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「フランスの極右エリート育てます」~極右ルペン氏の孫娘28歳マリオン・マレシャルが政治大学院を開校した狙いとは

政治大学院を開校したマリオン・マレシャルさん© ISSEP 2018

「極右の温床」と言われるフランス第3の都市リヨンに今年9月、極右政党・国民戦線(現国民連合)の創始者ジャン=マリー・ルペン氏(90)の孫娘でフランス共和制最年少の22歳で国民議会議員になったマリオン・マレシャルさん(28)が将来の右派政治家・官僚を養成する私設の政治大学院ISSEPを開校し、話題を集めている。

ルペン氏譲りの「イスラム嫌い」「外国人嫌い」

容姿端麗で金髪のマリオンさんはかつて「マリオン・マレシャルルペン」を名乗っていたが、ツイッターのアカウントをはじめ「マリオン・マレシャル」の名を使うようになった。「ルペン」を使わなくなった理由は政治活動の名を取ることで一市民への復帰を表明したと現地テレビに語っている。

ルペン氏の三女で国民戦線の毒消し(脱悪魔化)に努め、国民連合に改名までしたマリーヌ・ルペン党首との路線対立が昨年、突然、政界を引退した理由ともささやかれる。

マリオンさんは2歳の時、ルペン氏の腕に抱かれて選挙ポスターに登場してから、常に極右の正統な承継者としてフランスの耳目を集めてきた。しかし国民議会議員になった当初は、記者の質問にうまく答えられず、テレビカメラの前で泣き出したこともあった。

しかし、すぐに落ち着いて国民議会の質疑に臨むようになり、ルペン氏やマリーヌ党首並みの雄弁ぶりを発揮し始めた。ルペン氏譲りの「イスラム嫌い」「外国人嫌い」の主張を繰り返し、伝統的な家族観や保守的なカトリシズムを強調してきた。同性婚にも批判的だ。

叔母のマリーヌ党首より右で、「ナチス強制収容所のガス室は歴史上の些末な事件にすぎない」という反ユダヤ主義発言を止めなかったルペン氏の追放処分を支持しなかったことでも知られる。

政界を引退しても、その存在感は健在だ。今年2月に米ワシントンで開かれた保守政治活動協議会(CPAC)ではドナルド・トランプ米大統領のような注目を集め、「右派の新星」としてスポットライトが当てられた。

次期大統領選へ出馬?

6月に仏メディアELABEが実施した世論調査では、2022年に行われる次期大統領選の大統領候補はマリーヌ党首が相応しいと答えた国民連合支持者は52%だったのに対し、マリオンさんは44%。一方、フランスの有権者全体に広げると、マリオンさんの支持者が34%、マリーヌ党首が17%と逆転していた。

政治大学院ISSEPの開校は、マリーヌ党首との正面衝突を避け、次の大統領選を目指すための雌伏期間なのかどうか、マリオンさんは言葉を濁している。インタビューを申し込むと、書面で差支えのない質問にだけ答えてもらうことができた。

極右の新星マリオンさんの存在感は政界を引退してもなお健在だ© ISSEP 2018

――ISSEPを開校した理由を教えてください

「ISSEPはフランスのエリート教育の失敗を教訓に始まった学校です。グランゼコール(フランスのエリートを養成する高等教育機関の総称)は批判の精神を拒み、政治へのアプローチは専門技術的な手法から抜け出せません。母国の持つ文化や歴史から切り離そうとしています」

「グランゼコールでは、グローバル化が抱える巨大な問題に対応することができないと私たちはとらえています。そのため愛国心と教養に富み、有能な新しい世代のリーダーを育てる、代わりの選択肢をつくることにしました。それが本校創設のきっかけです」

――授業プログラムの内容を教えて下さい

「ISSEPは政治学とマネージメントの学校です。学生は政治学、マネージメント、プロジェクトの指揮や運営、コミュニケーションの方法などを学びます。それに加え、儀礼やダンスなど文化的な授業も行います」

「『健康な身体に健全な精神が宿る』という格言をもとに学生たちはスポーツにも励んでいます。また、リーダーシップと結束力を強めるため、屋外で軍事教練の授業も行っています」

――講師陣はどのように選ばれたのですか

「能力により採用しています。講師は公立の大学、経済界などから本校に教えに来てくれています。彼らには、本校の『優秀、道徳、統合、責任を伴う約束』という教育に忠実にしてもらうことを大切にしています」

「そして、国、社会に貢献する優れた授業を提供したいという思いを本校と共有していることも重要です」

――ISSEPの現状について教えてください

「1年目の成果にはとても喜んでいます。すでに60人の学生が入学をしました。来年1月からは、社会人向けクラスを2つ開く予定です。また現在、40人の講師が本校で教鞭を執っています」

「カンフェレンスも開いており、ジャーナリスト、作家、政治家など質の高い外部からのスピーカーを迎えました。今は国際的なパートナーシップをつくり上げており、すでに手応えを感じているところです」

――卒業生にはフランス社会でどのような存在になってほしいですか

「これまでお話したことに忠実に取り組むリーダーです。もちろん官僚や政治家ですが、人、土地、社会、環境の現状を自身の成功のカギとして統合できるような大志を持つ起業家を金融業界などで育てていきたい」

講義風景© ISSEP 2018

エリートは庶民の信頼を完全に失っている

コースは2年制の修士プログラム(年間5500ユーロ)と10カ月の職業訓練プログラム(年間990ユーロ)に分かれている。マリオンさんはISSEPで修士号を授与できるようにしたいと計画しているが、今のところハードルは高そうだ。

ISSEP以外の政治的な質問は政界を引退していることを理由に一切、拒否された。

グランゼコールのパリ政治学院と国立行政学院(ENA)を卒業したエマニュエル・マクロン大統領は地球温暖化対策を優先させ、庶民の生活を直撃する燃料税を引き上げた。

このため、蛍光色の安全ベストを着用した低・中所得層ら約30万人が3週間にわたってフランス全土で抗議デモを繰り広げ、一部が暴徒化して警官隊と衝突、4人が死亡した。

エドゥアール・フィリップ首相は「国を危うくしてまで実施しなければならない税などない」とテレビ演説し、燃料税引き上げの凍結を発表した。マクロン大統領に代表されるエリートは庶民の信頼を完全に失っている。

80億円もの報酬を隠していた日産自動車のカルロス・ゴーン前会長(64)が学んだパリ国立高等鉱業学校もグランゼコールの一つだ。

仏国立統計経済研究所(INSEE)によると、2008年から16年にかけフランスの世帯当たり平均可処分所得は年440ユーロも下がった。最も影響を受けた5%に絞ると、2500ユーロも減っている。ゴーン氏の巨額報酬隠しに対するフランス庶民の見方は厳しい。

フランス庶民はエリートの傲慢や腐敗に怒りの炎を燃やしている。マクロン大統領が庶民の生活を改善するのに失敗すればリベラルは後退を余儀なくされる。

「ポスト・リベラル」は、穏健路線に軌道修正する「右派ナショナリスト」のマリーヌ党首と「極右の新星」マリオンさんの間で争われるという悪夢が現実になる恐れが膨らんでいるのかもしれない。

取材協力:西川彩奈(にしかわ・あやな)
1988年、大阪生まれ。2014年よりパリを拠点に、欧州社会やインタビュー記事の執筆活動に携わる。ドバイ、ローマに在住したことがあり、中東、欧州の各都市を旅して現地社会への知見を深めている。現在は、パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、欧州の難民問題に関する取材プロジェクトも行っている。

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