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経営者の思いつきプロジェクトを「鎮火」させるために 馬鹿なことばかりやる、頭のいい人たちが集まっているはずの組織論 - 山本 一郎

 育児や介護など家族の事情もあるので常勤の仕事を全部辞めて2年以上が経つわけですが、その代わり、コンサルタントとしての非常勤のご依頼が増えて、それまで以上にいろんな会社の意志決定の現場を拝見する機会が増えました。人間、お呼びがかかるうちが華であります。

 で、私のような人間が呼ばれるときというのは、落ち着いてみんなで新しいことを前向きに考えよう! という素敵で建設的なフェーズ……ではなく、どちらかというと、やらかして、混乱して、にっちもさっちもいかない状態になって初めて「すいません、プロジェクトが燃えてしまいました。どうしたらいいでしょう?」というような破壊消火のようなサルベージ案件が多いのも致し方ないところであります。

©︎iStock.com

炎上案件を鎮火させるための「5つの必要なこと」

 もともとコンテンツ制作をしていたときは、やはりゲーム開発などで炎上案件に数多く携わってきたため、私はその点「どうやったら鎮火させられるのか」には一家言あるわけなんですけど、どのようなリーダーでも、どんなメンバーのスキル構成でも、いかなるプロジェクトでも、鎮火させるために必要なことはだいたい一緒で、次のような感じです。

(1)「そもそも俺たちは何をしたかったんだっけ?」というテーマの確認

(2)「燃えてるけど、このプロジェクトはどうしても完成させなければならないのか?」の意志決定

(3)「で、追加のリソースってどのくらい確保できるんだっけ」という見積もり

(4)「このリソースで求められているテーマを実現させるには何が必要なんだ?」という優先順位の決定

(5)「今回はとりあえずこれを作るけど、将来この先に何かやるべきことはあるのか?」という拡張性の有無の合意

 平たく言えば、大なり小なりプロジェクトというのは同じ仕組みで運営され、同じメカニズムで炎上します。旅行の幹事のようなもので、そもそもこの旅行は何故行うのか(社員旅行だったら社員同士の懇親)、旅行で何をしたいのか(懇親なら宴会とかゲームとか温泉とか観光とか)、旅行の予算はどうなのか(全額社費で幾らぐらいとか、社員負担何割かとか)、目的地にどうやって行くのか(安くバスであげるのか、飛行機チャーターとかやるのか)、そして、そもそもこの旅行で社員はどこに行きたいのかってあたりが重要になってきます。逆に言えば、これが決まらない旅行は幹事がクズ野郎ということであり、こういう馬鹿にプロジェクトは任せてはいけないという話になります。地獄へ懇親旅行することになりますからね。

プロジェクトが上手くいかないプロセス

 そして、経営陣でその執行を担当しているおっさんがたは、抱えているプロジェクトのテーマを決め、担当者を割り当て、人員や予算などのリソースを配分して、進捗を管理するわけなんですけど、これが本来のマネジメントであると言えるでしょう。

 外資系と日本企業を見比べてみる機会が多く、私なりに整理していく中でこういうマネジメントの違いって物凄く肌で感じることが多いんですが、プロジェクトが上手くいかないプロセスってだいたい共通しています。

A 経営者が思いつきでプロジェクトを指示したり、現場への介入が酷かったりする

 良くあるケースが、経営者の思い付きでプロジェクトが始まったケースです。

 いきなり仕事が降ってきてプレイボールとなるわけですけど、何が嫌だって、意志決定者である経営者が、なんとなく漠然と思いついたことを部下に「やれ」と言い出すことが出発点で、その経営者がどんなイメージで「やれ」と言っているのかさっぱり分からないままプロジェクトがスタートしてしまうのです。

「どっち向いて仕事しているんだよ執行役員」という存在

 その思いついたことは、たいていなんとか総研の偉い肩書の人たちが経営者向けのセミナーとかで「これからは人工知能ですよ!」とか「ビッグデータが日本経済を動かすのです」などと適当なことを喋った結果、インスパイアされてしまった経営者が自社の現場がどうであるのかを知らないまま「これからは全社員を人工知能エンジニアにする」とか言い出して爆弾が現場に投げ込まれ、大爆発し、死者が続出するわけです。

 普通は、そこに執行役員が間に立って「大将、これはどんな話なんです?」と内容を仔細に聞き出してイメージを下にも分かりやすいように噛み砕いてくれないと現場は死ぬわけですが、経営者の立場が強く執行役員がイエスマンだったりすると、経営者の指示に「はい! かしこまりました!!」としか言わないので、いきあたりばったりな指示が乱発された結果、何をしていいのか分からない現場のストレスが超音速となって、現場が無事死亡するわけです。

 比喩ではなく、本当に死ぬ例で言えば、先日現場が必死こいて徹夜して作り上げた某サービスがようやくプレビューになって、プレゼンを臨検した経営者が「俺の考えていることと全く違う!!」と一言で全却下し、全社的に大火災となり焼け死ぬプログラマーやプランナーが続出しました。しかも、中に入って適当に指示出していた執行役員が経営者に「ですよねー」と言い、部下に「お前らがしっかりしないからいけないんだ」と叱責したため、火の勢いが止まらなくなって全社的に焼け落ちる騒ぎになったわけであります。おまえ、どっち向いて仕事しているんだよ。

亡骸を解体するような「敗戦処理」をしながら思うこと

 別のケースとしては、偉大な経営者が細かな点もいちいち指示しないと気が済まない性格であるがゆえに、毎週のように経営者御自ら会議に出てきてあれこれ指示を出すわけなのですが、日々忙しいので一つのプロジェクトで過去にどんな指示を出したのかすっかり忘れてしまい、毎週会議に出るたびに言ってることが変わり、現場が大混乱した果てに期間も予算も超過したうえ「俺の考えていることと全く違う!!」と言い出して放り投げて全社的に大火災となるわけであります。

 で、このぐらいのタイミングになるとなんとか総研からやってきた偉い肩書の人たちや、大手会計事務所から来ていた良い背広を着ているコンサルタントさんたちははすでにフェードアウトしています。当たり前ですよね、責任なんか取りたくありませんから。

 そこに呼ばれるのは炎上経験豊富な海千山千としての私たちです。動物は死して土となる過程でカビやミミズが亡骸を解体するように、二度と動くはずのないプロジェクトから使えるものをより分け、テーマを固めてイメージの共有を行い、できることとしたかったこととできないことを分類して優先順位を仕切り直して、そもそもやりたかったことができるようになるまでの再構築をやらされる羽目になるのです。これらは、なんとか総研の偉い人たちが経営者を騙して払わせた金額の10分の1以下しか私たちに払われないことがほとんどで、まあ失敗したプロジェクトをどうにかしようって話なのですから追加予算などたいていにおいて多額には認められることはなく、また経営者ももともと偉い肩書の人に吹き込まれた話から思いついた程度のことですから、私たちが焼け落ちたプロジェクトの敗戦処理をしているころにはすでに「スマート・ワークスペース」とか「ブロックチェーン」など別のキーワードに夢中になっていたりするのです。困ったもんだ。振り回される部下も現場も外注もたまったものではないのですが、そういうどうしようもない状況でも愚痴垂れつつ笑顔で対応するのがプロというものです。

原資をちゃんと使うなら

 いやまあ、一代で財を成すような起業家の人たちというのは、往々にして思いついたことをすぐに実現してみようという行動力、機動力があるからこそ、企業家として成功したとも言えるわけでして、それもまた組織にとっては活気になり刺激的だとも言えるわけですよ。でも、焚き付けたセミナー会社やなんとか総研の偉い人は騙して得た金は全額返金したうえで悔い改めて穴を掘ってその下で土下座して上から土をかけられるべきだと思いますし、多額の報酬を支払わせるためだけに大卒数年でしかない人間にコンサルタントの名刺を渡して会議に同席させ、何も発言せず議事録だけ取って後日綺麗なパワーポイントだけが送られてくるというクソみたいな仕組みは早く滅却しろと思うわけであります。 綺麗なパワーポイント丁寧に作りやがって馬鹿だねほんとに。 それで仕事をしたつもりになったと思うなよ。そのように思うわけであります。

 そんなカネを払う予算があるならば、マネジメントの手法をある程度教え込んだエンジニアに中小規模のプロジェクトを複数経験させたうえで成功失敗に関わらず給料を倍にしてやれば喜んでどんどんプロジェクトをやろうという気風になるわけです。だって某社なんて言ったら失礼ですが自殺用のロープを売るような提案しかしてこないコンサルに3年間で20億円とか払ってるんですよ。ゴーン会長かよ。原資をちゃんと使うならプロジェクト予算増やしたり、大学との産学連携の研究予算をつけたり、携わるエンジニアの自己研鑽にお金をつけたり、評価制度をきちんとチューニングしてもっとお給料を払ってあげられる仕組みを用意したほうがいいと思います。

 後編では「B なぜこんな仕様になった」「C 外注ってのはな、取り換え自由なパーツじゃねえんだよ」と、考察として「なぜ頭のいい人ばかりの組織は頭の悪い決定をしてしまうのか」について語りたいと思います。(後編は12月13日公開予定)

(山本 一郎)

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