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「嫌米」だが「親中」ではない「ドゥテルテ比大統領」の戦略 - 青木伸行

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 フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は11月20、21の両日、首都マニラに中国の習近平国家主席を招き入れ、首脳会談では南シナ海における石油・天然ガスの共同開発や、鉄道などフィリピンのインフラ整備、中国の広域経済圏構想「一帯一路」で協力することで合意した。

 2016年6月の就任から約2年半が経過したドゥテルテ大統領は、南シナ海の領有権問題を「封印」「棚上げ」し、経済、外交、安全保障の軸足を、長年の同盟国である米国から中国に移す「ピボット(旋回)戦略」を、いっそう強く推し進めている。ドゥテルテ大統領の真意と狙い、フィリピンの事情を探ってみたい。

拭いがたい嫌米感情

 一部メディアには、ドゥテルテ大統領が中国と米国とを「両天秤にかけている」との論調が散見される。つまり、どっちに転んでもいいように二股をかけていると言うのだが、むしろ理想と現実とを両天秤にかけているとみた方が、実態に即しているだろう。

 ドゥテルテ大統領が思い描く理想とは、軍事的にも経済的にも米国に依存しないフィリピンである。これについては、ドゥテルテ大統領自身が就任当初、米国と「決別する」と言い放ったことで衝撃を与えたが、その思いは今なお、彼の本音であり理想なのだという。その根底にあるのはやはり、ドゥテルテ大統領にこびり付いた拭いがたい嫌米感情である。

 ドゥテルテ大統領はそもそも、筋金入りのナショナリストであり、かつての米国による「上から目線」の統治に強い嫌悪感を抱いている。社会主義者を標榜する左翼思想の持ち主でもあり、フィリピン共産党の創設者で大学時代の恩師だったホセ・シソン氏の影響を受けたことは、つとに知られている。

そのうえに、学生時代にガールフレンドがいる米国へ渡航しようとしたものの、米政府に査証(ビザ)の発給を拒否されたことなど、米国に対する憤りを募らせるに至ったいくつかの原体験があることも、周知の通りだ。

米国の支援が期待できない

 しかしドゥテルテ大統領周辺によると、宥和政策による中国へのピボットの決定的な要因は、南シナ海で中国とフィリピンの武力衝突が起こったとして、米国は支援しないだろう――という見立てにある。

 バラク・オバマ前米政権は、アジア太平洋地域に重点を置くリバランス(再均衡)戦略に関与政策を織り交ぜながら、中国の海洋覇権拡大に対処しようとした。だが、オバマ政権下で国際社会における米国の指導力が相対的に低下したことと相まって、それは機能しなかった。

 暴言や脈絡がない発言などで「似た者同士」と揶揄されるドナルド・トランプ米大統領とドゥテルテ大統領との関係は、ケミストリー(相性)さえ合わなかったオバマ前大統領との関係に比べれば、ましになったという程度であろう。ドゥテルテ、トランプ両大統領は2017年11月にマニラで初会談し、「良好な関係」を演出している。

 しかし、「世界の警察官」を放棄したオバマ前大統領にしても、「米国第一主義」のトランプ大統領にしても、フィリピンの傘となって中国と軍事的に対峙する覚悟はあるまい、という共通した疑念を、ドゥテルテ大統領は抱いている。そこから導き出された結論は、米国とフィリピンの同盟関係は、南シナ海における中国の海洋覇権拡大を阻止するうえで役に立たない――というものである。

 ドゥテルテ大統領が11月15日、シンガポールで「南シナ海は、すでに中国の手中にある」と語ったように、フィリピンの裏庭である南沙諸島で、中国が着々と進める7つの人工島の軍事拠点化と実効支配は、すでに動かしがたい現実であり、中国と共存する以外に道はないという考えは、とうに確信へと変わっている。

それは「われわれは中国を止めることができない。中国との戦争を宣言すれば、すべての軍を明日失うだろう」という言葉に端的に表れている。

 7つの人工島はファイアリークロス、ジョンソンサウス、クアテロン、ヒューズ、ガベン、スービ、ミスチーフの各礁であり、軍事関連施設が構築され、「不沈空母化」が図られてきた。今年の主な動きとしては、(1)対艦巡航ミサイルと地対空ミサイルの展開(2)大型対空砲や、近接防空システムとみられる装備の配備(3)レーダー妨害装置の設置(4)ミサイルシェルター、弾薬庫とみられる地下貯蔵施設の整備――などが確認されている。

 トランプ政権も南シナ海では、オバマ政権時代からの米海軍艦船による「航行の自由作戦」を、散発的に繰り返すほかないのである。これでは中国の実効支配を止める実質的な効果は、まるでない。そればかりか、「米軍の脅威から南シナ海の主権を守る」という口実を中国に与え、軍事拠点化の推進に利用されるだけに終わっているのが実情である。

 ドゥテルテ大統領にしてみれば、南シナ海で米軍が中国軍に下手に手出しをして、中国を刺激してもらっては困る。「米国が領有権争いに強く関与すれば、(米中の)戦争に巻き込まれる」との危惧は強い。

トランプ政権にしても、米国第一の観点から、米中関係で精力を注ぐべきは「貿易戦争」に象徴される経済問題であって、それに比べ南シナ海問題の優先順位はさほど高くはあるまい。いきおい、肝心な米軍のフィリピンへの展開状況などは、艦船などの増減を含め「オバマ政権時代から基本的に変わっていない」(フィリピンのデ・ラ・サール大学のレナト・カストロ教授)という。

 例えば、オバマ政権末期の2016年3月、米国とフィリピンは「防衛協力強化に関する協定」(EDCA)に基づき、フィリピン国内の5空軍基地を米軍の拠点として共同使用することで合意した。

具体的には、(1)南沙諸島に近いパラワン島のプエルトプリンセサにあるアントニオ・バウチスタ基地(2)スカボロー礁をにらむルソン島のバサ、フォート・マグサイサイ両基地(3)ミンダナオ島のルンビア基地(4)マクタン島のマクタン・ベニト・エブエン基地――である。

このうち、使用が実現しているのはバサ基地だけにすぎない。それでも、米国と決別するというドゥテルテ大統領の理想にはほど遠い。理想の前には、多くの現実が立ちはだかっているのである。

 軍事力と経済力という国力からみれば、中国は虎、フィリピンは猫である。猫は虎子(経済支援)を得ようと虎穴に入った。だが、虎がふとした拍子に暴れ出さないとも限らない。そのときのためのいわば「保険」として、ドゥテルテ大統領は不本意ながらほぼ現状を維持し、米軍のプレゼンスをドラスティックに削減しないままでいる。

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