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日産・金商法違反事件-未確定報酬の後払いと違法性の認識

昨日(11月27日)の産経新聞「正論」では、早大の上村教授による「ゴーン事件は日本に何を問うか」と題する論稿が掲載されており、上村先生は冒頭「日産のゴーン会長については、さまざまな論評がなされているが、法的な問題を押さえない話が横行しているかに見える」と述べておられます。というわけで(?)、また少しばかり(拙いながらも)法的な問題に触れておきたいと思います。

本日(11月28日)の産経新聞朝刊では、前会長の金商法違反容疑事件で揺れる日産は企業統治改革の一環として「指名委員会等設置会社」への移行を検討している、と報じられています。指名委員会、報酬委員会、監査委員会を必須の機関とすることにより、代表取締役の業務執行の監督機能を強化することが狙いとのこと。ただ、移行のためには株主総会において定款変更(特別決議)が必要なので、ルノー社との協議次第、といったところでしょうね。

なお、いつも拝読している梅本剛正教授(甲南大学)のブログで、日産事例と最近のオリンパス事例を比較して、両事件に対する機関投資家の関心について分析をされておられます。まさに正鵠を得た意見だと感じました。私も梅本先生と同じことを考えていたのですが、諸事情ございまして(笑)、オリンパスの件はコメントできない立場なので、ぜひとも梅本先生のブログをお読みいただければと画像を見る画像を見る。日産の件も、ゴーン氏がどうのこうの・・・ということよりも「これからのアライアンス」にこそ、機関投資家の関心が向いているのですよね。

ところで(ここからが法的な問題になりますが)、各紙報じるところでは、ゴーン氏の刑事責任の追及にあたり、同氏が有価証券報告書の虚偽記載罪について、違法性に関する認識の成否(故意の立証)が争点になる、といった論調が目立ってきました。ゴーン氏の報酬の半分程度は後払いによって日産が支払う旨の合意書が存在していることは事実のようですが、当該合意書によって退任後報酬の金額は確定しているので報告書への記載義務があるのか、それとも未確定なので合意書締結の時点では後払い分を開示する必要はないと考えるべきなのか、といったところで検察と前会長らとの主張が対立しているそうです。この主張の対立は金商法違反行為の解釈に関するものですが、違法性の認識、という争点を考えるにあたっては、会社法に関連する論点も検討しておくべきではないでしょうか。

前にも述べた通り、報酬後払いに関する合意書の具体的な内容がわかりませんので確かなことは言えませんが、「支払方法だけが未確定」ということであれば、退任後報酬の金額は確定しているわけですから、これは報告書記載義務がすでに発生しているといえそうです。仮に(支払方法だけでなく)退任後の報酬金額自体が未確定、あるいは権利行使条件が付されているということであれば、たしかに記載義務はないようにも思えます。ちなみに本日の読売新聞などを読んでおりますと、後払い報酬の受け取り方法はまだ決まっておらず、日産所有の高額絵画で受け取る方法や顧問料の上乗せによって受け取るなどの取り決めが文書化されていた、といった新事実が報じられていました。

こういった記事では前会長の金商法違反に関する根拠事実が示されているわけですが、冒頭の産経「正論」にて上村先生が「ゴーン氏は企業法制をなめきっている」と強調されるとおり、会社法の視点からもいろいろと問題点を指摘できそうです。「ん?会社法のルールって、そんなに簡単に無視していいの?」といった問題です。

まずひとつめが未確定報酬ということであれば、別途株主総会の承認決議がとられているのだろうか--会社法361条1項との関係--という点です。金額の確定した報酬であれば、上限枠(本件では29億9000万円の限度内)の承認は得られておりますので、その範囲内で(取締役会の再一任がある以上)ゴーン氏の判断で具体的な報酬額を決定することもできます。しかし、後払い報酬の金額が未だ確定していないとなりますと、別途具体的な算定方法について(そのような算定方法を相当とする理由を説明したうえで)承認決議が必要ではないかと。しかし、そのような決議はインセンティブ受領権(SAR)による報酬分しか決議はとられていません。また現金以外の報酬(絵画)を受け取るのであれば、これも別途株主総会の承認が必要になります。ゴーン氏やケリー氏の主張を前提とするのであれば、このような会社法違反の点をどう評価すべきか・・・といった問題です。

ふたつめの問題として退職慰労金制度との関係です。退職慰労金も、取締役の職務執行上の対価(会社法361条1項柱書)と解されていますので、ゴーン氏への後払い報酬についてもこれに準じて考えてもよいのではないか、といった問題です。退職慰労金は株主総会において金額を明示せずとも「取締役会一任」で決議をしてもよいとされていますので、資金を積み立てず、後日金額を確定すれば足りるとも考えられそうです。ただ、判例の立場では、株主がどのような支給基準によって退職慰労金が支給されるのか、当該支給基準(社内ルール)が確認できる状況になければ包括委任決議は有効とはいえない、とされています。したがって、日産側とゴーン氏との合意だけでは社内ルールとは言えず、取締役会で決定した支給基準が必要なので、ゴーン氏は会社法のルールと矛盾する行動に出ているように思われます。

そして最後にゴーン氏と日産との「利益相反取引規制」に関する点です。20億という金額がすべて確定した報酬ということであれば、会社法356条の規制の問題は生じません。しかし、新聞報道にあるように、退任後に顧問契約を締結し、その顧問料の上乗せ分として報酬を支払うというものであれば、これは純粋な役員報酬ではなく、顧問料としての性格を有することになりますので、会社法が規制する「利益相反取引」に該当し、取締役会の承認が必要になるはずです。たとえ顧問契約を伴う合意ではなくても、報酬金額が未確定であり、何らかの権利行使条件をクリアしてはじめて報酬額が支払われるのであれば、これも利益相反取引に該当するものと思います。現金の代わりに絵画を受け取る・・・という合意も同様です。したがって、いずれにしても報酬額が未確定ということであれば、ゴーン氏はなぜ事前に取締役会の承認を得なかったのか・・・という点が問題になると考えます。

利益相反取引の問題は、後日、会社が合意書の無効(通説では相対的無効)を主張しうる・・・といったことも効果としては発生するのですが、そもそも報酬金額が確定していない、ということを主張するのであれば、後日確定させるためのプロセスをなぜとらなかったのか、といったところで合理的な説明が必要になり、前会長側において、そのあたりの説明がなされなければ違法性の認識に関する証拠のひとつにもなりそうな気もいたします。逆に、ゴーン氏側が無罪を主張するのであれば、あえて会社法のルールを遵守せずとも、後日に後払い報酬を受領できる根拠を示す必要があるのではないか・・・と考えます。

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