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日産VSルノー-世界は日仏どちらの思想に共感するだろうか

休日ということで、少し法律論を離れて、マクロの視点で日産前会長逮捕事件について私的な感想を述べたいと思います。

文藝春秋2019年1月号(新年特別号)「日産ゴーン追放全真相」なる論稿を読みました。元朝日新聞経済記者でフリージャーナリストの方がお書きになったもので、1999年から今年4月ころまで、ゴーン氏の取材を継続されてきた方の論稿です。前半部分はフィリップ・リエス氏(ジャーナリスト)によるゴーン氏への取材を基に書かれた「カルロス・ゴーン 経営を語る」(2005年 日経ビジネス文庫)の記述と重複したところが多いようでしたが、後半部分は(長年ゴーン氏の取材をされてこられた方だけあって)社内経営陣の人間模様が生々しく描かれており、読み応えがありました。

最近は前会長の立件に関する記事とは別に、今後のルノー・日産・三菱のアライアンスの行方を展望する記事も報じられています。ステイクホルダーの皆様にとってはこちらの記事のほうが関心が高いものと思いますが、この文藝春秋の論稿や近時の新聞記事、そして「カルロス・ゴーン 経営を語る」(同上)、「カルロス・ゴーン 私の履歴書」(日経新聞出版社2018年3月)、「カルロス・ゴーンの経営論」(日経新聞出版社 2017年)といった書籍を読みますと、日本とフランスにおいて、本事件への感想が少々異なることに、なんとなく合点がいきます。

本事件は「クーデター」としての意味合いを持つ…という点は日仏ともほぼ共通した認識を持ち、倒産寸前だった日産に対して、1999年のルノーから出資金(7000億円)が払われ、そしてこれを上回る配当収益を日産がルノーにもたらしたことへの事実認識もほぼ同様なのですが、ただゴーン氏を解任することへの感じ方が全く異なる点は興味深い。日本人は「もうルノーには過去の借りを返した」という意識が強く、だからこそ日産リバイバルの功労者であるゴーン氏を告訴したり、解任することは「もはや恩義知らずではない」と思っています。

一方のフランス国民(フランス政府を含む)は、「あれだけ窮地を救ってあげたのに、恩を仇で返すとはなにごとだ!」「そろそろ統合のメリットを享受できると思っていた矢先に、ゴーン排除のクーデターではないか」との趣旨の発言が目立ち、今後もオランダのアライアンス本部の会長をゴーン氏が続けることを熱望しているかのように見えてきます(今は反政府デモの騒ぎでそれどころではない・・・との声も聞かれますが)。

一読した程度ではありますが、上記のような論稿・書籍に目を通し、1999年から2018年までのゴーン氏の日産における「歩み」を知りますと、たしかに日仏両国で視点が異なるのもやむをえないように感じます。日本人はデット(間接金融)の思想に慣れてきましたから、「人からモノを借りたら返すのが仁義。しかし、金利も含めて返してしまったら双方は対等であり、だからこそゴーン氏にもモノを言い、アライアンスも対等の精神で臨むべきである」と考えるのが筋ではないでしょうか。しかし、フランスはエクイティ(直接金融)の思想にも影響を受けているので、「1999年、政府が株主という立場にあるにもかかわらず、歴史上まれにみるリスクを負担して日産に出資をした。日産が大きな収益を上げている以上、リスクに見合うだけの収益を上げる立場にあるのは当然であり、そろそろアライアンスを見直す(つまり、オプションを行使して統合する)ことで、さらに大きな利益を上げるべき時期に来ている」と考えるのが筋ではないかと。

おそらく、今後の企業間もしくは政府間での交渉においても思想の違いが出てくるのではないかと思いますが、海外の関係者の皆様は、いったい日仏どちらの思想に共感を抱くのでしょうか。日本国内ではマスコミ報道に接することも多いので、かなり事実を詳細に把握できるかもしれませんが、外国の関係者の皆様は、それほど細かい事実関係を知ることもなく、「どっちが正しい」「どっちがけしからん」と評価することになるはずです。アライアンスの主導権をどこが握るのか、今後を予想するためには、20年に及ぶルノーと日産との連携の歴史を知ることも大切ではないかと思いました。

ところで(少し話は変わりますが)、「20世紀最高の経営者」と称されるジャック・ウェルチも、経営者の高額報酬はできるだけ開示すべきではない、との格言を残しています。この格言は「ジャック・ウェルチの『私なら、こうする!-ビジネス必勝のアドバイス』」(ジャック・ウェルチ著 日経新聞出版社 2007年)128頁~129頁に掲載されています(1週間ほど、いろいろと調べて、ようやく出典を探し当てました)。以下、若干引用しますと、

財務情報を開示することは、さまざまな危険がついてまわる。いちばん大きな問題は、財務情報は小出しにするのが難しいという点だ。もしコストを「開示」しだせば、売上も利益も開示しないと意味をなさない。あなたは、どのくらい利益を上げているかを社員に知られても気にならないか?当然、彼らはその数字を自分達の手取りの給料の金額と比べ、やがてはあなたがどれだけの分け前をとって、自分たちがいかにわずかな分け前しかもらっていないか、を推測するようになる。

その差をあなたは喜んで、あるいはプライドをもって説明できるかもしれない。もしそうであれば、詳細な財務情報を社員のみんなと共有することにたぶんリスクはないだろう。だが、企業の規模にかかわらず、社員というものは、常に自分の給料レベルを頭においていて、働きぶりや成果から同僚がどのくらい稼いでいるかを計算しているものだ。もし、あなたの開示する情報が、彼らの想定している給料レベルに衝撃を与えそうなものだと考えるなら、この善行はとりあえず見送ったほうがいい。あなたと同じように社員みんなが仕事に関心持つ、もっと危険が少ない方法を考えたほうがいい。

なお、ジャック・ウェルチは、別の箇所でも「経営者の高額退職金は許されるか」というテーマで、他からプロの経営者を招聘した場合には、(会社が「後継者の育成」という大切な仕事で失敗してしまったのだから)高額退職金は当然に許容されるものと述べています。金商法違反に該当するかどうかは法律・会計の専門的な見地からの意見が求められますが、「後払い報酬」や「謙抑的な開示姿勢」という点をとらえて違法性の認識に関する根拠とできるかどうか、という点では(プロ経営者の行為規範、という視点からみると)やや疑問が残るように思います。

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