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騒音がすべて耳に入る感覚過敏を理解されず、部活でも居場所を失い自殺を図る。大学ではアカハラとアウティングを受けて中退〜一希の場合・生きづらさを感じる人々22

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写真AC

一希(仮名、21)とは上野公園内にある喫茶店で待ち合わせた。生きづらさや自殺について調べていたときに、筆者を知り、拙著を読んだという。Twitterのダイレクトメッセージを通じて連絡があり、取材をすることになった。

公園内の喫茶店は一希からの指定だったが、満席。別の店に移動することになった。その店は雑音が多く、発達障害で感覚過敏な一希には都合の良いわけではない。ただ、移動するのにもエネルギーを使うので、この店舗ですることになった。

感覚過敏のため、雑音には耐えられない

一希は南九州の全日制高校に通っていたが、一年生の終わりごろ、教室の近くでエレベーター工事が始まった。同級生の中に持病を抱えた人がおり、階段がなくても上り下りができるようにするための配慮からだ。しかし、工事が始めると雑音が大きくなり、感覚過敏の一希にとって環境が悪化した。

「環境の変化に弱いので、こうした雑音には耐えられない。物理的に安心な場所でははなくなる」

発達障害の人は感覚過敏になる場合がある。周囲の情報を過剰に受け取ってしまうのだ。障害がない人は、必要のない情報を聞こえないように自然に仕分けをしているが、感覚過敏になると、耳にからすべての音が入ってしまう。例えば、隣にクラスで英語の授業があると、席順のためもあり、その授業の音を耳で拾ってしまっていた。

一希は小学校4年生のころテストを受け、発達障害と診断された。5年生の時、母親から知らされた。当初は特に困難さは感じないで済んでいたが、中学の頃になって、コミュニケーションに困難さを感じるようになった。

さらに、高校で一希は雑音を拾うことで精神的苦痛を受ける。また、教師から不当な扱いを受ける。ノイズキャンリングヘッドホンの使用許可を得ようとしたが、「我慢しろ」の一点張り。しかも、工事がなかなか終わらない。

「入札をミスしたということで、エレベーターがなかなか完成しない。学年主任の先生に相談をすると、『病気で苦しむ人がいることをわかっているのか?』とか、『お前は(情報過敏なだけで)命に関わらないだろう』とも言われた。担任は理解はあるんですが、学校と僕との間で板挟み。2年生のときは絶望的だった」
普段から身につけている、ノイズキャンセリングヘッドホン(手前)とレインボー色のリストバンド


成績は低下。毎日疲弊していく

工事の前まで、一希の成績は上位だった。学校では中位だったが、全国模試では学年で8位になったこともある。そのため、「このまま行けば九州大にいけるかどうか」という偏差値のラインだった。それがエレベーター工事によって集中力を欠き、300番台までに落ち込んだ。このころから徐々に追い詰められていった。一希は吹奏楽部に入ってるため、こうも言われた。

「吹奏楽部だろ!騒音くらい我慢できるだろ」

しかし、楽器が奏でる音と騒音とでは意味が違う。

「楽器の音は不協和音で済む。ある程度、想定できる音ならいいが、予期せぬ音が苦手だ」

こうして、毎日のように疲弊していく。

また、部活動でも不当な扱いを受けたと感じる出来事があった。一希は吹奏楽部員だ。3年生が部活動をやめて、代替わりをするのが8月。2年生には役割を与えられるが、一希だけには役は与えられなかった。雑用だけを押し付けられた。

「自分はプロに混ざってセッションしたことがある。その経験もあったのに自分だけ不当な扱いを受けた」

居場所がないと、自殺を図る。病院に入院して死を考える

実は、理不尽な対応はこれが初めてではない。1年生のころ、学校指定の留学先を希望できるが、「発達障害」を理由に拒否され、留学できなかった。理不尽なことが積み重なり、苦しくなった一希は、8月ごろ、パニック状態となった。

「学業も部活も限界だった。居場所がない、居場所が欲しい。もう『死のう』と思った。今思えば、"ここじゃない世界"に行きたかった。『死にたい』とか『消えたい』というよりは、『ここじゃないどこかへ』という感じだった」

こうしたプレッシャーがあっても、山に行き、自分が担当する楽器を吹いていた。そんな時間によって心の安定を保っていたが、それでもバランスは崩れた。8月、校舎3階から飛び降り自殺を図った。一命はとりとめた。

12月になると、修学旅行があった。そこでは寝ているところに布団に雪を入れられたりしていた。いじめだと感じていた。1年生のころも、いじめではないかと思ったことがあった。学級委員長を押し付けられたり、「ぐれた委員長」と言われたり、蹴られたこともあった、という。

しかも、まだエレベーター工事が終わっていない。限界を迎えることになる。

1月、一希は病院に入院した。入院先で何度も「死のう」と思った。しかし、管理はされているし、誰とも連絡ができない状態だった。

学校から自主退学を勧められ、通信制高校へ、そこで居場所を見つける

3月には試験的に登校をするようになったが、副校長からは「今まで取った単位は認めるから出て行ってくれ」と自主退学を勧められた。結局、3年からは通信制高校に在籍することになる。

こうした流れから、一希は将来は不安を感じていく。ただ、唯一、救いだったことがある。東京大学の先端科学研究センターのロボット開発に携わるチャンスを得たからだ。ネットサーフィンをしていると、「未来のエジソンを発掘しよう」というプロジェクト「異才発掘プロジェクト」を見つけた。

「年度をまたいだあたりから、副校長に『転校を』と言われていた。自分は『ふざけんな!』と言ったが、『立場をわきまえなさい』と返され、転校するしか学ぶ道がないと思った。ただ、ネットでこのプロジェクトを見つけた。中学生が対象だったが、高校生はサブメンバーになった。通信制高校ではほとんど自分のために時間を費やした」

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