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もし、介護現場にヒエラルキーを作るなら、頂点の介護スタッフを看護師と医師が支える"逆三角形"にするべきです - 「賢人論。」第77回鎌田實氏(後編)

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医師であり、作家である鎌田實氏は、他にいくつもの顔を持っている。テレビのコメンテーター、ラジオのパーソナリティー、日本チェルノブイリ連帯基金理事長、日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)代表、ピースボート水先案内人。いくつかの大学の教授でもある。そんな多彩な視点を持つ鎌田氏に、現在の介護業界が抱える問題点について伺ってみた。

取材・文/盛田栄一 撮影/遠山匠

医師と看護師と介護スタッフは互いにプロとして対等。リスペクトし合う存在のはずです

みんなの介護 鎌田さんは30年も前から地域包括ケアに取り組み、医療と介護の最前線に常に立ち続けてきました。鎌田さんの目に、今の介護の現場はどのように映っているのでしょうか。

鎌田 僕自身のポリシーとして、「健康民主主義」を推進しているという話は前編でさせていただきました。人は誰に邪魔されることなく、自分の人生・健康・生死について自由に語り、自由に選択し、自由に決定することができる、と。「健康」の前では、誰もが平等なはずです。

ところが今の介護現場を見ると、いつの間にか、いびつなヒエラルキーができてしまっているのを感じます。医師を頂点に、その下に看護師がいて、さらにその下に介護スタッフがいるというピラミッド構造ですね。

現場ではなぜか医師が威張っていて、看護師に偉そうに命令し、それを受けた看護師がさらに偉そうに介護スタッフに指示を出す。その結果、介護スタッフはヒエラルキーにおいて常に抑圧されており、その不満や鬱憤をしばしば利用者さんにぶつけてしまう…。

みんなの介護 実際、介護の現場では、介護スタッフによる数多くの虐待事件が発生しています。

鎌田 しかし、こんなヒエラルキーがあること自体、間違っていますね。健康民主主義には反するし、そもそも、医師と看護師と介護スタッフはお互いにプロとして対等であり、互いにリスペクトすべき存在のはずですから。

もし、どうしてもヒエラルキーを作りたいのであれば、現場で一番汗を流し、現場で一番利用者さんの役に立っている介護スタッフを最上位に置くべき。つまり、逆三角形のピラミッドにならなければいけません。

この考え方を僕は「逆三角形の理論」と呼んでいます。もちろん、介護スタッフのさらにその上に、利用者さんがいるわけですが。

介護の現場では、どんな問題に対してもまず介護の人たちが対応し、何か困ったことがあれば看護師が応援にいき、さらに難しい状況に陥ったときに医師が出ていく。介護スタッフを下から看護師が支え、さらに医師が支える構造ですね。

医療と看護と介護の間でもう少し風通しが良くなっていって、お互いにリスペクトしつつ、もっと柔軟にいろいろやり取りできる関係になれば、介護の仕事ももっと楽しくできるはずなんです。

人の人生とは“いかに自由になれるか”を追求すること

みんなの介護 暴力事件にまで発展するケースはさすがに少ないものの、何らかの形で利用者を拘束してしまうケースが介護の現場ではときどき見受けられます。これについてはどのようにお考えですか?

鎌田 僕が自分の70年の人生をかけてやってきたことは、自分にしろ他人にしろ、「人はいかに自由になれるかを追求する」こと。僕自身、いつでも自由でありたいし、人は誰でも自由に振る舞えるべきです。だから物理的にも、また心理的にも、人を何かで縛り付けることは大嫌いですね。

介護施設の利用者のなかには認知症の人もいるし、何らかの精神疾患を抱えている人もいます。そういう人は、手足を拘束しなければ点滴や酸素吸入のチューブを勝手に抜いてしまうかもしれない。

しかし、たとえそういう患者さんであっても、手足を拘束することは、やはりあってはならないと考えます。医療・看護・介護のプロであれば、何とか拘束せずに済ませられる方法を考え出すべきではないでしょうか。

みんなの介護 鎌田さんの病院や関連の介護施設では、患者さんや利用者さんが拘束されないよう、どのように対策しているのですか。

鎌田 僕が院長を務めていた頃は、できるだけ多くのボランティアを受け入れるようにしていました。

病院の庭を管理し、季節の草花を育ててくれるグリーンボランティアや、正面玄関付近で来院者を案内するロビーボランティア、緩和ケア病棟で患者さんの話し相手になってくれるホスピスボランティア、などなど。そうやって数多くの市民の目を入れることで、病院内で行われているさまざまな業務の透明性を担保しようと考えました。

しかし、時代は変わりましたね。あれから15年近く経った今日では、病院内の有志による「3D回診」なるものが行われるようになりました。

みんなの介護 3D回診とはどういうものでしょうか。

鎌田 3Dとは、頭文字にDの付く3つの症状Dementia(認知症)、Depression(うつ病)、Delirium(せん妄)を指します。いずれも、病状が悪化すると自傷他害の恐れが出てくるため、拘束されやすい疾病といえます。そこで、これらの症状のある人が実際に拘束されていないか、病院内をくまなく見て回るのが3D回診です。

先日、ある看護師に「カマタ先生も一緒に見にいきませんか?」と誘われ、初めてその実態を知りました。僕が院長職を退いてから随分経ちますが、今の若い人たちも拘束は良くないと考え、その予防策を自主的に考えてくれていたんですね。自由を尊重する風土は確実に受け継がれているのだと知って、嬉しくなりました。

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