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私が"好きだから戦場に行く"と答える理由

シリアで誘拐された安田純平氏について、自己責任だ、という批判と、自己責任などではない、という擁護の論争が盛んだ。いまなおアフリカや中東の紛争地で取材を重ねる戦場ジャーナリストの大津司郎氏に意見を聞いた。

■日本の大手メディアが危険地帯へ行くことはない

自己責任かどうかを問うてしまえば、答えは現地で捕まったという一点において安田君の「100%自己責任」だ。だが、それは「彼へのバッシングが妥当」ということではない。そもそもこの二分法自体に違和感を覚える。

大津氏(左)「安田君(右)は本当に十分な対策をとったのか」。(右、時事通信フォト=写真)

いま、日本のメディアやマスコミには「国際問題」という視点が欠落している。かつてはドキュメンタリー番組も多数作られていたが、「視聴率がとれない」といった理由で数が減る一方だ。海外では大手メディアが取材に赴くこともあるが、日本の大手メディアが危険地帯へ行くことはない。

しかし、紛争ジャーナリズムは断じて不要なものなどではない。そのため、フリーのジャーナリストが自己責任で危険地帯へ行くしかないのだ。

■「戦場ジャーナリスト」の後進が育つとは言い難い状況

日本ではほとんど報じられないが、世界では、紛争や人道的危機など、さまざまな出来事が起こっている。そうした困難な状況に置かれている人々は、その現状を「世界に伝えてほしい」と願っている。だが、こうした現実を「伝えたい」と思っても、日本のメディアが買ってくれることはなかなかない。

それでもジャーナリストが危険な地域へ足を運ぶのは、記録に残さなくてはならない現実があり、それがある種、未来への投資であり責任だからだ。とはいえ、これは現状の日本で理解されることではないだろう。「自己責任」で行かざるをえず、失敗すればバッシングに遭う。今後「戦場ジャーナリスト」の後進が育つとは言い難い状況だ。

■本心は違っていても「好きだから行く」と答える

写真=iStock.com/metamorworks

だから私も「なぜ戦場に行くのか」と聞かれても「好きだから行く」と答えている。本心は違っていてもだ。

日本は島国で視野も狭い。もっと世界各地で起こっていることを知ってそこから学び、この国の政策などに活かしていかなくてはならないが、日本の大衆にとって異国の紛争は「遠い」出来事、関心外の問題でしかないのだ。

国家、マスコミ、教育、あらゆる要素が積み重なって生まれたこの日本の現状は、根本的に変えなくてはならないと私は考えている。危険地帯に行くべきではない、などという一部大手メディアもあるが、「伝える」ことこそがメディアの使命ではないだろうか。

■取材にもっとも必要なのは「セキュリティ」

安田君のケースを、自己責任かどうかといった感情的な論争で片付け、忘れ去ってはならない。必要なのは、事件がなぜ起きてしまったか、という原因の追求だ。海外では、こうした事件が起きるたびに専門家による原因分析が行われ、経験として蓄積されている。

危険地帯での取材にもっとも必要なのは、「セキュリティ」だ。いまメディアが騒ぎ立てている「危機管理」、つまりどう対処すべきか、という問題ではなく、それ以前に危険の存在を察知して回避することが重要なのだ。

ここでのセキュリティとは、すなわち「情報ネットワーク」だ。戦場では刻一刻と事態が変化する。その情報を掴み、的確な判断を下す必要がある。

■日本には「セキュリティ」のプロがいない

欧米諸国から危険地帯へ赴く人々は、常にこのセキュリティを第一に考えている。例えば、南スーダンの紛争地に食糧や衣料品などの物資を供給するNGO「オペレーション・ライフライン・スーダン」は、「keep always staff alive(常にスタッフを生きて帰す)」を活動の目的よりも先に掲げ、毎日、軍出身のセキュリティのプロを交えた安全対策会議を開いている。

だが、日本には常に危険に晒される状況に対処できるようなセキュリティのプロがいない。日本のフリージャーナリストは、一回の取材に最大で数百万円の費用をようやく工面して、現地の「情報通」との人脈を築いているが、海外メディアと異なり危険地帯の情報が共有・蓄積される土壌がない。

冒頭の発言に戻るが、そういう意味で安田君は、セキュリティ対策をとったのか、人脈/ネットワークを構築できたのか、金は十分だったのか、そこに彼は自分で責任をとる必要がある。

今回の事件を教訓として、日本のメディア各社は連携し「セキュリティ」を強化するための情報ネットワークをつくるべきだと私は考える。

(戦場ジャーナリスト 大津 司郎 構成=梁 観児 撮影=橘 厚樹 写真=時事通信フォト、iStock.com)

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