として監理ポスト入りとするのかどうか、もし移さないのであればなぜしないのか、いずれにしても東証には合理的な説明が求められることになると思います。

そもそも本件は課徴金処分の権限を持つ金融庁を飛び越えて、一気に刑事処分の起訴権限を持つ検察庁が動いたので、東証に影響を持つ金融庁が(開示規制違反による法人処罰という点について)どのように考えているのか、とても興味を抱くところです。

つぎに監査法人の対応です。日産は12月下旬までに半期報告書を提出することが予定されています。日産は正しい財務諸表が提出しなければならないわけですから、計上されていない未払い報酬を計上する(もしくは、どこかに紛れ込んでいた別項目の費用を修正する)ことになる可能性は高いと思います。そして、半期報告書の提出と同時に過去の有価証券報告書に関する訂正報告書を提出することになります。これらの報告書に対して、EY監査法人さんは適正意見を述べることになるはずです。

しかし、虚偽記載に関するルノーと日産との考え方が異なる場合、フランスのEY監査法人さんは日本のEY監査法人さんの意見をどのように評価するのでしょうか(そもそも日仏のEY監査法人間でなんらかの協議はなされているのでしょうか?)ルノーが日産の会計処理を認めない場合、同じグローバル監査ファームにおいて異なる意見が出されるような事態となるのでしょうか?

東芝事件の際、日本のPwC監査法人さんと米国のPwC監査法人さんとの間で、意見の擦り合わせが非常にむずかしく、大きな課題を残しました(そのあたりから、有事における監査法人の情報提供の在り方が議論されるようになったのは、皆様ご承知のとおりです)。

そして最後に法人としての日産の対応です。金商法の両罰責任規定は、法人の代表者の行為が有罪とされた場合、(法人が立件されれば)法人自身も罰金刑を課されることになるのですが、法人に無過失の刑事責任を課すわけではない・・・というのが最高裁判決の立場です。つまり、両罰規定においては「法人の過失が推定されている」ので、法人側が金商法違反の開示を行うにあたり、法人自身に過失がないことを立証できれば責任を免れることができる、というのが理屈です(ただし実際には立証はなかなかむずかしいと思います)。

日産は事件発覚後、有価証券報告書を訂正しておらず、またゴーン氏の代表取締役解職を決めた取締役会でも、虚偽記載の点には触れずに、その他の不適切な行為の存在を解職理由としていたようです。したがって、法人としての日産は、起訴を争う姿勢を貫くことも考えられます。

ところで、虚偽記載を法人としての日産が否認するとなりますと、おそらく検察側から日産の内部統制やガバナンスの不備を指摘する多くの事実や証拠が公開裁判で開示されることになりますが、役員のリーガルリスクを考えた場合に、これは望ましいものではありません。

しかしながら安易に前会長らの行動について虚偽記載を認めるとなりますと、今度は「認めたこと」自体が「役員が安易に日産の信用を低下させたもの」として、善管注意義務を尽くしたかどうかに問題が残りそうです(このあたりは不当な利益を戻すことを前提とする課徴金処分と、過去の不正の制裁として罰金が科される刑事処分とは「認める」ことの意味は異なります)。

8日の東京新聞朝刊では、日産が社内調査報告書の公表に踏み切る方針であることが報じられておりましたが、法人起訴への対応がどのようなものであるにしても、日産が十分な調査資料と十分な議論を踏まえて経営判断に至ったことが、対外的に説明できるような準備が必要になるものと思われます。

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