記事

アタマが良くてマーケットがわかる人しか稼げない社会は「要らない」。

2/2

【そんな社会を許して構わないんですか?】

 現状がこうである、と分析するのはいい。
 だが、その現状を是とするか非とするかは、また別の問題である。

 日本は資本主義の国であるとともに民主主義の国でもある。
 
 成人すべてに投票する権利が与えられ、デモクラティックに意思決定が進んでいく日本において、そんな、ごく少数の人間だけが資本主義の果実のいちばんおいしいところを持っていってしまう社会をしかと認識し、それをそのままにしておく道理はあるものだろうか。
 
 アタマが良くてマーケティングのわかる少数派にとって、21世紀の資本主義状況は天国も同然である。グローバリゼーションは、アタマが良くてマーケティングのわかる少数派にとってうってつけの状況を提供している。
 
 だが、国民の大半はそんなにアタマは良くないし、マーケティング適性も持ち合わせていないのである。そして高騰する大学教育が暗に示しているように、高度なスキルを次世代に授けるためのハードルも高くなりつつある。次世代に高度なスキルを易々と身に付けさせられるのは、すでに高度なスキルやマーケティングセンスを手中におさめた少数派の家庭だけだ。もし、政府なり財界なりが高度なスキルの人材が欲しいというのなら、低収入の家庭の子女が高度な教育を受けやすいようなパスウェイの整備に予算と情熱を傾けるべきだろうに、実際にはまったくそうなっていない。"下流"的な家庭からアタマが良くてマーケティングセンスにも恵まれた人材を輩出することは、昭和時代よりも困難になっている。
 
 だったら革命しかない!
 
 ……というのは冗談としても、この民主主義の国において、ごく少数の人間だけが資本主義の果実を堪能し、大多数の人がそれを指をくわえてみているしかない状況は、かなりおかしい。少なくとも、中流的な生活が困難になる人がドシドシ増えざるを得ない状況を静観するばかりで、それが世間だと開き直る人々ばかりの社会状況を是とするのは奇妙なことのように私には思える。
 
 これは、民意が反映されていない状況ではないだろうか。
 
 もちろん、民意が反映されれば万事うまくいくというわけではない。アタマが良くてマーケティングのわかるような人々の言うとおりにしたほうが、国民全体のGDPが上昇する、といったことはあるかもしれない。でもって、アタマが良くてマーケティングのわかるような人々はプレゼン能力にも優れているから、「自分たちの言うことをきかないと結果として国全体が貧しくなって、あなた達はもっと貧しくなるんですよ」的なことを滔々と語ってみせるだろう。今、流行のエビデンスというボキャブラリーを交えながら。
 
 だが、国全体が貧しくなるかどうかなんて、大多数の人は興味の無いことである。ましてや、「事業」をやってのけられる人々の都合を気に掛ける必要性なんてどこにもない。大多数の人が気に掛けるのは、自分や自分の周りが豊かと感じられているかどうか、そして「自分が決してなりようのない連中」との差異、あとは「連中」が自分たちのことを大切にしているか馬鹿にしているか、である。
 
 EU離脱したイギリスやトランプ大統領が当選したアメリカで起こったことの一側面は、「アタマが良くてマーケティングのわかる人々」にとって都合の良い政治状況や社会状況に対する「そんな社会は要らない」というメッセージではなかったか。
 
 英米の有権者の選択が、最終的にそれらの国の大多数への福音になるのかは、私にはわからない。しかし民主主義を良いものとみなす限りにおいて、有権者にはそのような選択をする権利があり、それらの選択はやはり尊い。そして日本国民だって本当はそうしたって構わないはずなのだ。
 
 私はいちおう医者だから、「アタマが良くてマーケティングのわかる人々」にとって都合の良い社会でもなんとか生きていけるだろう。むしろ、この筋のブルジョワ社会化がますます徹底してくれたほうが、私のような立場は社会適応しやすくなるはずである。
 
 だが、そのような社会が大多数にとって望ましいものだとは思えない。資本主義の果実がもっと広い裾野に広がって、中産階級的な人々が増えることを多くの人が期待しているなら、そのために声をあげても構わないのが民主主義ではなかったか。
 
 21世紀の資本主義の現状を醒めた目で分析した後、私達はどう考え、どう立ち回るべきなのか。
 
 アタマが良くてマーケティングのわかる人々だけがおいしい果実をむさぼり、そうでない大多数が貧困に甘んじることの是非について、少なくとも英米の大多数と同じぐらいには日本の大多数も声をあげていいのではないだろうか。ごく少数の人間だけが稼げて、そうでない大多数が低収入に甘んじるしかない社会に、「そんな社会は要らない」というメッセージを出していっていいのではないだろうか。
 
 たとえそれが、英米で起こったこと同様に、相応の副作用を伴うものだとしても。
 
 現状を現状として分析するのは分析家の仕事だ。
 
 だが、現状を分析した後、その現状の是非について考えるのは、政治家の仕事であり、ひいては、有権者である私達の責務である。だから一有権者としての私は、高スキルでマーケットがわかる人しか稼げない社会に対して、「そんな社会は要らない」と声をあげておきたい。少なくとも、稼げない大多数が世代再生産もままならない状況へと追いやられその前提のもと、ごく一部のアタマが良くてマーケットのわかる人々が大多数を静観しているような社会には、それっておかしいんじゃないかと考える一人でいたいと思う。

あわせて読みたい

「格差社会」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    都知事がアラビア語拒否した顛末

    上田令子(東京都議会議員江戸川区選出)

  2. 2

    報ステの富川アナが嫌われるワケ

    渡邉裕二

  3. 3

    倉持由香 誹謗中傷で弁護士依頼

    倉持由香

  4. 4

    米の「韓国切り」で文政権ピンチ

    PRESIDENT Online

  5. 5

    コロナで航空優待券が驚きの価格

    PRESIDENT Online

  6. 6

    米スーパーで合法的万引き状態か

    後藤文俊

  7. 7

    コロナ感染と減収 苦難抱えるCA

    小林ゆうこ

  8. 8

    小池知事 カギは卒業証書の現物

    郷原信郎

  9. 9

    コロナで露呈 日本の構造的問題

    ヒロ

  10. 10

    リアリティ番組 海外相次ぎ自殺

    田近昌也

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。