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<漁業法シリーズ4>21年前の幻の漁業法改正-きちんとした96年TAC法制定とデタラメな18年漁業法改正の手続きを比較する-

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<留学を活かせる水産庁企画課長を拝命>

 私は1994年夏、3年間のOECDの勤務を終え日本に帰国し、9月に水産庁企画課長を拝命した。内示を受け私も身震いした。なぜならば前号で触れた第3次海洋法会議の決着がつき、水産庁で大改革をしなければならない時だったからである。1976年から78年までワシントン大学の海洋総合研究所に2年間留学させてもらっていた。その経験を活かせるポストであった。

<欧米先進国への出張報告から開始>

 200海里のEEZの波はもう完全に日本に押し寄せてきており、日本が海洋法条約に加盟するためには、要件である海洋生物の保存の法律体系を整えなければならなかった。漁業法がそうだと言いくるめることもできたかもしれなかったが、私はこれを機会に、漁獲の上限を課す出口規制を導入すべく検討を開始した。漁業法が漁船隻数やトン数規制といった入り口規制(投入量規制)だけだったからである。すぐさま若手を欧米先進国へ出張に出し、報告書を作成した。

<反対が多数の海洋法制度検討会の猪口正論発言>

 その後、水産庁の中に海洋法制度検討会を打ち立てた。沿岸漁業等振興審議会(以下沿審、今の水産政策審議会)があったが、その前に検討しなければならないと考えていた。普通は役所が揃えたシナリオに添って結論を出していただくが、この時は思い通りには進まなかった。当然のごとく水産業界団体の人たちが委員に目白押しであり、水産庁OBの委員も含め余計な規制には大反対だった。一般的に、規制緩和が大手を振って歩いていたのは今と同じだが、資源管理は絶対に規制しなければ成り立たない。規制なしの自由競争では資源管理の徹底な度できない。

 その中で、国際政治学者の猪口邦子(現参議院議員)も委員となっていただいたが、その立派な正論には感心した。流れを変えた猪口の発言は、「日本は世界一の水産国である。だから率先して資源保護の姿勢を世界に示すべきである。そういう見本を示せば中国も韓国もそれに従わざるを得なくなってくる。なぜそういう前向きな議論をしないのか」。まさに正論であり、私は今でも忘れられない。

<TAC法:沿審-法案作成-(各省折衝)-通常国会に法案提出>

 1994年9月から1年かけて準備をし、95年初からは沿審での検討も開始した。その審議を経て法案の制定作業を進め、年明けの96年の第136国会にTAC法(海洋生物資源の保存及び管理に関する法律案)を提出した。94年秋から丸々2年かかっている。

 この間に各省折衝がある。公正取引委員会は、漁獲量の規制は価格を吊り上げるカルテルだからと認められないと意見を言ってきた。通常は課長補佐以下がやることだが、こんな馬鹿げた意見には私が自ら出向いた。経済ばかりで物事を考える悪い例である。

<漁業法:官邸-規制改革推進会議―水産庁の法案作成-臨時国会に法案提出>

 それに対し、今は規制改革推進会議が、ろくな専門家がいないのに勝手に強引な球を投げてきて、それに水産庁が従って慌てて立法化している。それに私がブログで指摘する(【政僚シリーズ1】 日本の官僚制度の危機 ―官邸のいいなりの「政僚」(政治的官僚)が跋扈する霞が関―14.08.24、他3回)『政僚』(政治的官僚)が乗っかって来てますます拍車をかけている。

水産庁の説明資料で、今回の法案検討経緯が書かれているが、2017年4月に始まり18年6月「農林水産業地域の活力創造プラン」の再改訂で成案なったとしている。ここには水産政策審議会等水産庁内部の検討状況が全く登場しない。70年ぶりの大改正と謳いつつたった1年の急造、粗製法案なのだ。安倍政権下では、現場の意見も聞かないばかりか、関係省庁すら片隅に追いやられているのだ。TAC法は海洋法条約への加盟を急ぐ必要があった。それに対し漁業法にはそのような期限はない。それにもかかわらず、基本的法律改正を入管法の陰に隠れて、臨時国会で数時間の審議で通すという悪い魂胆は許し難い。

<世論に支持をいただくための論説委員根回し>

 役所的な仕事は順調に進んだが、水産業界が反対していた。ただ救いは、EEZの制定により、中・韓漁船の無秩序漁業を辞めさせることは全国的支持を受けていた。私は、漁業者には200海里内は日本の海になるのだから、率先して資源管理型漁業に変えていくべきだと説明した。しかし、理解されず怒号が飛び交うこともあった。

 そこで、その流れを変えるために少々変わった根回しを行なった。私は元から物を書き発信が多いこともあり新聞記者の皆さんとは付き合いが多かった。その皆さんが各紙の論説委員になったりしていたので、彼らに資源管理の必要性やTAC法の正当性について説いてまわった。すると驚いたことにほとんど全紙が理解してくれ、読売新聞は「冷静に海の秩序作りを進めよ」(96.2.20)、朝日新聞は「海からの収奪はやめよ」(96.2/25)の例にもみられるように、社説で支持してくれた。今日のようなIQといった過激なものではなく、業界全体のTACだということがわかると、徐々に落ち着いていった。

 この成果はEEZの設定、TAC法の制定を受けた日中漁業交渉にも及んだ中国側の交渉担当者が朝日新聞の翻訳版を持ってきて「頼むから過剰漁獲をしている中国漁船を日本が厳しく取り締まってくれ」と要請してきたのである。また、韓国大使館の水産担当は、それこそ頻繁に私を訪ねてきた。私は、よいことなので逐一法体系を説明してやった。すると韓国はTAC法をそのまままねるような形で資源管理の法律を作り、なんと施行は日本より先だった。まさに日本が近隣諸国に見本を示せたのである。

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