- 2012年03月17日 12:35
台湾における教育達成の不平等とジェンダー、キョウダイ構成
Wei-hsin Yu and Kuo-hsien Su, 2006, "Gender, Sibship Structure, and Educational Inequality in Taiwan: Son Preference Revisited," Journal of Marriage and Family, Vol.68 No.4, pp.1057-1068.ジェンダーとキョウダイ構成が学歴達成に及ぼす影響を分析した論文。同じ家庭に育っても性別や出生順によって学歴が影響されることは、これまでいくつかの研究によって指摘されている。米国の研究では、キョウダイ数が多かったり、キョウダイとの年齢の間隔が狭いと親が教育費を賄うのが難しくなるため、学歴が低くなりやすいとか、娘の場合は高学歴を得させても生涯年収には大きな影響がないので親は娘に高学歴を得させようとしないとか、末子のほうが親が経済的余裕のある時期に進学するので学歴が高くなりやすいとか、言われているそうである。台湾でも日本でも、長男には家を継ぐという役割が期待されているので、むしろ学歴が高くなりやすいと考えられる。また、台湾では、長女の場合母親代わりとして弟や妹たちの面倒をみることが期待されているので、むしろ学歴は低くなりやすいという仮説が考えられる。上記の米国での研究成果は単純な合理的選択で説明がつくのだが、台湾での仮説は家族制度に深く根ざしたものである。
Yu and Su は Panel Study of Family Dynamics in Taiwan のデータを使い、1935 - 1976年に生まれた人々を母集団とするサンプルを分析している。調査対象者は自分のキョウダイに関して最大で5人までその年齢や学歴などを答えており、これらも利用してマルチレベル・モデルで分析している。分析の結果キョウダイ数が少ないほど、出生順が上の(先に生まれた)人ほど高い学歴を達成する傾向が見られる。男女別でみると、性別の主効果だけを入れた際には、男性のほうが高い学歴を得ているが、出生コーホートと性別の交互作用効果を見ると、男性のほうが学歴が高いのは1945年以前の出生コーホートで、1946-55年生まれでは男女でほぼ同じ、それ以降はむしろ女性の学歴のほうが高くなりやすい。長男ダミーは性別や出生順を示す連続変数をコントロールしても正の有意な効果を持ち、長男に突出した教育投資がなされていることがわかる。このような長男重視傾向はキョウダイ数が多いほど強いという結果になっている。一方長女ダミーの主効果は有意でないが、家族の Socio-Economic Status (SES) と長女ダミーの交互作用効果が負の有意な値で、SES が低いと長女の学歴は低くなりやすいことになる。また出生コーホート別にみると、1936 - 1945 年生まれでだけ長女ダミーは負になっており、戦後の混乱期には長女の教育達成が犠牲にされることがあったと示唆される。
これらの結果は、米国での研究成果が示すような経済原理だけでは説明がつかず、家族制度によって生じていると考えたほうがよいと考えられる。長男に特に教育投資することや SES が低い家庭では長女の学歴が特に低くなりやすいことは、長男・長女に特別な役割が期待されていることに起因すると考えられる。アジア特殊論っぽいのが難点だが Journal of Marriage and Family はページ数の制約がきついのでこういう論述になるのはよく理解できる。



