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「胃がんは防げる」知られていない“医療の常識”と医療否定本がはびこる日本の現状

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“医療否定本”は絶対に信じてはいけない

写真AC

——まだまだ予防に対する意識が十分ではないのですね。

がん検診の受診率などを見ても、日本は先進国では最低レベルです。日本人はがん保険に入る人は多いけど、がん検診を受ける人はあまり多くありません。がん保険でカバーされるのは、実際にがんになってしまった後で必要になる入院費や手術費です。そこに沢山のお金をかけるくらいであれば、そのうちの少しでいいから病気になる前にお金をかけていいんじゃないかと。

自治体が実施するがん検診は数千円で受けられますが、国が目標に掲げる受診率5割には届いてない状況です。検診を受けるだけで、場合によっては早期にがんが見つかって助かるはずのものが、実際には助かってない状況が多くあります。

——先ほどのピロリ菌のような予防対策でも、副作用が怖いという患者さんや、やりすぎは良くないと考える医師もいると聞いたことがあります。

医師ですら、「昔からいる菌なので退治するのは良くない」とか「除菌するとむしろ食道がんが増える」といったことを言う人もいます。たしかに、除菌をすることで胃酸の分泌が元に戻り、逆流性食道炎になることもあります。しかし、除菌で明らかに食道がんが増えるというデータはありません。

——患者さんからすると、検査はしなくて良いという先生に当たってしまえば、そのまま気付かずに進行してしまうこともあると。

これには患者さんのリテラシー以外に、メディアの問題もあります。本屋に行けばトンデモ本と言うほかない医療否定本が並んでいて、「検診はやめたほうがいい」といった内容がクローズアップされると、中にはまともに信じてしまう人もいます。

例えばアメリカなら、そんな本は誰からも相手にされないと思うんですけど、日本の場合は割とメディアに取り上げられて信じてしまう人がいる。こうしたことに対するカウンターパートとして「それは間違ってますよ」と我々から発信していきたいなと。実際に、同業の仲間からも予防医療普及協会が監修した本には「まともなことが書いてある」という声をもらっていますけど、それが当然ですよね。

——売れるからといってそういう本を喜んで出版してしまう側にも問題があります。そういう本に賛成している医師というのは、どういう人たちなのでしょうか。

普通に考えたらいるはずがないし、いても日本に約30万人いる医師のうちわずか数人だと思います。そうした本を読んで信じてしまった人に伝えたいのは、30万人いる医師のうち数人だけが主張する主張が正しくて、残りの医者が全員嘘つきということはありませんよね、ということです。

例えばこれが15万人ずつ賛否が分かれているならまだしも、ごく一部の何人かの医師だけが主張していることが真実のように受け入れられるということは考えたらおかしなことですよね。だから、私たちは堀江さんの力も借りながら、正しい情報を伝えていきたいと思っています。

自分の身は自分で守る心構えを

——ピロリ以外では、最近はどのような分野に力を入れていますか?

私たち予防医療普及協会は、対象の頭文字を取って「パピプペポ」という活動を行っています。ピロリ菌なら「ピ」という具合ですね。クラウドファンディングで資金を調達して検査キットを広めたり、「ピロリナイト」といったイベントを開いて多くの若い人に参加してもらったりしています。

予防医療普及協会 公式サイト

最近でいうと、パピローマウイルスへの取り組みを行っています。これは子宮頸がんの原因になるウイルスなんですけど、若いうちにワクチンを打つことで防げるがんでもあるんです。

——ワクチンを多くの人に打ってもらう活動をしているんですね。

そうです。ただ、難しい問題もあります。HPVワクチンを接種すればパピローマウイルスの感染は避けられることがわかっていて、日本産科婦人科学会とかWHO(世界保健機構)は接種をするように意見を出しているんですけど、国がワクチンの積極的な接種勧奨を今だ控えているという現状があります。

——効果があるワクチンではあるけど、勧めてはいないと。

確かに副反応という多彩な症状が出ることがあるんですけど、所管省庁も消極的になっていて、一時期は80%くらいの人が打っていたのが今は1%以下です。この問題は政治マターになってしまっていて難しいのですが、今でも16歳までは各自治体が無料のHPVワクチン定期接種を行っているので、そういったことを啓発しています。

——予防医療普及協会が監修した堀江貴文氏の著作『健康の結論』でも、外国では多くの人が接種していると読みました。

先進国では70%程度が接種していますが、日本では1%以下ですから。最終的には制度に踏み込むところがゴールだと思っていますが、まずは今現在こうしたことを知らないためにHPVワクチンを打っていない人に受ける機会があることを教えたいですね。その上で、メディアや官公庁が動くきっかけが作れればと。

——歯周病の対策もあると聞きました。

歯周病は学術的にはペリオと呼ぶので「ぺ」ですね。まだ準備中なんですけど、考えているものがあります。

知り合いに匿名で「鼻毛が出てますよ」と伝えられる「チョロリ」というサービスがあるんですけど、その「口臭」版をやろうという話で盛り上がっています。近年は、歯周病が脳卒中や心筋梗塞につながりやすいというデータも少しずつ出てきていて、口臭というのは健康にも大きく影響するんです。

——いろいろな面で、日頃から健康と予防について考えないといけないと思わされます。しかし、頭では大事だと思っていても、すぐに習慣を変えるのは難しくありませんか。

人の生活習慣は固定化してしまうと、変えるのがなかなか難しいという面はあります。ただ、ピロリ菌の検査やワクチンの接種などは生活を変えなくても簡単にできますよね。まず調べてみて、見つからなければ良かったね、見つかったら対処しましょう、で良いと思うんです。

伝えたいのは、何かを待つのではなく、ご自身で予防に積極的に取り組んでほしいということです。習慣化してしまえば、ラクになることもあると思いますので。

——最後にこれから予防医療について真剣に考えたいと思った読者に、メッセージをお願いします。

気持ちの問題ですが、自分の身は自分で守ると考えましょう。自分のことは他人任せにしないのが健康の大前提だと思います。ネット上には様々な情報がありますが、何が正しいかを見極める目を鍛えることも大切です。私たちの情報発信もその一つの参考になればいいかなと思っています。

プロフィール

鈴木英雄
つくば予防医学研究センター・副部長
医師、医学博士。 平成6年、筑波大学医学専門学群卒業。専門は消化器内科、医学教育。平成15年に提橋氏とともに株式会社メディシス設立に関わる。平成19年から1年半、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターへ留学。平成25年から筑波大学医学教育学准教授。内科学会認定医、消化器病学会専門医、消化器内視鏡学会専門医、がん治療認定医、ピロリ菌感染症認定医。
平成29年度より、筑波大学付属病院 つくば予防医学研究センター 副センター長に就任。

一般社団法人 予防医療普及協会
http://yobolife.jp/
2016年3月、経営者、医師、クリエイター、社会起業家などの有志を中心として発足。予防医療に関する正しい知見を集め、啓発や病気予防のためのアクションをさまざまな企業や団体と連携し、推進している。
これまでに胃がんの主な原因である「ピロリ菌」の検査・除菌啓発を目的とした“「ピ」プロジェクト”や、大腸がん予防のための検査の重要性を伝える“「プ」プロジェクト”を実施したほか、病気予防のための自己管理サービス「YOBO(ヨボウ)」をリリース。各診療科の専門医、歯科医など診療科や研究の専門領域を横断した医師団が集い、活動をサポートしている。
今後、「ピ」、「プ」プロジェクトに引き続き、子宮頸がん検査、HPVワクチンに関する正しい情報の発信、普及啓発を目的とした「パ」プロジェクトを実施。

医療従事者や医療に意識の高い人が参加するオンラインサロンも運営中。

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