記事

【HEROs】プロ野球選手・鳥谷敬「履くものを届けなければ野球に繋がらない」

2017年10月、アスリートによる社会貢献活動の輪を広げていくことなどを目的に「HEROs SPORTSMANSHIP for THE FUTURE」(以下、HEROs)が日本財団によって創設された。GOETHEでは社会貢献活動に励むアスリートの声を伝える連載をスタート。第2回は、アジアで恵まれない子供たちに靴や文房具を届ける活動を行う「RED BIRD Project」の理事を務めるプロ野球選手、鳥谷敬内野手の思いを届ける。

スモーキーマウンテンで突き付けられた貧困問題の現実

当初、鳥谷がアジアの子供たちに届けようとしていたのは”靴”ではなく”野球道具”だった。一流のプロ野球選手として、「恵まれない子供たちにも野球を伝えたい」と行動に移したのは、至極当然だった。しかし、そんな思いは2014年のシーズンオフ、フィリピンへ出向いたことで変化した。

2018年11月、ミャンマーを訪れ、子供たちに靴を届けた。

「グローブをはめたことがない子供たちに野球というものを知ってもらいたいなっていう思いでフィリピンに行ったのですが、実際に現地に行ってみたら、地面が見えないほどのゴミのなかを、Tシャツも着てない短パンの子が歩いていた……。サンダルすら履いていない子供たちも結構いました。足をケガして血が出てる子もいた。そういうのを見て現地の人に聞いたら、"血が出たところから感染して命を失ってしまう子供たちもいる"という話を聞きました」

百聞は一見に如かず、とはよく言うが、鳥谷もやはり、現地に出向き、自分で見聞きしたことにより、初めて「貧困」という現実の問題を突き付けられたのだ。鳥谷が出向いた場所は、「東南アジア最大のスラム街」と呼ばれるフィリピンの首都マニラ北部に広がるゴミの山、スモーキーマウンテン。至る所で煙が立ちこめ、未だに多くの人々が生活を送っている。劣悪な環境の下で、大人に混じり、子供も裸足でゴミを拾っている現状が広がっていた。

破棄される予定だったグローブを100個買い取って持っていたのですが、まずは、履くものをまず届けないと野球に繋がらないと思いました。その日の夜に同行している人と話して、"次は靴を集めて持っていこう"となりました」

行動は早かった。翌年'15年4月、早稲田大学硬式野球部時代の同期の比嘉寿光氏(元広島カープ内野手)らとともに「RED BIRD Project」を創設。比嘉の地元、沖縄を拠点に「履かなくなった靴」10,000足を集めることを目標に掲げた。鳥谷自身のSNSでの発信やメディアへの取材対応なども積極的に行った成果もあり、創設からわずか4ヵ月で目標を達成。初年度だけで発展途上地域に住む子供たちに計12,000足の靴を届け、現在は「履かなくなった靴」に加え「未使用の文房具」の募集も開始した。

「HEROs AWARD 2017」でHEROs賞を受賞

「靴も当然そうですけど、実際に現地に行って勉強道具も足りていないという現状を感じました。そもそも、靴と限定してやっていたわけではなかった。これからも、現地に行って足りないものがあれば、自分たちができる範囲で集めて持っていくという形は取りたいなと思っています。実際に必要で、かつ、自分たちができる範囲としては、次は文房具。現在、集めている段階です」

そんな活動が認められ「HEROs AWARD 2017」でHEROs賞を受賞。'16年には、再びフィリピンのスモーキーマウンテンへ、'17年はタイの難民キャンプへ、そして'18年11月にはミャンマーに出向くなど、あくまでも現場主義を貫く。現役中はあくまでも本業に専念するアスリートもいるなかで、スタジアム外で積極的に行動し続ける原動力は何なのだろうか。

「最初は、野球を通じて子供たちに元気になってもらって、夢を持ってほしいな、というところから始まったんですけど。やってくうちに本当にやっぱり子供たちの笑顔であったり、そういう部分から自分が力をもらっているというのを感じている。”やってあげる”のではなく、またオフになって靴を持っていきながら、”逆に元気をもらいにいく”というか…。あらためて自分の置かれてる環境の良さであったり、いろいろなことにも気付けるので。そういう意味で、勉強するという意味も含めて毎年海外に行っています」

靴を届けるだけではなく、訪問先では野球教室も行っている。

当たり前のようにキャッチボールができる世の中を

現在は主に靴や文房具を届ける活動を続けているが、プロとして世界中に野球というスポーツを伝えたいという思いも、もちろんある。今回訪問したミャンマーでも、実際に自らトスバッティングを見せるなど、野球教室も並行して開催している。

「ミャンマーの学校では、誰も野球を知らなかった。お父さんお母さんに聞いても、知らないっていう状況で……。まずは、自分が現地に行くことで、こういうスポーツ選手がいるんだというのを知ってもらうところからのスタート。野球教室を行うことで、楽しさを知ってもらえれば、将来的に増えていく可能性もあるとすごく思います。そういう意味では実際に自分が行って、こういうスポーツがあるんだっていうことをみんなに知ってもらいたいな、っていうのはあります」

ただ、日本から物品を贈るだけでは絶対に何もわからなかった。グローブを届けるためにスモーキーマウンテンを訪れ、それが間違っていたと気づいた経験があるからこそ、足を動かさずにはいられないのだ。

実際に見て、聞いて、現実を知り、そして行動する。世界中の子供たちが、当たり前のように親子や友人とキャッチボールができる日が来るまで、鳥谷は行動し続ける。

Takashi Toritani

1981年東京都東村山市生まれ。阪神タイガースに所属。小学生時より地元野球チームに所属。高校時代は聖望学園高校3年生時に甲子園に出場。高校卒業後は早稲田大学へ進学し、東京六大学野球連盟史上最速タイとなる2年春での三冠王(首位打者・最多本塁打・最多打点)を達成。大学時代ではベストナインにも通算5度選出。2003年のドラフト会議において自由獲得枠で阪神に入団。プロ野球ではベストナイン6回選出、ゴールデンクラブ賞4回受賞。NPB史上50人目の一軍公式戦2000本安打を達成。他数々の記録を保有している。

【HEROs AWARDとは?】

社会のため、地域のため、子供達の未来のため、競技場の外でもスポーツマンシップを発揮している多くのアスリートたちに注目し、称え、支えていくためのアワード。その年、最も「社会とつながるスポーツマンシップ」を発揮したアスリート、チーム、団体を表彰し、次の活動へとつながる支援を行う。

【HEROs AWARD 2017受賞者】

■HEROs of the year賞■

スポーツの力を活かした社会貢献活動のモデルにふさわしい、もっとも優れた「アスリート」を表彰。アスリート部門より1名を選出。

宮本恒靖:~スポーツを通じた民族融和プロジェクト~ボスニア・ヘルツェゴビナのスポーツアカデミー「マリモスト(小さな橋)」の挑戦

■HEROs賞■

スポーツの力を活かし優秀な社会貢献活動を行った「アスリート」「チーム・リーグ」「NPO」を表彰。アスリート部門:3名、チーム・リーグ部門:1団体、NPO部門:1団体を選出

<アスリート部門>

アスリートが自発的・主体的に取り組んでいる社会貢献活動を対象とする。

(NPO法人等の立ち上げ、または他の社会貢献活動団体と連携して実施している事業を含む)

・鳥谷敬:「RED BIRD PROJECT」

・アンジェラ・磨紀・バーノン:「Ocean’s Love」

・坂本博之「こころの青空基金」

<チーム・リーグ部門>

チーム・リーグが主体となって、競技、スポーツに関連する資産等(選手、チーム、スタジアム等)を活かして行う社会貢献活動を対象とする。

福島ユナイテッドFC(サッカー):風評被害払拭活動「ふくしマルシェ」

<NPO部門>

NPOが主体となり、スポーツの力を活かして行う社会貢献活動を対象とする。

一般社団法人世界ゆるスポーツ協会:すべての人々にスポーツを

※各部門の活動動画はHEROs AWARD 2017Webサイトで視聴可能

Text=鈴木 悟(ゲーテWEB編集部)

あわせて読みたい

「貧困」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    矢沢永吉に苦情 不謹慎探す社会

    常見陽平

  2. 2

    張本氏の放言を許さぬ風潮に疑問

    中川 淳一郎

  3. 3

    萌えキャラで献血PRは問題あるか

    中村ゆきつぐ

  4. 4

    グレタさんを中年男性が嫌うワケ

    木村正人

  5. 5

    河野氏 荒川氾濫なら500万人影響

    河野太郎

  6. 6

    荒れた日韓関係と無縁のラグビー

    新潮社フォーサイト

  7. 7

    体に悪い? 意外なファストフード

    諌山裕

  8. 8

    元SMAP干されるテレビ業界の実態

    笹川陽平

  9. 9

    高尾山の台風被害 迷惑登山客も

    清水駿貴

  10. 10

    イジメ教師 後輩に性行為強要か

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。