記事

【読書感想】麻原彰晃の誕生

1/2


麻原彰晃の誕生 (新潮文庫)


Kindle版もあります(以前に出た新書版をKindle化したものです)


麻原彰晃の誕生 (文春新書)

内容紹介
少年は熊本の寒村に生まれた。目に障害を抱え盲学校に進んだ彼は、毛沢東や田中角栄に心酔。数々の挫折を経て上京し、鍼灸や漢方薬で詐欺まがいの商売を行った後に出会ったのが宗教だった。やがて超能力を増幅させるという金属を手に入れて、“尊師”として多くの孤独な若者たちを吸引。狂気の道へと転落していく──「怪物」として処刑された男の等身大の姿を丹念な取材で描き出した「伝記」。

 麻原彰晃こと松本智津夫という人間は「怪物」だったのか、それとも「凡庸な悪」だったのか。

 この本、もともとは2006年に文春新書として上梓されたもので、麻原死刑囚の刑が執行されたこと、そして、平成も終わりということもあって、今回、文庫になったようです。

 著者は、「オウム真理教が宗教法人となり、大きな教団となってからの『麻原彰晃』ではなく、それ以前、松本智津夫が麻原彰晃になるまで」を関係者に丹念に取材して書いているのです。

 あんな大事件を起こした人間は、どんな幼少期をおくってきたのか?

 麻原彰晃は、生まれつき、極悪人だったのか、それとも、環境が、あんな怪物を生み出してしまったのであって、同じような場所に置かれれば、みんな、ああなってしまうのか?

 僕はこの本を読みながら、そのことをずっと考えていたのです。
 でも、読み終えても、結論を出すことができなくて。

 「いずれは目が見えなくなることが予想されているけれど、今は目が見える状態」で、家庭の事情もあって、盲学校に通うことになった少年・松本智津夫。

 幼児期に刻印された精神の傷は、大人になっても消えるどころか増幅されていったようだ。自分のしでかしたことについては蓋をしたまま、傷つけられた悔しさばかりが智津夫の胸を蝕んでいる。

 智津夫はこのようなことも西山祥雲に話している。

「スイカなんか盗んでいないのに、親父は私をスイカ泥棒だと決めつけたことがありました。おまえがやったんだと言われて、こてんぱんに殴られたあげく、もうおまえはこの家には置いとけん、どこかにあずけるしかないと言われたんです。そうやって私を家から追い出す理由を、親父はつくっていったんですよ」

 智津夫の話の内容が事実なのかどうか、そのまま信じるわけにはいかないが、ひとつだけはっきり言えることは、「幼くして親に捨てられた」という意識を強く懐(いだ)いたということである。

 将来への不安とともに、目が見えない人々のなかで、ひとり「見える」という優越感ともどかしさ、親に見捨てられた、という疎外感が、彼の幼少期を覆っていたのです。

 盲学校い古くからつとめ、(松本)兄弟をよく知る元教師は、つぎのように語る。

「盲学校の生徒には、大なり小なり社会にたいする憤りや、被害者意識、劣等感があるんです。しかし、ふつうの生徒はそんなことは口にせずに、社会に協力していこうという気持ちをもっていた。ところが、智津夫には、それがなかった。自分のために、まわりを利用しようという意識ばかりがあった。社会の常識は、自分の敵だと思うとった。そして長兄にくらべて智津夫には、人の上に立ちたいという名誉欲が人一倍強くありました」

 同様の話は、複数の元教師や現職の教師からも聞かれた。
 松本少年は、きわめて独善的で、自分が見えることを利用して、周囲の子どもを支配しつつも、自分より強い立場の人間には「可愛げ」を発揮していました。

 ただ、そういう人間というのは、そんなに珍しい存在ではないですよね。

 子どもには、子どもなりの「ずるさ」や「生存戦略」があるというのは、僕自身の記憶をたどってみても思い当たるところはたくさんありますし。

 東大を受ける、と吹聴して東京に出てきたものの、そんなに熱心に受験勉強に打ち込んだわけでもなく、鍼灸師として働いたり、「変な薬」を売って摘発されたりという生活をつづけていた松本智津夫なのですが、ヨガ教室をはじめたことがきっかけで、「宗教的なもの」にハマっていくことになるのです。

 あの「空中浮揚の写真」が撮られた経緯についても紹介されているのですが、当事者の話からすると、当時からきわめて怪しいものだったみたいなんですよ。浮いた、というより、足の力を使って一瞬飛び上がっただけ。

 でも、取材した側も、まさかこんなことになるとは思わずに、「ネタ」として雑誌に載せ、周りの信者たちも、内心苦笑しながらも「これはおかしい」と言い出すことはできなかった。

あわせて読みたい

「オウム真理教」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    山本太郎氏が社民党に引導渡す日

    やまもといちろう

  2. 2

    元駐日大使「責任は韓国政府に」

    文春オンライン

  3. 3

    輸出規制めぐり文在寅氏に焦りか

    AbemaTIMES

  4. 4

    人気店の予約が取れないカラクリ

    内藤忍

  5. 5

    韓国で不買運動 ユニクロも打撃

    文春オンライン

  6. 6

    ジャニ圧力は弱腰テレビ局の忖度

    渡邉裕二

  7. 7

    陸上スーパー女子高生なぜ消える

    PRESIDENT Online

  8. 8

    007起用の黒人女性めぐる勘違い

    諌山裕

  9. 9

    高収入の夫 変わらぬ古い価値観

    文春オンライン

  10. 10

    TV局がツイート謝罪で失った信頼

    孝好

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。