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日産前会長・金商法違反事件-退任後報酬の記載義務等について

今週は武田薬品さんとアルパインさんで注目すべき臨時株主総会が開催されますが、もうすこしだけ日産さんの話題についてコメントさせていただきます。今週末は全国紙のほとんどで「ゴーン容疑者 退任後の報酬記載義務で検察、容疑者対立」なる見出しの記事が掲載されていました。論点についても、有価証券報告書虚偽記載罪の構成要件の解釈と故意(違法性の認識)に絞られてきたようです。

構成要件の解釈にあたっては、平成22年3月31日金融庁公表資料「『企業内容等の開示に関する内閣府令(案)』に対するパブリックコメントに対する金融庁の考え方」が参考とされているものと思います。以下、一部抜粋しますと、

役員がその職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益であって、最近事業年度に係るもの及び最近事情年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとなったものは、最近事業年度前のいずれかの事業年度に係る有価証券報告書で開示された場合を除き、最近事業年度に係る有価証券報告書に開示するべき報酬等に該当します。

この点、現行の会計基準や同じ建付けの会社法を踏まえた実務動向等に照らせば、基本的に、最近事業年度に係る役員退職慰労金繰入額及びストックオプションの費用計上額は最近事業年度に係る報酬等に該当することが考えられます。

とあり、この金融庁の考え方からしますと、「報酬等として受ける見込みの額が明らかとなった」かどうかが、解釈に関する対立の論点とされているようです。毎年記載されていなかった10億円程度の報酬額(もしくは以前の報酬相当額)については、本日(12月2日)の日経、朝日の記事によりますとコンサルタント料や競業回避承諾料の名目で覚書が交わされていた、とのこと。このような事情から、金商法上の構成要件は充足していると検察側は認識しているそうです(あくまでも日経の記事を前提とした内容です)。

ただ、昨年来いろいろとコーポレートガバナンス上の話題になっております「相談役・顧問制度」でも明らかになりましたが、企業が社長退任後に相談役や顧問に就任してもらう理由のひとつとして「他社への移籍を一定期間防止するため」というのがありますので、ゴーン氏やケリー氏側の言い訳としては、とくに違和感はありません。

また、「社員に高額な報酬であることは開示したくなかった」とゴーン氏が証言しているようですが、これも元GE社長で「20世紀最高の経営者」と称される方も「名言・格言」として「社員が働く気をなくしてもらっては困るので、できるだけ経営者の報酬は開示しないほうがよい」と述べておられるようで(ただしネット上での確認であり、現在出典を確認中です)、その方も退任後の報酬額が後日明るみなって社会的な批判を受けておられるようなので、ゴーン氏の事例に特有の事情でもないようです。したがって、これらの事情から「報酬等として受ける見込みの額が明らか」な状況にあったといえるかどうか・・・。判断がむずかしいところです。

むしろ、ケリー氏が「金融庁に相談したら問題なし、と言われていた」という点が(どのように相談を持ち掛けていたかにもよりますが)真実だとすると、そもそも構成要件該当性が否定されてしまう可能性もありそうですね。東芝事件のときも、東芝の元経営者の方々の立件をめぐり、検察庁VS金融庁のバトルがありましたが、今回もひょっとすると解釈の相違が問題となるかもしれません。

なお、ゴーン氏は、開示義務が発生する以前は20億円をもらっていたのに、開示義務が規定された後は10億円と記載するに至ったことも報じられていますが、この点はいわゆる違法性の認識の有無(故意)に関する論点として整理すべきです。この点は先週も詳細に書きましたが、顧問料にせよ、条件付きの後払い報酬にせよ、あるいは報酬限度額を超えた報酬にせよ、会社法上は(具体的な報酬請求権が確定するためには)取締役会の承認(ゴーン氏は特別利害関係人として議決権なし)や株主総会の承認など、社内における手続が必要なので、このあたりをどう評価するのかが立件にあたっての大きな課題かと思います。

ゴーン氏は事実上のカリスマ経営者であり、実質的には「ひとりで決めることができる」と言えばそれまでですが、それでクリアできるのは構成要件該当性の問題だと思います。ゴーン氏自身が「自分で報酬はいくらでも決められる。会社法上の制約など、なんら関係ない」と証言しないかぎり、違法性の認識までクリアできるかどうかは微妙なところではないかと。ちなみに東京新聞ニュースによりますと、「覚書」には他の役員の署名もあったと報じられていますので、「ひとりで決めることができた」とは言えないような・・・・。

「私はケリー取締役にすべて任せていた(だから違法性の認識はない)」とのゴーン氏の反論はまったく通らないと思います。経営者自身の報酬に関する合意内容なので、ケリー氏任せていたとしても、なぜ違法ではないのか、きちんと合理的な説明を受けていないかぎりは違法性の認識が否定されることはないと思います。

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