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長寿企業はなぜ日本に多いのか? 新潟で見た身の丈経営と三方よし

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よく知られていることだが、創業100年以上の企業は日本に集中しており、30,000社以上にのぼる(東京商工リサーチ調べ)。全世界的に、創業100年以上続いている企業のうち約3割が日本企業だといわれており、200年以上続く企業となると、日本企業が5割以上を占め、さらに長寿企業世界10傑となると、ドイツの一企業をのぞき、ほかはすべて日本企業で占められている。

また、これもよく知られている話だが、世界最古の企業は大阪に本社を置く「金剛組」(現・高松建設グループ)。この企業は西暦578年に創業され、1440年の歴史を誇る。寺社仏閣や城郭の設計・施工を生業とし、有名なところでは聖徳太子による四天王寺や江戸城、大阪城の城門や櫓を手がけたともいわれている。

では、なぜ日本にはこれほど長寿企業が多いのか……。そのヒントになりそうなシンポジウム「THE EXPO ~百年の計~」が新潟県・新潟市で開催された。このシンポジウムでは、100年以上続く新潟の長寿企業を招き、パネルディスカッションを実施。それを県内の経営者に聞いていただき、次の100年企業育成の礎にしようというのが、おもな意図だ。なお、当日は100人以上の企業経営者が話を聞きに集まった。

新潟市で「THE EXPO ~百年の計~」が開催された

新潟市でTHE EXPO ~百年の計~が開催されたワケ

シンポジウムが新潟県で行われたということも、気にかかる。純粋に100年企業が多いのは首都圏や関西圏のはずだ。特に大阪は江戸時代より「天下の台所」と呼ばれ、当時から続く“食に関する企業”があまたある。

それが、新潟をTHE EXPO ~百年の計~の舞台にしたのはなぜか。まず、北陸地方は古くから“産業のベルト地帯”ともいえる地域だからというのが挙げられる。

西から列挙すると、日本産メガネフレームの95%以上が生産される福井県・鯖江市がある。鯖江でメガネフレームが作られ始めたのは明治38年(1905年)といわれ、100年以上続く企業が多いことが予測できる。石川県・金沢市は、前田家100万石の中心地で、金箔工芸品や九谷焼といった名産で有名。富山県・富山市は、「富山の薬売り」発祥の地で、現在でも家庭の置き薬として存在感を示す。

そして新潟県。新潟は屈指の米所で造り酒屋が数多い。さらに、直江津という北陸屈指の良港も古くからあり、貿易産業が盛んだった。そのうえ北東には酒田港があり、直江兼続が奨励した漆や紅花、上杉鷹山が心血を注いだ漆を原料にしたロウソクといった特産品の集積地で、廻船問屋の寄港地としても大いに利用された。

鯖江はメガネフレームで有名だが、福井県全般では陶磁器も盛ん。写真は鯖江のある施設で見かけた越前焼の壁掛けオブジェ(2018年4月撮影)

金沢で見かけたワイングラス。「ステム」(支柱)と「プレート」(フット)部分に美しい九谷焼が施されている(2018年9月撮影)

さらに新潟だけは、これらの産業ベルトとは様相が異なるという説がある。一般的に長寿企業は、城下町=県庁所在地(金沢・富山)、または県庁所在地ではない城下町(鯖江)、港町(酒田)の周囲に集まるが、新潟は全県に長寿企業が散らばっている傾向があるという。これはあくまで憶測だが、越後平野は広く、あちこちで米が作られ、その地の利を生かした場所に造り酒屋が生じたからと考えられる。その造り酒屋は“そのまま酒造業” “酒造業とほかの事業の兼業” “酒造業からまったく別の事業へ”といった経緯をたどり、県全体に長寿企業が散在しているのではないか。

長寿企業の大半を占める“ファミリービジネス”

さて、THE EXPO ~百年の計~の内容に移ろう。まずは主催者である百年の計実行委員会 委員長 赤池学氏の挨拶から始まった。赤池氏が特に強調していたのが、「地域の価値をしっかりと後生に伝えること」「CSVやCSRなどで、地域住民との密着を図ること」だった。そして、この2つを100年以上前から続けてきたからこそ(当時CSV・CSRという言葉はなかったが……)、長寿企業として存在感を示せているのではないかと結論づけた。

日本経済大学大学院 特任教授 後藤俊夫氏

続いて日本経済大学大学院 特任教授 後藤俊夫氏(一般社団法人100年経営研究機構 代表理事)が基調講演を務めた。後藤氏は「身の丈経営こそ長寿の秘訣。一族経営ともいえるファミリービジネスが長寿企業になりやすい」と話した。

ファミリービジネスは、経済的にも人的リソース的にも余裕がなく、事業拡大・多角化による利益追求を行いにくい。逆にいうと大がかりな投資をしないので、不況時に投資額が経営を圧迫することが少なく、ある意味“究極のディフェンシブルプレイヤー”だと後藤氏は話す。後藤氏がノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア前米副大統領と会見した際、「なぜ日本には長寿企業が多いのか」とたずねられ、後藤氏は「利益追求にとらわれない身の丈経営の企業が多いからです」と答えたそうだ。欧米企業は、利益追求を第一に考える傾向が強い。前副大統領には、日本の長寿企業の姿勢に、新たな“気づき”を見つけたようだと、後藤氏は語る。

一方、長寿企業にはもうひとつの特徴があると後藤氏は指摘する。それは“社会の公器”としての役割を果たしていることが多い点。たとえば近江商人の「三方よし」。「売り手によし、買い手によし、世間によし」を表した言葉だが、特に“世間によし”という部分は、近江商人が津々浦々全国を回ることで、各地で不足している物品を補い、商品の価格を均衡させる役割を果たした。大手商社、伊藤忠商事もルーツは近江商人だった。

また、宿泊業も社会の公器として重要な存在。世界最古の企業は建設業、二番目は「池坊」という華道家元だが、そのほかは圧倒的に宿泊業が目立つ。宿泊業は、旅人や行商人に食事や安全な眠りを提供するうえ、宿場街に発展することで地域経済の活性に寄与してきた。ちなみに世界最古の宿泊業は、西暦705年創業の甲斐の国(山梨県)の山奥にある「慶雲館」。ギネスにも「最も古い歴史を持つ宿」として認定されている。

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