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米国で急増する白人至上主義者の暴力 - 斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)

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今世紀に入りユダヤ人、黒人、イスラム教徒などに対する白人過激グループによる暴力やテロがアメリカで急増しつつある。だが、州警察やFBI(連邦捜局)による白人を対象とした摘発、捜査は後手に回り、主要メディアの厳しい批判の的になっている。

アメリカ大都市での犯罪といえば、前世期までは「黒人」に原因が着せられることが大半だった。とくに筆者が米国留学中だった1960年代以降、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、デトロイト、アトランタ、ボストンなどの主要都市では、連日のように黒人暴動、商店焼き討ち、白人襲撃・レイブ事件などのニュースがテレビ、新聞で大々的に報じられ、犯行に及んだ黒人たちの検挙があいついだ。全米でも最大規模の終身刑刑務所として知られるサンフランシスコ郊外の「サンクエンティン・プリズン」を見学したことがあったが、服務者の8割近くが黒人だったことに衝撃を受けた記憶がある。

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ところが、21世紀に入り、「黒人暴動」のニュースを茶の間のテレビ画面で見ることは皆無に近い状態となった。

事実、FBI調査データ「Uniform Crime Reporting Program」によると、たとえば2008年の殺人件数は、ミネアポリスで67%、シアトルで47%、ニューヨークで31%、ロサンゼルスで17%とそれぞれ顕著な減少となり、とくに黒人街での発生件数の激減ぶりが目立った。

その後も減少傾向が続いている。

1960年代のピーク時には凶弾に倒れたニューヨークの犠牲者は毎年2000人以上だったが、2014年には328人となり、その後さらに減ってきている。ワシントンDC、フィラデルフィア、ピッツバーグなどの黒人人口が大半を占める他の都市でも同様だ。

このような黒人凶悪犯罪の減少理由については(1)警察当局による取り締まり体制が強化されてきた(2)着実な経済成長により雇用機会が拡大した(3)黒人社会における自己啓発意欲・社会意識の向上―などが指摘されている。

「プアホワイト」

これと対照的なのが、白人犯罪だ。とくに「プア・ホワイト」(白人貧困層)過激グループによるユダヤ人、黒人、ヒスパニックなどに対する憎悪をむき出しにした“ヘイト・クライム”が今世紀初頭から急増し始めている。

毎年、世界中で発生するテロ事件の追跡調査組織として定評のある米メリーランド大学「グローバル・テロリズム・データベース」によると、昨年1年間に世界中で起きたテロ件数は1万1000件で2014年と比較して7000件程度減少した。しかし、米国では増加の一途をたどっており、10年前には6件に過ぎなかったテロが、昨年には65件にも達した。犠牲者数も増加している。

そして65件のうち、37件が白人過激グループによるもので、残りは11件が左翼過激派、7件がイスラム過激組織、その他となっている。

白人至上主義者

テロ以外の白人至上主義者による個別の殺害事件も急増傾向にある。

全米ユダヤ人差別監視組織として知られる「Anti-Defamation League」(略称ADL)のデータによると、2008年から2017年にかけて発生した殺害事件の犠牲者のうち、白人至上主義者による犯行が71%を占めた。これに対し、イスラム過激グループによるものは26%だった。これら白人による犯行件数は2013年当時の3倍以上にも激増しているという。

ここ数年の白人至上主義者の犯行で全米の話題となった事件としては、2015年6月、南部サウスカロライナ州チャールストンの教会で、聖書研究に集う敬虔な黒人キリスト教信者たちに白人至上主義者の青年がけん銃を乱射、男女9人を射殺した惨事がある。この事件では、逮捕された青年はアメリカ社会における白人以外の存在を認めず、日頃からヒトラーを崇拝するほどの思想の持ち主だった。

同様に昨年8月には、バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者やネオ・ナチを唱導する極右グループが集会を開き、これらの不穏な動きを警戒する市民グループとの間で激しい衝突や小競り合いが起きる事件があった。その際、群衆の中に白人の乗った車が突入、市警察の発表によると、1人が死亡、最低35人が重軽傷を負う騒ぎとなり、同州のテリー・マコーリフ知事が「非常事態」宣言する事態に発展した。

さらに今年に入り、10月、ペンシルバニア州ピッツバーグのユダヤ人教会で礼拝中だったユダヤ信者たちに向けて、乱入した白人至上主義者の男が「ユダヤ人ども、くたばれ!」などと叫びながら銃を乱射、中にいた信徒のうち最低11人が死亡、直後にかけつけた警官4人も銃弾を浴びるという、アメリカのユダヤ人を標的とした犯罪としては最悪のヘイト・クライムが発生した。

警察の調べによると、逮捕された犯人ロバート・バウワーズ(46)はふだんから、白人至上主義者たちの支持するウェブサイト「Gab」(後に閉鎖)を通じて、ユダヤ人を誹謗・中傷する書き込みをしていたほか、最近では、全米でも大きな話題となったホンジュラスからアメリカをめざす「移住集団」についても敵意をむき出しにしていたという。

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