記事

【解説】ファーウェイ副会長逮捕、米中貿易戦争の巻き添えに


カリシュマ・ヴァスワニ、BBCアジアビジネス担当編集委員

中国の情報通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・最高財務責任者(CFO)が、米国の要請を受けたカナダの捜査当局に逮捕された。このことの象徴的な意味合いと重大性は、いくら強調しても強調し足りない。孟氏はファーウェイ創業者の娘で、ファーウェイは中国テクノロジー業界の宝物のような存在。孟氏は実質的に、そのお姫様なのだ。

ドナルド・トランプ米大統領と習近平・中国国家主席が米中貿易戦争を緩和しようと、主要20カ国・地域(G20)首脳会議の開かれていたブエノスアイレスでサーロインステーキとキャラメルパンケーキを共にした同じ12月1日、孟氏はカナダで逮捕された。近く米国へ身柄を引き渡される可能性もある。

逮捕容疑はまだはっきりしていないが、米当局が対イラン制裁違反の疑いでファーウェイを捜査していたことは知られている。つまりこれは単に、1人の女性やひとつの企業の問題ではないのだ。

ただでさえ長年にわたり厳しく対立してきた米中両国の関係は現在、極めて緊迫している。その最中でのこの逮捕は、両国関係に具体的なダメージをもたらす恐れがある。

<関連記事>

ファーウェイ副会長逮捕 カナダのトルドー首相、政治的思惑を否定

ファーウェイ副会長、カナダで逮捕 米当局が要請

米中、追加関税の発動猶予で合意 貿易戦争の勝者はどちらなのか

市場調査会社シルクロード・リサーチのヴィネシュ・モトワニ氏は、「これ以上ないというほど最悪のタイミングだ。おそらく今後のあらゆる交渉に影を落とすことになる」と話す。「市場はすでにG20での米中合意を怪しんでいた。この逮捕のせいで、これ以上の合意が可能なのか市場はますます疑心暗鬼になる」。

融和を回避

米中緊張悪化の原因は貿易だけではない。しかしG20において両国は少なくとも、話し合うことに決めたかのように見えた。90日間の猶予期間の間に、徹底的に協議するつもりだと思えた。

協議が必要なテーマのひとつが、この貿易戦争における最大の争点、テクノロジー関連の問題だ。米中が同じ目的意識を持っているかは不明だったが、話し合いをしているというそれだけでも、世界経済にとっては、そこそこ望ましいことに思えていた。

「まるで人質」

しかし今回の逮捕は中国からすると、「まるで人質をとるに等しい」攻撃だろうと、中国のテクノロジー業界に詳しいエリオット・ザーグマン氏は言う。ザーグマン氏は過去20年近く、ファーウェイを取材してきた。

「中国は取り決めに合意しておいて、それを守らない、履行しないという定評がある」と、ザーグマン氏はボストンから電話で私の質問に答えた。「米政府はこの逮捕を通じて、貿易戦争について中国政府に約束を守らせようとしているのだという説もある」。

そうなのかもしれないが、中国メディアは逮捕を決して好感していない。

「米政府はファーウェイを叩く方法を探している」と、環球時報とその英語版グローバル・タイムズの胡錫進編集局長は言う。環球時報とグローバル・タイムズは、中国共産党の機関紙系と位置づけられることが多い。

「米政府はファーウェイを押さえ込もうとしている。なので、ファーウェイ製品を使わないよう、同盟国に圧力をかけている。ファーウェイの評判を破壊しようとしているのだ」と胡氏は主張する。

米国、オーストラリア、ニュージーランドの3カ国は最近、安全保障上の懸念を理由に、より高速な通信が可能となる5Gモバイルネットワークのインフラ機器調達からファーウェイを除外した。 胡氏はこのことに言及している。直近では英国のブリティッシュ・テレコム(BT)も、次世代通信規格「5G」についてファーウェイ製品は使わない方針を明らかにした(ただし、巨大アンテナ塔や通信塔など「無害」と判断したネットワークの部品は使用する方針)。

ファーウェイがスパイ行為をした、あるいはデータを中国政府に手渡したと示す証拠はない。むしろ、私が話を聞きにいくとファーウェイ幹部は常に、米政府と欧米メディアが自分たちを中国政府の言いなりの国有企業のように扱うのがいかに不公平で、自分たちがいかにそのことに苛立っているか、内々に繰り返してきた。

複数のファーウェイ関係者は私に、自分たちの会社は現代的でダイナミックで法律に従う世界的企業なのだから、そのように評価されるべきだと主張する。米国側の言い分は間違っているし、根拠がないと。

とはいえ、ファーウェイの創始者で孟氏の父親の任正非氏は、中国人民解放軍の元軍人だ。そして、ザーグマン氏が米シンクタンクのロウイー研究所に最近寄稿したように、「ファーウェイと人民解放軍の強固な関係は、今なお懸念される不透明な問題」だ。

だからこそ米政府は、ファーウェイのような中国企業には用心すべしと各国に呼びかけているのだ。中国の法律では、民間企業も個人も、政府の要請があれば情報やデータを政府に提供しなくてはならないかもしれない。

その可能性があるからこそ、ファーウェイとの取引には及び腰になるのだと米政府筋は言う。

対するファーウェイ関係者たちは、これはまったく事実と異なると反論するし、中国の学識者や財界人もそんなことはないと否定する。

グローバル・タイムズの胡氏も同意見だ。「中国政府はそのような真似はしない。中国は自国の企業に傷をつけたりしない。自国企業を傷つけたら、それがどうして国のためになる? たとえ中堅や下級の役人が要請したとしても、そのような政府の申し出を断るだけの力がファーウェイにはある」と書いている。

今回の逮捕について中国ではまたしても大勢が、自分たちの国の台頭を封じ込めようとする諸外国の動きだとみなすだろう。中国随一の世界的企業が国際市場参入を妨げ、中国の成長を妨害しようとしているのだと。

情報テクノロジー企業コンプリート・インテリジェンスのトニー・ナッシュ氏は、「ファーウェイは新興市場以外で5G参入を目指しているが、今回のことでそれはさらに難しくなるかもしれない」と話す。

「もしファーウェイが捜査線上に上がっているなら、他の機器メーカーが北米市場や、場合によっては他の先進国市場で有利になり、ファーウェイとZTE(中興通訊)はどちらも不利になるかもしれない」

他の市場

ファーウェイが足場を失いつつあるのは、先進国市場だけではない。新興国市場でも、同社への目線は厳しくなっている。業界消息筋によると、米政府はアジアの同盟諸国にもファーウェイ機器の使用をやめるよう圧力をかけている。最近ではソロモン諸島やパプアニューギニアが圧力を受け、次はインドだろうと言われている。

つまりこれはどういうことなのか。両国ともグローブを脱いだ。遠慮はおしまいで、本気の戦いが始まる。米国のこの動きが、世界の2大経済大国の関係にとって何を意味するか、直視すべきだ。事態は劇的に悪化したのだから。

(英語記事 Huawei caught in the crosshairs of US-China trade war

あわせて読みたい

「HUAWEI(ファーウェイ)」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    PayPayに5000円チャージして後悔

    上伊由毘男

  2. 2

    不倫に甘いテレ朝? 報ステに苦情

    渡邉裕二

  3. 3

    クイーン映画 海外で酷評相次ぐ

    小林恭子

  4. 4

    初デートで8000円の店は妥当か

    東龍

  5. 5

    いずもは「空母」言い換えは不毛

    木走正水(きばしりまさみず)

  6. 6

    日本にまともな戦闘機は作れない

    清谷信一

  7. 7

    HUAWEI巡り各国が米中二者択一に

    飯田香織

  8. 8

    中国企業の排除がPayPayに影響も

    MAG2 NEWS

  9. 9

    宗男氏 河野外相の無回答は賢明

    鈴木宗男

  10. 10

    「料理しない」宣言した米国人嫁

    fujipon

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。