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秘密保護法成立から5年 陸上自衛隊のスパイ組織「別班」暴いたベテラン記者が警鐘

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BLOGOS編集部 全国31の新聞が1面トップで扱った

石井は13年7月に旧知の情報本部長経験者への取材で、別班が旧ソ連、中国、韓国に展開し、ケースオフィサー(工作管理官)をしていることや、別班員が集めた情報が危機管理のため一部の幹部にしか共有されないことなどの詳細を得る。海外の別班員の安全のため、記事の配信予定日の3日前に当時の西正典・防衛事務次官と岩田清文・陸上幕僚長に対し、記事を出すことを事前に通告した。

――13年11月27日に記事を配信する前に、防衛省幹部に事前通告しました。

記事を出すことで、海外の別班員が拘束されたり逮捕されたりしたら責任を取れません。なので、避難してもらうためです。後に「事前通告には感謝している」と防衛省幹部に言われました。

――2人の反応は対照的です。

西事務次官は仲良くしていたので、「別班があるのは聞いていたけど、海外展開は本当に知りませんでした。よく調べましたね」と褒めてくれました。非常に正直な感想だと思います。

岩田さんは「なぜこんなことを書くんだ。なぜこのタイミングなんだ」と。飲み友達だったのですが、それで完全に切れましたね。日本酒の師匠で「獺祭」のうまさを開眼させてくれたのも彼のおかげなんですけど。

人間関係は切れてしまいましたし、さみしいですよ。でも、しょうがない。飲み友達になるために会社の金で飲んだのではないので。

政府は「誤報」の言葉使わず

――記事について、当時の小野寺五典防衛大臣、菅義偉官房長官は別班の存在を否定しましたが、「誤報」との言葉は使いませんでした。

「完全誤報だ」って言ってくると思ってましたけど、そうではありませんでした。「空想」「絵空事」だって言われると思いましたが。

菅官房長官は翌日の会見で、「別班なるものは過去も現在も存在しないと防衛省からは聞いている」と防衛省がソースだとしているんです。小野寺さんも、「陸上幕僚長に聞いたところによると、そういったものは存在しない」と。真っ向から共同通信の誤報だとは絶対に言わなかった。

――それは将来的に認める可能性があるから。

民主党政権の時にやはり核密約を認めた実績に期待しています。ああいうことが政権交代をきっかけに起きる可能性はゼロではないと、かすかな希望を持っています。よっぽど勇気のある総理大臣と、防衛大臣とが合意して認める可能性はゼロではないと思います。

後日ですが、小野寺さんと飲んで話したら「変な感じはするよな」って言うんです。「長くても2年しかやんない防衛大臣になんか言わないよな」って言っているんです。とことん話をして、自分も言えるとこまでは情報を明らかにして何とか調べてくれとは言ったんですけど、彼は本当に知らないです。

官僚が用意する想定問答(報道陣の質問を想定して事前に準備する答弁)でも、完全誤報とは言えないですよ。それを政治家に言わせてしまったら、自分たちの責任が問われますよね。

――記事を配信後の小野寺大臣との閣議後定例記者会見では、防衛省幹部から怒りの混じった視線を向けられました。

針のむしろで、いたたまれないですよね。後ろからは若い記者から「このじじい、いつまで質問しているんだ」「共同しか関係ないだろ」っていう冷たい視線が前から後ろから(笑)。とにかく、いたたまれないですよ。

BLOGOS編集部

記事で人間関係は壊れたが「後悔は全然無い」

――記事を出した後、20年来の知り合いの陸自幹部を飲みに誘うと、「定年後にしてくれ。絶対に携帯に電話しないで」と言われました。他にも、陸自から石井記者の情報源と疑われることを恐れて関係が切れた人も多くいます。記事を出した後悔はありませんか。

全然ないです。新聞記事を書くのが仕事ですから。飲み友達を作るとか仲のいい人を作るために会社の金で飲んでいるわけではありませんから。

石井は自著で、別班について正直に吐露した18の証言を紹介して結んだ。
「■絶対に素の自分は表に出せない。それがストレスで、休日は家族に嘘を言って漫画喫茶に行ってひとりでぼんやりしている」
「■どんな時でも、自然な笑顔をつくれる。人間として寂しい」
「■別班という組織の全貌を明るみに出して、潰してほしい。そして、国が正式に認めた正しい組織をつくってほしい」――。

――証言からは切なさを感じました。

可哀そうですよ。自衛官と言えど、一国民です。そういう人を洗脳したり人格を変えていいのかと。家族にも心の中で壁を作っちゃう人にして、どう責任を取るのかと思います。

自衛官ならやむを得ないのか。とてもそうは言えない。本人と家族が可哀そうですよ。選ばれてしまったらどうしようもないんです。

「別班員の安全をどう守るか?」 国民と国会の承認が必要だ

――自衛隊は今後も評価の分かれる対象であり続ける。災害対応などで国民の大きな期待と実績がある中、別班が今のままでは隊員個々人が浮かばれません。

海外に出向いて情報を取る組織は必要かどうかという議論は確かにあると思います。もし必要であるなら、今のような非公然の組織で総理大臣にも防衛相にも知らせていないなんていう状況を無くすべきです。総理大臣、防衛相の認識の下で、海外でも情報活動が必要であると国民、あるいは国会が認めるのであれば、堂々と活動すべきだと思います。

加えて、危険性に関する議論も忘れてはなりません。自衛官が海外で情報収集活動をする危険性を国民、国会に示さねばなりません。防衛駐在官(駐在武官)が情報収集活動をするのとは違って、身分を隠した自衛官にやらせるのならば、万が一海外の諜報機関や捜査機関に逮捕、拘束されたときに国家としてどう責任取るのか。そうしたことを突き詰めて議論すべきです。

別班の取材が佳境に入ったころ、国会では防衛や外交など4分野の情報を「特定秘密」に指定し、秘密を漏らした公務員に罰則を定めた特定秘密保護法の審議が盛り上がった。取材や報道の自由、国民の知る権利への侵害が懸念される中、石井氏は別班に関する報道で一石を投じたい考えだったが、秘密保護法は反対が根強い中、13年12月6日に成立した。

特定秘密保護法で取材環境は厳しさを増すばかり

――6日で特定秘密保護法の成立から5年を迎えます。

当時は本当に残念で、悲しい思いがしました。安倍晋三政権の下で“いつか来た道”をまたたどっているなと言う気がしました。無力さも感じました。

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