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入居者さんのご家族は自分の介護に自信が持てないもの。それに気づかってあげられると、リハビリはもっとうまくいきます - 「賢人論。」第77回鎌田實氏(中編)

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医師、鎌田實は傑出した作家・文筆家でもある。作家として言葉を大切にしているだけに、医療現場で交わされる医師や看護師の言葉にも鋭敏。2009年刊行の著書『言葉で治療する』では、患者さんの悲痛な叫びを生む医師の無神経な言葉に対して舌鋒鋭く論じている。そんな鎌田氏に、介護の現場で交わされる言葉はどのように聞こえているのだろうか。

取材・文/盛田栄一 撮影/遠山匠

目と目を合わせるのがコミュニケーションの基本。でも、あえて目線を外すこともあります

みんなの介護 鎌田さんは『言葉で治療する』(朝日新聞出版)の中で、「病にかかったとき、患者さんと家族は医師や看護師からかけられる言葉しだいで、治療を受ける日々が天国にも地獄にもなる」と書かれています。介護の現場において、言葉はどのような役割を担っているのでしょうか。

鎌田 言葉だけでなく、言葉を含めたコミュニケーションはとても重要です。特に若い研修医の先生には、コミュニケーションの大切さを説くことが多いですね。

僕は、若い研修医と緩和ケア病棟を回診したり、患者さんの自宅に往診したりしますが、ケア病棟や患者さんのご自宅に入るときは、「おはようございます!」「こんにちは!」と、明るく元気に挨拶するよう指導しています。「自分が来ましたよ」と告げることで、患者さんやお年寄りの注意をうながし、まず安心してもらいたいからです。

会話するときの“位置関係”も意外に重要です。

ベッドに寝ている人に、こちらが立ったまま話しかけると、どうしても上から見下ろしながら話すことになり、何となく上下関係ができてしまう。だから、ベッドに寝ている人に話しかける場合は、腰をかがめたり、椅子に座るなどして、目線の高さを相手に合わせることがポイント。特に、相手が認知症患者の場合は、真正面から相手の目を見ながらゆっくり近づくことで、こちらを認識してもらいやすくなります。

そうやって、目と目を合わせて会話するのがコミュニケーションの基本ですが、ときには、あえて目線を外しながら話すこともあります。

みんなの介護 相手の顔を見ずに会話するのですか?

鎌田 そうです。僕がよくやるのは、ベッドに座る患者さんの隣に、「ごめんね」と言いながら、並んで腰掛けること。諏訪中央病院の緩和ケア病棟からは窓の向こうに八ヶ岳がよく見える。そうやって患者さんと並んで八ヶ岳をぼーっと眺めていると、患者さんのほうから話しかけてくることが多いんですよ。

「先生、オレもいよいよ、お迎えが近いみたいだね。でもね先生、ちょっとだけ、心残りがあるんだよね…」。

そんな風に患者さんが問わず語りに話し始めたとき、こちらが元気よく相づちを打ったりしたら、そこで会話は終わってしまう。その人の聴力に合わせて、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で「何でしょう…」と、相づちを打つのがポイントなんです。

するとその患者さんは、自分の人生について、ぽつりぽつりと語り出しますから、最後まで話をしっかり聞いてあげなければなりません。そうやって、患者さんに自分の人生について語ってもらうことは、精神療法の一種としてもとても重要です。

ナラティブセラピー、またはライフレビューといって、患者さん自身が自分の人生を物語ることで、次第に癒やされ、自己肯定していき、病気や死を冷静に受け止められるようになるからです。そのように現状を受け入れられれば、その後の治療やリハビリにも前向きに取り組んでもらうことができます。

患者さんの臓器だけじゃなくて、“人間丸ごと”観察する

みんなの介護 著書の『言葉で治療する』では、患者さんの家族とのコミュニケーションも重要だと書かれていましたね。

鎌田 まさにその通りです。回診のとき、病室に患者さんの家族や友人が居合わせたときこそ、患者さんとの信頼関係を築くチャンス。そんなときは、家族や友人に必ず声を掛けるよう、若い研修医たちには伝えています。少なくとも、「患者さん7:家族3」の割合で声を掛けるのが望ましいですね。掛ける言葉は何でも良いですが、できれば、家族や友人の労をねぎらう言葉がベストです。

患者さんの家族は、患者さんへの接し方が間違っていないか、常に不安に思っています。

介護施設の入居者さんの家族も同様に、自分の介護の仕方が正しいのかどうか、いまひとつ自信が持てない。そんなとき、誰かから評価されれば、自分の看病や介護のやり方に自信が持てるし、患者さんや入居者さんにより積極的に関わることができるようになる。それが結果的に、患者さんの治療やリハビリに良い効果をもたらします。

みんなの介護 家族に話しかけると、患者さん本人との関係も良くなるんですか。

鎌田 良くなります。むしろ、こちらの効果のほうが大きいかもしれません。病院や介護施設のスタッフが、患者さんや入居者さんを気遣って声を掛けるのは、ある意味当然のこと。患者さん自身も、そう思っています。でも、家族や友人にまで声を掛けることは当たり前のことではありませんね。

にもかかわらず、忙しい合間に家族や友人に声を掛けてくれたとすれば、「この看護師さんは、ウチの嫁にまで気を遣ってくれた!」と、一気に親近感が増すものです。ときには、家族に一言声を掛けただけで、反抗的だった患者さんの態度が一変するケースもあります。

また、普段はあまり顔を見せない友人知人が訪ねてきたときは、患者さんの知られざる一面を知るチャンスになります。研修医の人たちには、「患者さんの臓器だけでなく、人間丸ごと観察するんだぞ」とよく言っていますね。

この人はどういう青春時代を過ごし、どんな仕事で頑張ってきたのか。

また、どんな趣味に没頭し、何を大事にして生きてきたのか。

「昔は相当ヤンチャだったみたいですね」「私も以前はよくその町に遊びにいっていました」などと声を掛けながら、かつての人間関係を上手に復活させてあげれば、患者さんのなかに、もう一度生きる力が湧いてくるものです。

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