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「文在寅大統領は徴用工訴訟に熱心」という勘違い ~「反日」というよりも単なる日本軽視~ - 澤田克己(毎日新聞記者、元ソウル支局長)

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韓国の最高裁が徴用工訴訟で原告勝訴を確定させた波紋が続いている。1965年の日韓国交正常化の土台を突き崩すような司法判断だから大騒ぎになるのは当然だが、日韓双方で勘違いや誤解も多いようだ。このコラムでは今年6月に「『解決済み』の徴用工問題で誤解が多い理由」(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12997)として、元徴用工の個人請求権が残っているというのは日本政府の見解であることを紹介した。

私は日本での最大の誤解はその点かと思っていたのだが、ここにきてネット上に流布されているらしい新たな勘違いに面食らうことになった。それは「文在寅氏は徴用工訴訟に強い関心を持ってきた」というものだ。そんなこと聞いたことないんだけど…。

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徴用工訴訟では名義貸し、「公判に来たことない」

最高裁判決の波紋を特集したBS番組に出演した時のことである。ディレクターから送られてきた打ち合わせ用の資料に「盧武鉉氏と弁護士事務所を開設した時、徴用工裁判を手掛けていた? ライフワーク」という書き込みがされていた。聞いてみると、手分けして色々な資料に当たった中にそうした記述が出てきたのだという。ネットでそうした情報が流れているようだった。

私は「そんなことないと思いますよ」と伝える一方、自分でもネットを探してみた。盧氏と共同で事務所を運営した時に徴用工訴訟を手がけていたという内容は見つけられなかったが、文氏が徴用工訴訟に強い関心を持っていると示唆する文章はあった。

朝鮮半島専門家とされる大学教授の書いたネット記事にも、「文氏は弁護士だった頃に徴用工裁判に原告側代理人としてかかわったことがある」とか、「この問題に一番熱心だったのは文在寅氏だ。文氏は、法務法人『釜山』に弁護士として在籍していた2000年頃から徴用工問題にかかわった。

三菱重工業広島機械製作所の労働者として強制的に徴用されたとする6人の代理人の一人として訴状、準備書面、証拠資料を集め裁判所に提出した」と書かれていたのである。

放送まで残された時間は少なかった。自分で資料を当たって検証するのは難しいと判断した私は、徴用工訴訟をライフワークにしていると自他共に認める韓国の崔鳳泰(チェ・ボンテ)弁護士に電話した。韓国での関連訴訟ほぼ全てに関与し、運動をリードしている人物だ。

私は崔弁護士に「日本のネットで文大統領は徴用工訴訟をライフワークにしてきたと書かれているらしいのだが、本当だろうか」と聞いてみた。返ってきたのは「フェイクニュースだ」という言葉だ。2000年に三菱重工業を相手取った訴訟を釜山地裁で起こした時、原告代理人の欄に文氏の名前も入れたのは事実だそうだ。

ただ「文大統領は名前を出しただけで何もやってませんよ。公判に出てきたこともないし、支援者に会ったこともない」。崔弁護士は不思議そうに、そう言うのだった。

結局、番組側が制作したフリップを修正するのは間に合わなかったので、司会者から「こういう情報もあったが、本当のところはどうなのか」と私に質問を振ってもらった。そこで崔弁護士の話を紹介して乗り切ったのだった。

盧武鉉氏と取り組んだのは国内の労働争議

文氏は司法修習を終えた1982年に地元の釜山で弁護士活動をしていた盧氏と出会い、共同事務所を運営することになった。文氏は、民主化を求める学生運動で検挙された前歴が問題視されて判事任用を拒否されていた。

一方の盧氏は売れっ子の敏腕弁護士として活躍する一方、権威主義体制下の公安当局がでっちあげた事件の弁護引き受けを契機に人権問題への関心を強め始めていた時期だった。

2人はその後、人権弁護士として労働争議を積極的に受任するようになる。一時は釜山周辺地域の労働争議を一手に引き受けるほどだったという。この経歴が、共同事務所で徴用工訴訟を手がけたという最初の勘違いにつながるのだろう。ただ、盧氏は1988年に国会議員となって以降、活動の場を政界へ移す。徴用工訴訟が始まったのは90年代以降のことなので、そもそも80年代に手がけるなどありえない話である。

崔弁護士が指摘した三菱重工業を相手取った訴訟は、最高裁で原告勝訴が確定したうちの一つだ。訴状に名前を載せているのだから、「かかわった」というのはウソではない。「代理人の一人として訴状、準備書面、証拠資料を集め裁判所に提出した」というのも、弁護団としての活動だと強弁することは可能だ。どちらも「ウソではない」というレベルの話だといえる。ただし「熱心だ」と書いて大丈夫かとなると、かなり疑問である。

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