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安田さん解放から1か月・事件の検証を忘れてしまった日本のメディア


 ジャーナリスト・安田純平さんの解放から1か月あまり。あれほど加熱した報道も世間も、今はすっかり冷めてしまい、他の話題に関心は移ってしまったようだ。そんな風潮に違和感を表明するのが堀潤氏だ。堀氏はシリアの市民記者や安田さん本人と連絡を取りながら、独自に拘束から解放に至る過程の検証を行っているという。話を聞いた。

 安田さんの記者会見やインタビューをまとめた本が出版されましたが、カルロス・ゴーン逮捕のニュースも入ってきて、消費税や移民の話さえも吹き飛んでいますよね。もちろん彼が投げかけた問題のことだって、もうみんな忘れてしまっていると思います。

 シリア内戦は今"最終コーナー"に入った状態だと言われています。なかでも安田さんが拘束されていたイドリブ県というのは反政府勢力の最後の拠点と呼ばれている場所であるため、アサド政権とその背後にいるロシア・イランが総攻撃を仕掛けるのではないか、その場合には化学兵器も使われるんじゃないかという懸念があり、ドイツやトルコも入って、なんとか停戦をさせている地域です。

 しかし、アサド政権が維持されたまま停戦状態が続いた場合、国内で反対運動を展開している人たちの生命はどうなるのか。国外の難民たちはヨーロッパやトルコの難民キャンプで定住生活を送り続けることになるのか。GDP世界第3位、エネルギーも含め中東に様々なことを依存している先進国である日本メディアも市民社会も、世界で起きている現実に冷たすぎると思います。

 会見の中で安田さんは、拘束された場所について「ジャバルザウィーア」という地名を聞いた、移送先にはトルキスタン武装勢力がいた、ウイグル人がいた、と言っていました。そういうことをきちんと検証し、伝えるのが報道機関の役割ではないでしょうか。だから僕も友人のシリア人ジャーナリスト、エルカシュ・ナジーブさんと一緒に、安田さんの足取りを検証しようと試みています。

 実はシリア国内には市民記者を含む4000人ほどのネットワークが生きていて、現地の女性たちも参加して発信のためのワークショップをやっているんです。自分たちでSNSを使い、しかも多言語で発信をする必要があると考えているからです。中には日本語を使っている人もいるので、ぜひ多くの人に見てほしいです。

 そこで僕たちは彼らにイドリブ県の様子を撮影して送ってもらうことにしました。トレーニングをしっかりと受けているし、きちんとGPSデータも付けて送ってきてくれるので、そのデータをGoole Earthに入力していくと、色々なことが見えてきます。

 安田さんは日光浴をしていたときに壁の隙間からローマの遺跡を見たということですが、、確かにジャバルザウィーアには古代の遺跡が残っていて、証言とも重なりました。そうした映像を安田さんにも送って、見た景色と合っているのか、検証を進めているところです。安田さんも「映像の中には僕の記憶と重ならない部分ある。でも、こうして検証してくれるのはありがたい」と言ってくれました。

 現地からは反政府勢力である「自由シリア軍」の元兵士のインタビューも送ってもらいました。元兵士は「もちろん安田さんのことは知っている。ギャングの仕業に違いない」と話していましたが、本当にそうなのでしょうか。

 現在イドリブ県を統治しているのは旧ヌスラ戦線の武装勢力がですが、ここに関わっている兵士や市民としては、"武装勢力がジャーナリストを誘拐した"なんてことは声高に言えない。ましてそれ世界中に発信されれば、反政府の拠点ということもあって混乱が生じ、統治が崩れてしまう可能性もあります。周辺の取材をすると、そんな意図から気を遣って発言していることもわかってきます。外国人ジャーナリストを拘束し、そして生きて帰すのも、外国メディアに入ってきてほしくないという強いメッセージの意味もあると考えられます。

 トルキスタン勢力についても、イドリブ県で武装勢力に何度も拘束された地元ジャーナリスト、ラーエド・ファーレスさんのインタビューが撮れました。彼はまさにウイグル勢力の広報担当と話をしたそうですが、一番の目的はウイグルが置かれている問題を発信するのが目的でシリアに入ってきているんだと言っていたそうです。しかし大変残念なことに先月21日、ファーレスさんは何者かによって殺害されてしまいました。

 こんな風にして、イドリブ県が置かれている複雑な状況が透けて見えてきますし、情報戦が行われていることもわかります。しかし結局は日本のメディアが記者を現地に派遣しないので、イドリブの話やシリア内戦の状況が反政府の拠点から伝えられることはほぼないと言っても良い状況です。安田さん自身も、政府側、反政府側それぞれから伝えられるようなプロパガンダ的な情報だけでなく、そこに暮らしている人の生の声を知り、検証したいとシリアに入っていったんだろうと思います。

 取材に行くのが仕事だから、当然今後も行きたいと思っているだろうと推察しますが、公には言えない状態ですよね。やはり公言した途端、行かせないようにと外務省も飛んでくるだろうし。世の中からの批判も受けることになるでしょうから。

 僕が地上波のワイドショーに出たときも、スタジオでは「堀さんの気持はわかるけど、俺には関係ないもん」と率直に語るコメンテーターもいました。安田さん解放の一報を受けた直後は「ていうか、安田さんは捕まりに行った人?」「怪しい。そもそも何してる人なの?」と、心ないコメントも散見されました。でも、一概には責められないのかな?とも思います。なぜなら日本ではなかなか国際情勢について時間を割いて伝える番組が少ないですよね。そういう情報の価値や、当事者たちの息遣いが伝わっていないのでしょう。

 「安田さんは保険をかけてなかったんですか?」というような議論もありました。でも、戦争保険って1日あたり10万円、10日なら100万円もかかるんです。だから結局、フリーランスの人たちはそれを払えずに丸腰で行ってしまう。海外メディアの場合は保険金を放送局が負担することが多いのですが、そういうことも議論すべきだったでしょう。

 安田さんは会見で「ミスを冒した」と言っていましたが、日本のメディアはそれを本当に他人事のように報じましたし、「自己責任かどうか」の議論で終わらせてしまいました。そうではなく、こんな状況のときこそ、世界のメディアはどうやって報道しているのだろうか、日本のメディアの伝え方はどうだっただろうか、ということを議論してみる必要があるでしょう。

 中東で日本が信頼を得てきたのは、人道支援を行ってきたからでもあります。こういう局面でこそ寄付金や支援の場が広がるよう、国内での報道を充実させることが必要なのではないでしょうか。


(ほり・じゅん)1977年生まれ。ジャーナリスト・キャスター。NPO法人「8bitNews」代表。立教大学卒業後の2001年、アナウンサーとしてNHK入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て2013 年4月、フリーに。現在、AbemaTV『AbemaPrime』などにレギュラー出演中。

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