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暴徒化抗議デモ「黄色いベスト運動」でマクロン政権「危機直面」 - 渡邊啓貴

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定着した「エリート側の大統領」イメージ

 しかし日曜日の朝、メディアで映像が流されたマクロン大統領のパリ緊急帰国は、決して成功したとは言えず、人心を取り戻すまでにはいたらなかった。

 治安部隊とデモ隊が激しく衝突した凱旋門近くのクレベール通りでは日曜朝に治安部隊が整列し、マクロン大統領を迎えた。マクロン大統領は丁寧な姿勢で治安部隊員に慰労と労いの言葉をかけていたが、そのとき周囲を取り巻き、この「政治的セレモニー」を傍観していた市民たちの間から、誰からともなく「マクロン退陣」という声が上がった。連鎖的に声はあちこちで大きくなり、マクロン大統領もこのセレモニーを早々に切り上げなければならなかった。

 左翼でも右翼でもなく、これまでの既成大政党の政権でもないことで、人心を刷新し、国民に期待を持たせたマクロン大統領だったが、多くの国民が「裏切られた」と感じていることを象徴する出来事だった。

 ニコル・ベルベ法務大臣は、解決には「緊急事態宣言しかない。しかしその段階にきているとははっきり言えない」と言葉を濁しつつ、危機感を募らせる。クリストフ・カスタネール内務大臣も、緊急事態宣言の可能性を示唆した。早期の緊急対応が必要なことは確かだ。マクロン大統領は、日程は未定だが、議会でのデモ抗議者たちとの面談を約束した。

 今回の暴動の背景にある国民の不満は、燃料価格高騰と燃料税引き上げが口火となったが、EU(欧州連合)財政基準で緊縮財政を強いられた国民の不満だと言えよう。中産階層の没落、貧富の格差はフランスでもよく指摘される。

 デモ参加者が、購買力の低下を声高に叫ぶ背景はそこにある。今春の国鉄の民営化に対する鉄道組合抗議ストは政権への大きな打撃とはならなかったが、法人税引き下げの一方で社会保障費の軽減、解雇時の企業の罰金上限制定などは富裕者びいきの政策と受け取られている。今回の暴動は、次第に国民感情も限界に近づいていることを示した形となった。金持ち大統領、エリート側の大統領としてのイメージは定着した。

77%の国民が運動を支持

 日曜日の朝、シャンゼリゼ近くで店のガラス窓を破壊された店主は、「週末あわてて戻ってきた」とこぼしたが、抗議デモの過熱化にはあまり触れなかった。

 多くの国民に暴力はよくないという思いと同時に、マクロン政権の現状に対する不満を共有する気持ちがある。マクロン大統領に対する支持率は、11月には20%台にまで低下した。最も人気のなかったフランソワ・オランド大統領(2012年5月~2017年5月)でさえも、これほど早く30%をきったわけではなかった。77%の国民が「黄色いベスト」の運動を支持するという調査データもある。

 また、デモ参加者の大部分が30~40歳代と労働中堅層が多く、彼らの不満が大きいことは明らかだ。知り合いのソルボンヌ大学の教授も、「学生の一部が騒ぎ始めている。来週は授業に支障が出るかもしれない」と筆者に伝えてきた。

「黄色いベスト運動」の人たちは、左右どちらでもなく特定の政治集団などに率いられた人たちではない。ばらばらの階層や職業の人たちである。しかもパリだけではなく、デモは全国に広がっている。この運動のインターネットサイト『怒るフランス』へのアクセスは、日増しに増えている。

 マクロン政権の危機、そう言ってよい。(渡邊 啓貴)

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