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日産の好業績を支えたのはゴーン前会長の経営手腕ではない

 自力で再建できなくなった1990年代後半の日産自動車が、回復できたのはカルロス・ゴーン日産自動車前会長の手腕だったのか? ゴーン前会長が逮捕されて以来、日産復活への貢献度についての議論が巻き起こっている。2年前、すでに彼の強欲な経営姿勢について指摘していた経営コンサルタントの大前研一氏が、日産復活の経緯について解説する。

 * * *

 日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が有価証券報告書に役員報酬を過少記載した金融証券取引法違反の疑いで逮捕された事件は、日産の役員構成とルノー・日産・三菱自動車のアライアンス(出資比率や提携内容)がどうなるか、東京地検特捜部が容疑を立件できるかどうか、ということが今後の焦点となる。

 手前味噌だが、今回の事件では私の過去記事の予想が当たったと、ネットなどで大いに話題になった。

 私は今年5月の時点で、日産・ルノーの経営統合をめぐるフランス政府とゴーン氏の不穏な動きに警鐘を鳴らした。さらに、2年前にゴーン氏がルノーと日産に加え三菱の会長に就任して「3足のわらじ」を履いた際も、同業種の上場企業である日産と三菱のCEOや会長を兼務すると「利益相反」を生む可能性があるので看過されるべきではないと指摘し、ゴーン氏の報酬に対する貪欲な姿勢についても批判した。

 さすがに、今回明らかになった退任後の巨額報酬や会社資金の不正な私的流用などまでは予想していなかったが、企業のガバナンスとコンプライアンスの観点から見ると、そうしたゴーン氏の“強欲”な経営姿勢が許されないことは自明だったのである。

 ゴーン氏も当初の5年間は期待に応える活躍をしたと思う。「日産リバイバルプラン」を発表し、村山工場など車両組立工場や部品工場の閉鎖、グループ人員の2万1000人削減、購買コストを圧縮するための下請け企業半減といった大規模リストラを情け容赦なく断行し、2003年までに2兆1000億円という巨額の借金を完済してV字回復を成し遂げたのである。

 だが、その後の日産の好業績を支えた主要因はゴーン氏の経営手腕ではない。

 1990年代に経営破綻の危機に直面した日産が今日のように復活したのは、たしかに“奇跡”である。しかし、ゴーン氏は大規模リストラによるコストカットで日産の“負の遺産”を清算しただけであり、「GT-R」や5代目「フェアレディZ」などの人気車種を生み出して奇跡をもたらしたのは、もともと日産が持っていた技術力である。

 その象徴が、イギリスのサンダーランド工場(英国日産自動車製造会社)だ。

 私が初めて日産のコンサルティングを担当したのは、1980年代前半の石原俊社長時代である。当時、日産はイギリスで16%のシェアを持っていたため、マーガレット・サッチャー首相が石原社長にイギリスでの工場建設を要請し、用地選定や立ち上げ方などをマッキンゼーに依頼するようアドバイスした。それで私にお声がかかり、調査の結果、サンダーランドがベストと判断したという経緯がある。このサンダーランド工場が技術力と生産性が非常に高いヨーロッパ最大の生産拠点に成長し、優秀なイギリス人マネージャーを何人も輩出している。

 ゴーン氏は“コストカッター”や“整理屋”としては優秀だが、日産の高い技術力なくしてはその経営手腕も発揮できなかっただろう。実際、中国市場を重視するあまり手薄になった国内市場のシェアは無残な状況である。かつてはトヨタ自動車に次ぐ2位が指定席だったのに、今や5位に凋落しているのだ。

 また、もしゴーン氏が卓越した経営者であれば、ルノーも日産と同じように立て直しているはずである。だが、ルノーの経営は未だに日産の配当金や日産車の生産に頼っている。その理由は、日産のような技術力がないからだ。

 そういう実態を踏まえれば、そもそもルノーと日産の関係は歪んだものだったということが分かる。今回の事件が起きていなくても、両社の歪なアライアンスは遠からず限界を迎える運命だったと言えるだろう。

※週刊ポスト2018年12月21日号

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