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秘密保護法成立から5年 陸上自衛隊のスパイ組織「別班」暴いたベテラン記者が警鐘

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まず、眼が全然違います。普通の人の眼ではなくなってしまっている。感情を持っていないという印象で。本人たちもたぶん分かっているんです。

――ほかの自衛官とは全然違ってしまう。

ある別班OBは、「とある地方都市の飲食チェーンの社長に会って、こういう情報を取って来い」と言われた。偽の名刺を作って、たどり着いて社長に話を聞いてくる作業ですが、「自分が狙った情報は100%とれる自信がある」って言うんです。

私たち記者は100%なんて絶対に言えない。彼と話していても、「逆に僕が何か言わされているんじゃないか」ってすごい怖いですよ。飲みながらだととくに怖いです。

99%ならまだわかりますけど、100%とれる自信があるって言うんですよ。どうやってやるのかと尋ねても、笑って教えてくれないですけど(笑)。

改憲について考える上で別班に関する議論は不可欠だ

石井は2008年4月、付き合いの長い自衛隊幹部との懇談で、「別班」(陸上幕僚監部運用支援・情報部別班)の存在を示唆された。これをきっかけに、5年半以上を費やして慎重な事実確認と裏付け取材を進め、13年11月27日に「陸自、独断で海外情報活動」などと題した記事を配信。今年10月に自著にこれまでの取材の経緯や別班の問題点をまとめた。

――記事の配信から5年のタイミングで、本を出した意図は何でしょうか。

安倍政権が改憲を進めようとする中で、自衛隊には災害対応に代表される明るい「陽」の部分だけではなく、「陰」の部分があると知ってほしかった。その代表が別班で、このまま放置されたまま改憲されると、非公然の状態の別班まで認めてしまうことになる。憲法9条を考える上で、別班について議論することは絶対に必要だと問題提起させてもらいました。

――酒席で二人きりになった防衛省幹部との何気ない会話から別班に関する情報を得ようとしたり、防衛省本館で退庁する幹部を待ち伏せして飲みに誘ったりする姿など、防衛省幹部らへの取材の様子が克明に記されています。

あえて、それを出しました。政府と防衛省は一貫して「別班なるものは過去も現在も存在しない」としていますが、実際は様々な幹部が取材に対して存在を認めている。それを可能な範囲でオープンにすることで、政府の主張が単純なものではないと示したかった。

二点目は、取材や調査報道の過程を明らかにして、若い記者やジャーナリストの参考になればとの思いです。最後は自分の身の安全を守るため。得体のしれない組織だから、今も怖いところがあります。取材源に迷惑をかけない範囲で、できる限りぎりぎりまでオープンにして、世間に知ってもらう。そうすることで、自分の身を守りたかった。

BLOGOS編集部 自衛隊幹部から得たわずかな情報を積み重ねていった

権力監視がジャーナリズムの最大の使命

――5年半の地道な作業ですが、あきらめるという選択肢はありましたか。

常にありました。取材を進めてもモノにならない可能性があって、一種の賭けでした。最初に端緒の情報を聞いて5年半かかったわけで、会社の取材費も相当使った。1行の原稿も書けなかったら終わりだと。今のポジションにはいられないと覚悟していました。

情報を集めて、パズルの全体が見えてきたかと思ったら、またダメになる。最初から簡単に記事化できるとは思わなかったけど、結構つらかったです。

こんな途方もない情報をどう裏付けて、本当に記事として成立させられるのかと。社内を説得させることも含めて、原稿にできるのかと。長くなることは覚悟していました。

――記事を出せば、防衛省どころか政府も敵に回しかねない。それでも、取材を続けたのは使命感からでしょうか。

当然のことですが、ジャーナリズムの最大の使命は権力監視です。日本の最大の実力組織は自衛隊であり、防衛省、自衛隊を監視するのは最も大切な仕事だと思っています。

別班に関する記事を配信後、石井の下には懇意の防衛省関係者から
「最低限、尾行や盗聴は覚悟しておけ」
「ホームで電車を待つ時は、最前列で待つな」――、
元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏からも
「痴漢にでっち上げられることに注意しろ。酔っぱらって電車に乗るな」
などの忠告が寄せられた。

――著書には生々しい忠告も記されています。

冗談かと思ったけど、まじめな顔で言うわけです。本当に「やばい」と思いました。で、佐藤さんと次に会った時は「自衛隊と公安の間でにらみ合っているから、今は大丈夫だ」と言われて(笑)。彼はヒューミント(人的情報収集活動)に関しては日本の外交官の中では最高峰と言われている人ですので、シャレにならなかったですよね。

「お前を消すぐらいのことはする」

――懇意にしていた元将官への取材では、脅迫めいたことも言われたとか。

「お前は私の現役時代からマークされている。尾行も盗聴もされてきた。今日俺と会ったことも把握されている」と元将官が言ってしまう。「別班は恐ろしい組織で、虎の尾を踏むと、お前を消すぐらいのことはする」とも。

その人は昔、共産党が政権を奪ったらと仮定の質問をしたら、「躊躇なくクーデターを起こす」と言いました。自衛隊の最も恐ろしい部分を見た気がします。本当に恐ろしいです。月並みな表現だが、身の毛がよだつと言うか。

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