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JAL副操縦士の酩酊事件にみる「生活者視点」

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ただ、再発防止策となると、一筋縄にはいかないというのが正直なところではないでしょうか。

JALによると、パイロットの飲酒問題は今回に限った話ではなく、2017年8月以降、操縦士が社内のアルコール検査に合格できなかったケースが19回もあったそうです。飲酒問題が一定の頻度で発生していることを考えると、「だらしない」「真面目さに欠ける」「意志が弱い」といったパイロットの資質の問題というよりも、ある種の構造的な背景があると考えるべきだと思います。

例えば、なぜ、副操縦士は深酒をしたのでしょうか。副操縦士の弁護士は裁判において、「(副操縦士は)仕事で家族と長期間離れる寂しさに加え、不規則な勤務時間などにより不眠症に陥っていた」「自己治療の手段としてアルコールを使っていたようだ」と述べたそうです。この発言には、ウーンと考えさせられるところがありますよね。

というのは、航空機、とりわけ国際線のパイロットの労働環境はきわめてハードだといわれています。

「時差ぼけ」による生体リズムの失調はその最たるもので、国際線のパイロットのじつに9割が「時差ぼけ」に悩まされているほか、3分の1近くが睡眠障害を抱え、メンタルヘルスへの影響も少なからず存在するといわれています。

そのうえ、心の拠り所である家族となかなか会えない日々が続いて、孤独感に襲われたら……飲酒運転は言語道断とはいえ、お酒に逃げたくなる気持ちはわからなくもないですわね。家庭や職場における「生活」にまつわる悩みの解消を目指さない限り、お酒に頼ってしまう社員は、今後も後を絶たないと思います。

ポイントは「生活」です。いま、社会システムの安全マネジメントでは、生活者を起点とした「人間生活工学」からのアプローチが注目を浴びています。

「人間工学(ヒューマン・エンジニアリング)」をベースとして、1990年代から発展を遂げてきた学問分野です。その特徴は、「生活者」、すなわち行動する個人の視点から、使いやすく、わかりやすい製品やシステム、環境を設計し、安全かつ安心、快適、健康、便利な生活環境の構築を目指す点にあります。

つまり、今回の事件でいえば、アルコール検知器をゴマかしのきかない形状に「人間工学」の立場から修正を加えるだけでなく、パイロットの人間の自然な行動をしっかりと把握したうえで、生活習慣指導や睡眠指導など、「生活者」の視点からマネジメントを考えるということです。

JALは再発防止策として、海外空港に配備した新型アルコール検知器による検査の実施や、全社員を対象とするアルコールに関する知識の付与、意識向上に向けた研修の実施、グループ各社の運航乗務員の乗務開始24時間前以降の飲酒の暫定禁止などを打ち出しています。

しかし、もっと「生活者」の視点に寄り添った対策も必要だということですね。「生活者視点」を抜きにして、魂の入ったコンプライアンス体制の構築や、安全マネジメントのレベルアップは考えられないと思います。

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