記事
- 2012年03月18日 18:01
(本の紹介)「反貧困」—日本のセーフティネットの現状を知ることができる必読の一冊
2008年の本ですが、今更ながら手に取ってみました。
読んでいなかったのが恥ずかしくなるくらい、色々な現実を知ることができました。これは必読、といって良いレベルです。興味深かった点をメモしたのでご共有です。
セーフティネットの穴
・日本では生活保護基準以下で暮らす人のうち、実際に生活保護を受けている人たちの割合(「補足率」)は15〜20%といわれる。計算上では、600万世帯・850万人の生活困窮者が生活保護から漏れている。この水準では、もはやネットの「穴」とすら言える状態ではない・不正受給の話は、2ch周辺では特に話題になりますよね。現状はこのような数字と知り、驚きました。
・不正受給(濫給)は15,000件程度(2006年度)。不正受給の話がよく問題になるが、1.5万件の濫給と600〜850万人の漏給のどちらかが深刻かを見極めるべきだ。
最新のニュースでは「生活保護、208万人超」という話も出ています。補足率が変わっていないとすれば、漏給は1,000万人を超えてもおかしくない水準、という理解ができますね…しかもまだまだ増えてもおかしくないという。
一方、不正受給は全国で25,355件となった、というニュースも同時に出ています。その他「生活保護」のニュースを見ていると、見出しを読むだけでも難しい問題であることがひしひしと伝わってきます。
すべり台社会
・雇用、社会保険、公的扶助の三層のセーフティネットが存在するが、実際には三段構えにになっていない。非正規労働者の場合はこの3つはワンセットであり、雇用のネットから落ちれば、一気に公的扶助のネットまで落ちてしまう(そして多くは素通りしてしまう)。この現状はフリーランスな僕自身、あまり他人事ではない話です。書籍「創造的福祉社会: 「成長」後の社会構想と人間・地域・価値 (ちくま新書)画像を見る」ではコミュニティ型の社会保障がこれから鍵になる、と書かれていたと記憶しますが、「第四のセーフティネット」は、NPOや地域共同体のような「民間中心の組織」が担わなければいけない領域になるのでしょう。
・OECDの調査では、税と社会保障移転による貧困率削減効果がきわめて少ないことが指摘されている。これはセーフティネットの排他性が原因。
・第四のセーフティネットは刑務所と言われる。「食うための犯罪」が増加している。
自己責任論と貧困
・ノーベル経済学賞を受賞したセンは「貧困はたんに所得の低さというよりも、基本的な潜在能力(capability)が奪われた状態と観られなければならない」と主張している。「貧困は自己責任である」というありがちな話を、非常にクリアに論破していたのが印象的でした。アマルティア・センの理解も明快で良いですね。
・例えばニューヨークのハーレム地区の住人が40歳以上まで生きられる可能性は、バングラディシュの男性より低い。これはハーレム地区の住人の所得がバングラディシュより低いのではなく、ハーレム地区の諸処の問題が、そこに住む人々の「基礎的な潜在能力」に影響を与えているため(セン)。
・開発とは、(単に所得を上げるだけではなく)人々が享受するさまざまの本質的自由を増大させるプロセスである(セン)。
・自己責任論は「他の選択肢を等しく選べたはず」という前提で成り立つ(「あいつは自分から正社員ではなく非正規雇用を選んだ」)。一方、貧困は「他の選択肢を等しくは選べない(中卒だったため、非正規雇用しか選べなかった)」状態。両者は本質的に相容れない。
見えない貧困
・貧富の格差がある社会では、不思議な眼鏡が生まれる。経済的上位にあるものには、貧しい人々の姿はほとんど映らない。貧困層が富裕層を観ることは容易にできる。これも非常に重要な話で、僕自身まさにこの本を読むまで、日本の貧困について「見えていなかった」わけです…。
・問題や実態がつかみにくいという「みえにくさ」こそが貧困の最大の特徴。社会的に貧困の実態を共有することは難しい。
本書はまさに象徴的ですが、この点に関しては、メディアが貢献できる領域でしょう。
メディアの中でも、特に顔の見える関係性の中で情報を発信するソーシャルメディアは、「貧困を可視化する」ツールとしても役立つのでは、と期待します。ここら辺の支援は、テントセンとしても取り組んでいきたいテーマです。
著者はNPO「もやい」の事務局長を勤められている湯浅さん。現場での支援活動はもちろん、貧困の解決にむけた情報発信も精力的に行われていて、感嘆します。
まずはぜひこの本を読んで、日本のセーフティネットの現状について理解を深めると良いと思います。これは全く他人事ではなく、僕らの超身近な課題です。
また、「貧困」を遠い問題だと思ってしまうのは完全に誤解だと僕は考えています。
シンプルな話では、生活保護受給者が増えることは、僕らの社会保障のコストが増大するということでもあります。
税金が上がることに文句を言うくらいなら、そうした負担を減らすことが可能な社会を、自分たちの手で作るべきでしょう。
きれいごととか理想論ではなく、合理的にそう思います。多少矮小化した言い方をすれば、貧困の解決は「自分たちの財布ため」とすらも捉えられるでしょう。
- Hayato Ikeda
- プロブロガー



