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【漁業法シリーズ3】 沿岸国主義は沿岸漁民主義につながる -大規模漁業の振興では資源は枯渇に向かう

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<世界は沿岸国主義>

 国連海洋法条約とそれに順じたTAC法の下では、沿岸国の漁業資源の管理はすべて沿岸国に任される。つまり沿岸国がまず使う。それで余裕があって有効活用できないときに、外国にその資源を割り当てることになった。そのため日本は外国のEEZ設定により、徐々に締め出され、結局沿岸国がほとんど漁獲するようになっていった。

 その結果、1973年のピーク時には399万tだった遠洋漁業の生産量は、2017年には32万tと10分の1以下になっている。内訳を見ると、島嶼国のEEZを含む外国の水域は僅か20.6万tにすぎない。つまり、世界ではこの20世紀の後半の20~30年で、漁業における沿岸国主義が徹底されたのである。

<遠洋漁業の締め出しは当然の流れ>

 言ってみれば当然の報いであった。一般に遠洋漁船が外国の漁業水域で操業していても、来年は漁業交渉で締め出されるかもしれないと思えば、尚更荒っぽい漁獲をしても今のうちに儲けようとする。今風に言えば「今だけ、自国船だけ、金儲けだけ」である。遠洋漁業のこうした漁業資源の乱獲競争という悪循環が続き、結局沿岸国から一斉に締め出された。その裏返しで、海洋法条約により資源に最も依存する沿岸国が資源管理することが定着していった。世界各地で起こっていた失敗を繰り返さないためである。

<漁業権制度は世界に先駆け沿岸国主義を制度化>

 前号及び前々号で触れたが、日本の漁業権制度はまさに資源管理の沿岸国主義を先取りする優れた制度だった。沿岸漁業の中でも、沿岸漁民主義を貫き、その資源にずっと依存し続けてきた沿岸漁民が資源管理を中心となり、日本近海の資源を枯渇させることなく世界一の漁業国になっていった。共有地での早い者勝ちが資源の枯渇を招くというハーディンの言う「共有地の悲劇」を見事に回避してきたのである。

 それを今回の漁業法の改正で、EEZ内にかつての遠洋漁業と同じような操業を認めるというのであり、まさに時代錯誤と言わねばならない。資源の枯渇に繋がることは明らかである。

<漁民の生活を脅かす知事の恣意的許可権限>

 今回の漁業法の改正の一番の問題点は、この沿岸国(沿岸漁民)主義という大原則をも踏みにじっていることである。漁業法は沿岸漁民を第一とする優先順位を決めて漁業権を割り振ることにしていた。ところが、その優先順位を廃止し、そこに「適切に有効利用」していなければならないというような訳のわからない抽象的条文を加え、誰でも漁業権を得られるような形にしている。また、トン数制限をして過剰漁獲を抑えていたものを、その制限を取っ払って大規模漁船に沿岸・沖合漁業をやらせるというのだ。これでは沿岸漁業を守るためにEEZ内に小規模な沿岸と大規模な沖合を分けるもう一つ線引きをしなければならなくなる。

<先行き不安で漁業後継者が跡継ぎをためらう元凶になる>

 しかも、その漁業権や指定漁業を許可するのが知事である。詳細は省くが、海区漁業調整委員会の委員も知事の任命が多くなると、知事の思いのまま恣意的な運用が行われるのは目に見えている。農業はまだ農地所有がしっかりしているから、おいそれと企業の手には渡らない。それを漁業権は5年あるいは10年毎に更新され知事の許可を得なければならない。ただでさえ不安定なのに「適切に有効利用」されていないといって許可されない恐れがあるとなると、漁業の後継者はますます二の足を踏むことになる。漁業後継者数は50年前の1965年には61.2万人だったが、2017年は15.3万人と4分の1以下となり、この10年内でも3割も減っている。

 共同体に依拠した(Community-based)資源管理システムとして世界の資源学者が、高く評価されている仕組みを台無しにしようとしているのである。こんな荒っぽく世界の潮流と違う方向に行っている国は、世界中で日本だけである。

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